そのうえ彼は日奈子の目の前まで来て、「大丈夫?」と手を差し伸べてくれた。
「あ……」
大きな手と長い腕の向こうにあったのは、よく知っている顔だった。
神様は不公平だと感じるくらい、特別丁寧に作られたような顔をしている。
凛々しい眉と華麗な目元、理想を完璧に形にしたような鼻筋と肉感的な唇。髪色は明るく、背は高く脚が長く、芸能人やモデルのように華やかな雰囲気の男性だ。
恐竜同士が戦うダイナ・リーグで、一番人気のスター選手──ティラノサウルス・レックス竜人の竜王院皇牙。その人に間違いない。
「怪我をしている女の子を怒鳴りつけるなんて、うちの運転手が失礼した。怖かっただろう? あとで厳しく言っておくから許してやってほしい」
「……っ、あの……すみません、私が悪いんです」
竜王院皇牙だ、信じられないけれど本物だ。
全身からどばっと汗が噴きだす感覚だった。
竜人やダイナ・リーグに興味がない日奈子でも、彼の顔はよく知っている。
皇牙は日本屈指の企業グループ──竜王グループの御曹司で、テレビCMなどにも出ているモデルでもある。彼の顔をまったく見ない日はないし、耳に心地好い美しい声も、日奈子が記憶している彼そのものだった。
「さあ、立って……念のため病院に連れて行くよ」
「──ぃ、いえ、病院なんて……大丈夫です。ちょっと擦りむいただけで……」
あまりにも有名な竜人を前にして、日奈子はふるふると首を横に振る。
こんなに立派で恰好いい人の手を握るなんて……しかもアスファルトについた手を差しだすなんて、畏れ多くてとてもできないと思った。
しかし「さあ」と言われて圧を感じる。
そうしなければこの場から逃れられない気がして、恐る恐る手を出してしまった。
初めて触れる竜人の肌。手指はとても滑らかで、温かい。
見た目通り力強く、軽々と引っ張り上げてもらうことができた。
真っ直ぐ立ったことで身長差がわかり、彼の背の高さを改めて感じる。
