恐竜王の花嫁


 日奈子の中にも、皇牙が勝つイメージしかない。
 勝利がとても似合う人だと、そう思った。


 翌日の夕方、日奈子は皇牙のクルーザーに乗って竜ヶ島に向かう。
 いつの間にかいなくなった皇牙の姿を求めて船内を歩き回り、もっとも高い場所にあるフライブリッジを見上げた。
 螺旋階段を上がってフライブリッジへ足を踏み入れた瞬間、思わず息を呑む。
 視界のすべてが、燃えるような茜色と深く濃厚な琥珀色に染め上げられていた。
 海と空の境界線はすでに溶け合い、どこまでも続く巨大なキャンバスに、黄金色の絵具をぶちまけたかのような光景が広がっている。
 クルーザーが高い波を切り裂くたび、飛沫が舞い上がった。
 それらは夕日を浴びて宝石のように煌めく。
 風は少し冷たさを帯び始め、日奈子の髪を優しく揺らした。
「皇牙さん……」
 試合前に一人になっていた彼に、声を掛けていいのかわからない。
 それでも声を掛けずにはいられなくて……日奈子はスカートを押さえながら皇牙の前まで歩み寄った。
 太陽が海に呑み込まれるのを一人で見ていた彼に、「お邪魔してすみません」と一言謝る。
「邪魔だなんて全然……思った以上に夕日が綺麗だから、ここまで誘えばよかったと思ってたところだ。フライブリッジから見る日没の瞬間は最高だな」
「はい、本当に綺麗ですね……」
 日奈子は日没の美しさも感じていたが、それ以上に皇牙の美しさを感じていた。
 夕日を受けて光り輝く目は本物の宝石のようで、赤い虹彩は世界中のすべての宝をかき集めたかのように尊い。
 自分が捧げた血や、自分が作った料理が皇牙の血肉になっていると思うと、心から嬉しく、光栄に思った。
「皇牙さん、お願いがあります」
 日奈子は皇牙と向かい合い、心を決めて深呼吸する。
 皇牙は「なんだ?」と、いつものように微笑んでくれた。