「あらまあ、生餌の分際でそんな生意気な口を利くなんて」
「皇牙は生餌を甘やかし過ぎているようだ」
「そのようね」
皇一郎と玲華がふふふと笑うと、その後ろの廊下からざわめきが聞こえてくる。
女性達の声だった。「お待ちください!」「いけません!」と誰かを制している。
次に聞こえてきたのは「日奈子! 日奈子!」と呼ぶ声だった。
皇牙の声に間違いない。
彼が助けにきてくれたのだ。
「皇牙さん! ここです! ここにいます!」
日奈子は声を限りに叫んで、格子に飛びつく。
一ミリでも皇牙に近づきたい思いだった。
皇牙は和服の女性達の制止を振り切り、廊下を駆けてくる。
エレベーター内に閉じ込められた時のことを思いだすくらい青い顔で、「日奈子、無事か!?」と声を張り上げた。
「はい……っ、はい、無事です!」
「日奈子!」
皇牙は格子のところまで来て、その先に突きだしていた日奈子の手を握る。
手の甲を自分の頬に当てながら、「日奈子……」と悲痛な声を漏らした。
「皇牙さん……来てくれたんですね」
「当たり前だ。すまない、俺の親のせいでこんなことになって」
皇牙の手はわずかに震えていて、どんなに心配してくれたか伝わってくる。
彼は日奈子が無事であることを確認するなり、横にいる両親を睨み据えた。
「これはどういうことですか? 日奈子は俺の生餌です。強引に攫うなんて、こんな真似は許されない!」
「いや、許されるよ。私は恐竜王なのだから」
「そうよ。貴方、十七の時にこの人に負けたままじゃないの。力関係が明確な場合、弱者は強者に逆らえない。恐竜王が欲しいと言ったら、お気に入りの生餌でも差しださなきゃならないのよ。そんなことわかってるでしょう?」
「──っ、いつの時代の話をしてるんだか」
