二次審査から数日がたった。
机の上に置いたスマホの画面を何度もつけては消す。大丈夫、自分なりに精一杯やったんだ。
ブーッというスマホの音が部屋に響いた。急いでスマホを手に取る。期待せずには、いられなかった。
『二次審査結果のお知らせ』
いざ見ようとすると、急に怖くなってくる。「ふうっ」と息を吐いて、あたしはメールを開いた。
『慎重に選考を行った結果、今回は残念ながらーー』
…また、ダメだった。
「やっぱ、無理かー」
乾いた笑いだけが、部屋に残った。そのとき、ピコンと再びスマホが鳴る。
『澪ちゃん!結果、どうだった?』
ひよりからだった。
『ダメだったよ。そっちは?』
すぐに既読はついたものの、返信が届いたのは数分後だった。
『私もダメだったよ!でも、楽しかった』
ひよりも、落ちたんだ。
あたしはどこかホッとした。
でもすぐに、違和感に襲われる。
じゃあ、どうしてひよりは二回も踊らされたのだろうーー。
そんなことを考えていると、またピコンと音がした。画面を見ると、うさぎが踊っているスタンプが送られてきていた。
「なに、このスタンプ」
落ち込んでもなさそうだし、ひよりは嘘とかつかない。考えるのがなんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
『今回で、やめたりしないよね?』
正直、やめようかと思った。でも、可能性が見えてしまったから、その次を見たい気持ちもある。
『やめないよ』
悩んだ末、そう送った。
『良かった!また、頑張ろう』
すぐさま大袈裟にホッとしているうさぎのスタンプが送られてくる。
あたしはそのスタンプにリアクションを返して、スマホを伏せた。まだ、諦めたくない。あんなんで、終われない。あたしはジャージに着替えて、音楽を流した。
*
次の日、学校で会ったひよりはいつも通りだった。全然落ち込んでいない。そのおかげであたしもいつものテンションでいられた。
昼休みになると、「購買に行ってくるね~」とひよりはスマホをあたしの机に置いたまま、教室を出ていった。
「ちょっと、スマホ忘れてるよ!」
あたしの声は早足でパンの争奪戦へと向かったひよりには聞こえていないようだった。
手に持ったひよりのスマホを置こうとしたとき、ブーッと通知がきて暗かった画面が明るくなった。
『最終審査のご案内について』
映し出された画面はすぐに暗くなる。でも、あたしにはしっかりとその文字が見えた。
「どういうこと…」
ひよりは、二次審査落ちたって言ってたのに…。もしかして嘘をついた?でも、なんでそんなことをする必要があるのだろう。
数分後、ひよりがパンといちごミルクのパックを持って帰って来た。
「澪ちゃん、見て!買えた!」
嬉しそうに目の前の椅子に座ったひよりに、あたしは静かに問いかけた。
「…あのさ、ひよりってもしかして二次審査通過してる?」
「えっ…!してないよ!」
「嘘、つかなくていいから。ごめん、あたし見ちゃったの」
机に置いたスマホに視線を送ると、ひよりはパッとスマホを取ってメールを確認した。
「…すごいじゃん。おめでとう!」
精一杯の笑顔を向けて、ひよりに声をかける。
「ごめん、澪ちゃん…」
「ちょっと、なんで謝るのさ。嘘ついたことは許せないけど、すごいことでしょ。最終審査に行けるってのは」
本当に、羨ましい。
「うん、そうだよね。でも、ごめん」
「だからなんで謝るのさ」
「私、最終審査は辞退しようと思うんだ」
「なに言ってるの…」
ひよりはいつものように笑って、パンの袋を開けた。
「私やってみて気づいたんだけどさ、あんまり向いてないかなって思った。楽しかったのは本当だよ」
「ねぇ、それ本気でいってる?」
「うん、本気だよ。澪ちゃん、アイドルの世界を教えてくれてありがとう」
ひよりは真っ直ぐな目であたしを見る。ひよりに悪気はない。気を遣ってくれてるのもわかる。でも、あたしは今のひよりの発言がどうしても許せなかった。
「…ふざけんなよ。こっちは本気で目指してるのに」
「どうしたの、澪ちゃん」
ぼそっと声を出したあたしを、ひよりは心配そうに見つめる。
「そういうの、もういいから」
「そういうのって?」
「そうやって気を遣われるのも、優しさで嘘つくのもいいから!逆に、惨めになるじゃん」
「…ごめん」
「謝らせたいわけじゃない。ただ、あたしがずっと望んでたものをひよりは持ってるのに、それを簡単に捨てようとしたことがムカついた」
「…ごめん」
ひよりはパンを置いて、下を向く。
「あたしはさ、正直ひよりはアイドル向いてると思う。あたしなんかよりもずっと。だからさ、頑張ってほしい」
あたしは震える手で、ひよりの手をぎゅっと握った。
許さないから。逃げるなって言ったのはそっちなんだから。
「でも…」
「じゃあせめて、最終審査だけは受けてよ。そうじゃないと、あたしは納得できない」
ひよりはゆっくりと顔をあげる。
「わかった…。澪ちゃんのためにも、最終審査どんな感じだったか取材してくる」
「うん、頼んだ」
ひよりは悪いことしてないんだし、責める権利はあたしにはない。でもこの夢は、あたしの夢は、もう賞味期限切れなのかもしれない。
あたしは、冷えたご飯をそっと口に運んだ。
