恐竜王の花嫁


「安心なわけがない。日奈子は今すぐ返してもらう」
「あら駄目よ、着せ替えして遊ぶ予定なんだから」
 玲華は「絶対駄目」と言いながら首を横に振ったが、皇牙は聞かなかった。
 皇一郎に向かって「鍵を寄越せ」と手を伸ばす。
 彼女が一緒でなければ帰らない──そう言いたげな目をする皇牙を、日奈子は胸が熱くなる想いで見つめていた。
 こんなところに一週間も置いておかれるなんて嫌でたまらなくて……今すぐ皇牙の腕に飛び込みたくなる。
 本当に、今すぐにでも寮に帰りたかった。
 しかし格子は太くてとても壊せそうになく、鍵が手に入らなければ出られないのは明らかだ。
 皇一郎は腕を組んで偉そうにふんぞり返っていて、皇牙がいくら言っても鍵を渡しそうに見えない。
「日奈子、奥の壁まで下がってろ」
 皇牙はいつになく低い声で言うと、つかんでいた日奈子の手を離した。
 いったい何が起きるのかわからず不安ながらに、日奈子は言われた通り座敷牢の奥まで下がる。
 次の瞬間、皇牙は格子のうち二本に両手を掛けた。
 太いそれをぐわりとつかみながら、虹彩を一際赤く輝かせる。
 明るい色の髪も揺れ、まるで蜃気楼のように彼の周りの空気が揺れ動いた。
 格子がメキメキと音を立て始め、日奈子は彼が念動力を使っていることに気づく。
 エレベーターの鏡を割ったあの力を、皇牙は今、日奈子のために使っている。
「──グ、ゥ……ッ!」
 人の姿のまま恐竜のように呻いた皇牙は、こめかみに筋を浮かべながら格子を壊す。
 彼の両手でつかまれていた二本の格子は木屑に成り果て、ぼとぼとと床に落ちた。
 まるでその二本だけが炎で焼き尽くされたかのようだった。
 跡形もなく消え去り、人一人通れるだけの隙間ができる。
「日奈子、来い!」
「……は、はい!」
 日奈子はこの隙に逃げなければと必死になり、座敷牢から抜けだした。
 振袖姿で動きにくかったが、どうにか廊下に出て皇牙の手を取ることができる。