恐竜王の花嫁


 皇牙は不敵に笑ったが、日奈子は今から緊張して仕方なかった。
 船など湖のボートくらいしか乗ったことがなかったし、移動手段がクルーザーだと思うと身構えてしまう。船酔いなどして迷惑を掛けないよう、竜王マーケットで酔い止めを買ってこようと思った。
「日奈子さん、クルーザーは初めてですか? 念のため酔い止めを御用意しました」
「わ、すでに買ってあるんですね。さすが綾人さん」
 日奈子は差しだされた酔い止めを手にして、ほっと一安心する。
「クルーザーは初めてです。湖で漕ぐやつ……白鳥のボートみたいな? あれにしか乗ったことなくて」
「白鳥のボートを漕ぐ日奈子さん、想像すると可愛いですね」
「いえ、そんな……とんでもないです」
 綾人のような美男に可愛いなどと言われると恐縮してしまい、日奈子はうつむいた。
 けれども「可愛い」の意味をはき違えている気がして、自意識過剰になってはいけないと顔を上げる。
 綾人はきっと、小動物的な可愛さを言っているのだ。
 長身の彼らから見たら小柄な自分が白鳥ボートをキコキコ漕ぐ様は、ハムスターが回し車を回す様に近いのかもしれない。
 つまり愉快という意味なのだろう。
「向こうはお前を賞品のように思っているかもしれないが、俺はお前を賞品になんか絶対しない。もし俺が負けて向こうが所有権を主張してきても、決して渡さないから安心しろ。もう二度とお前に手出しはさせない」
「はい……」
 皇牙の言葉が嬉しくて、日奈子は彼が座敷牢を壊してくれた時のことを思い返す。
 トイレで薬を嗅がされたり、スーツケースに詰められたり、勝手に服を脱がされて着替えさせられたことを思うと怖かったが、今はとにかく、皇牙の勝利を信じようと思った。
 皇牙が勝てば、あちらはアタヴィズムの所有権云々を主張できなくなる。
 皇牙は賞品ではないと言ったが、あちらから見れば自分は賞品なのだ。
「絶対、勝ってくださいね」
 日奈子は皇牙の顔を真っ直ぐに見る。
 プレッシャーを掛けてよかったのだろうかと、少し迷いながらも見つめ続けた。
 彼は口角を上げ、「もちろん勝つ」と頼もしい返事をくれる。