机の上に置いたスマホの画面を何度もつけては消す。大丈夫、自分なりに精一杯やったんだ。
ブーッというスマホの音が部屋に響いた。急いでスマホを手に取る。期待せずには、いられなかった。
『二次審査結果のお知らせ』
いざ見ようとすると、急に怖くなってくる。「ふうっ」と息を吐いて、あたしはメールを開いた。
『慎重に選考を行った結果、今回は残念ながらーー』
…また、ダメだった。
「やっぱ、無理かー」
乾いた笑いだけが、部屋に残った。そのとき、ピコンと再びスマホが鳴る。
『澪ちゃん!結果、どうだった?』
ひよりからだった。
『ダメだったよ。そっちは?』
すぐに既読はついたものの、返信が届いたのは数分後だった。
『私もダメだったよ!でも、楽しかった』
ひよりも、落ちたんだ。
あたしはどこかホッとした。
でもすぐに、違和感に襲われる。
じゃあ、どうしてひよりは二回も踊らされたのだろうーー。
そんなことを考えていると、またピコンと音がした。画面を見ると、うさぎが踊っているスタンプが送られてきていた。
「なに、このスタンプ」
落ち込んでもなさそうだし、ひよりは嘘とかつかない。考えるのがなんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
『今回で、やめたりしないよね?』
正直、やめようかと思った。でも、可能性が見えてしまったから、その次を見たい気持ちもある。
『やめないよ』
悩んだ末、そう送った。
『良かった!また、頑張ろう』
すぐさま大袈裟にホッとしているうさぎのスタンプが送られてくる。
あたしはそのスタンプにリアクションを返して、スマホを伏せた。まだ、諦めたくない。あんなんで、終われない。あたしはジャージに着替えて、音楽を流した。
*
次の日、学校で会ったひよりはいつも通りだった。全然落ち込んでいない。そのおかげであたしもいつものテンションでいられた。
昼休みになると、「購買に行ってくるね~」とひよりはスマホをあたしの机に置いたまま、教室を出ていった。
「ちょっと、スマホ忘れてるよ!」
あたしの声は早足でパンの争奪戦へと向かったひよりには聞こえていないようだった。
手に持ったひよりのスマホを置こうとしたとき、ブーッと通知がきて暗かった画面が明るくなった。
『最終審査のご案内について』
映し出された画面はすぐに暗くなる。でも、あたしにはしっかりとその文字が見えた。
「どういうこと…」
ひよりは、二次審査落ちたって言ってたのに…。もしかして嘘をついた?でも、なんでそんなことをする必要があるのだろう。
数分後、ひよりがパンといちごミルクのパックを持って帰って来た。
「澪ちゃん、見て!買えた!」
嬉しそうに目の前の椅子に座ったひよりに、あたしは静かに問いかけた。
「…あのさ、ひよりってもしかして二次審査通過してる?」
「えっ…!してないよ!」
「嘘、つかなくていいから。ごめん、あたし見ちゃったの」
机に置いたスマホに視線を送ると、ひよりはパッとスマホを取ってメールを確認した。
「…すごいじゃん。おめでとう!」
精一杯の笑顔を向けて、ひよりに声をかける。
「ごめん、澪ちゃん…」
「ちょっと、なんで謝るのさ。嘘ついたことは許せないけど、すごいことでしょ。最終審査に行けるってのは」
本当に、羨ましい。
「うん、そうだよね。でも、ごめん」
「だからなんで謝るのさ」
「私、最終審査は辞退しようと思うんだ」
「なに言ってるの…」
ひよりはいつものように笑って、パンの袋を開けた。
「私やってみて気づいたんだけどさ、あんまり向いてないかなって思った。楽しかったのは本当だよ」
「ねぇ、それ本気でいってる?」
「うん、本気だよ。澪ちゃん、アイドルの世界を教えてくれてありがとう」
ひよりは真っ直ぐな目であたしを見る。ひよりに悪気はない。気を遣ってくれてるのもわかる。でも、あたしは今のひよりの発言がどうしても許せなかった。
「…ふざけんなよ。こっちは本気で目指してるのに」
「どうしたの、澪ちゃん」
ぼそっと声を出したあたしを、ひよりは心配そうに見つめる。
「そういうの、もういいから」
「そういうのって?」
「そうやって気を遣われるのも、優しさで嘘つくのもいいから!逆に、惨めになるじゃん」
「…ごめん」
「謝らせたいわけじゃない。ただ、あたしがずっと望んでたものをひよりは持ってるのに、それを簡単に捨てようとしたことがムカついた」
「…ごめん」
ひよりはパンを置いて、下を向く。
「あたしはさ、正直ひよりはアイドル向いてると思う。あたしなんかよりもずっと。だからさ、頑張ってほしい」
あたしは震える手で、ひよりの手をぎゅっと握った。
許さないから。逃げるなって言ったのはそっちなんだから。
「でも…」
「じゃあせめて、最終審査だけは受けてよ。そうじゃないと、あたしは納得できない」
ひよりはゆっくりと顔をあげる。
「わかった…。澪ちゃんのためにも、最終審査どんな感じだったか取材してくる」
「うん、頼んだ」
ひよりは悪いことしてないんだし、責める権利はあたしにはない。でもこの夢は、あたしの夢は、もう賞味期限切れなのかもしれない。
あたしは、冷えたご飯をそっと口に運んだ。


