恐竜王の花嫁


「貴方、なんだか面白いことをやっているみたいね」
 くすっと笑いながら近づいてきた玲華は、座敷牢を覗き込んでくる。
 夫の行為を諫めてくれるなら心強いが、この状況を楽しんでいる様子だった。
 自分の味方になってくれる気がしなくて、日奈子は絶望的な気持ちになる。
「あら、写真で見るよりずっと可愛いお嬢さんだこと。撫で肩で着物が似合うわ……お人形さんみたい」
 玲華は赤い唇に笑みを浮かべながら、「ねえ私の生餌にならない? 皇牙よりも好待遇でお迎えするわよ」と訊いてきた。
 答える気力を失い掛けていた日奈子は、それでもなんとか力を振り絞る。
「絶対になりません」と断った。
 この二人がいなければ皇牙は存在しないということはもちろんわかっているけれど、敬ったり感謝したりする気になれない二人だった。
 幼かった皇牙を暗いコンテナに閉じ込め、極限状態に陥らせた鬼のような親だ。
 そんな人達を敬うことなどできない。愛想笑いすらしたくない。
 ましてや彼らの生餌になるなんて、絶対にあり得ない。
「私は皇牙さんの生餌です。皇牙さんのもとに帰してください」
「それはできない相談だな。元人間の君にはわからないだろうが、竜人の社会は弱肉強食でね……自分よりも強い者に逆らってはいけないのだよ」
「そうそう、皇牙はまだ父親を抜いてはいないのよね。エイペックス級の最強選手に与えられる称号──恐竜王は、未だにこの人のものなのよ」
「恐竜王……」
 その称号に関しては雑誌を読んで知っていた。
 皇牙は人気ナンバー1選手ではあるが、皇一郎と公式戦で戦ったことがなく、栄えある恐竜王の座には皇一郎が就いていると書いてあった。
 それを見た時は、「親子だから戦わないんだろうな」とふんわり考えていたけれど、戦わないということは優劣がつけられないということで……つまりは、戦って父親に勝たない限り、皇牙は最強の選手とは言えないことになる。
「私は、誰かに所有される物ではありません。皇牙さんのところに帰ります。こんな人権侵害みたいなことはやめてください。ここから出してくださいっ」