夢の続きは君が描いて



それから、あっという間に二次審査当日になった。

「全然、寝れなかった」

昨日早くベッドに入ったのに、緊張で目が冴えたまま朝を迎えた。

「澪ちゃんおはよう~」

準備をして家を出ると、ひよりがいつものように眩しい笑顔を向けてくれた。

「ついに本番だね~」

「なんかひより、楽しそう」

「うん!ワクワクしてる~。どんな感じだろうって」

楽観的で羨ましい。あたしなんて、今にも吐きそうなのに。電車を乗り継いで、やっと会場に着いた。会場にはたくさんの人がいる。ここにいる人たち、全員アイドルになりたいんだ。思わず手にぐっと力が入った。

「澪ちゃん、リラックスだよ」

それを見透かしたように、ひよりが声をかけてくれる。

「ここまで頑張ってきたじゃん。絶対大丈夫だよ!絶対に叶えよう。ほら、笑って!」

ひよりはあたしの背中を思い切り叩いた。

「ちょっと、力強いって!踊れなくなったらどうするの?」

「澪ちゃんなら大丈夫!這いつくばってでも踊るでしょ」

「いや、ゾンビじゃないんだから!」

受付を済ませると、一つの部屋に通される。待機している間もずっとソワソワしていた。

「澪ちゃん、これあげる」

「…なにこれ」

隣に座るひよりから、フィルム素材の栞を受け取った。

「お守り」

「お守りって、これ栞じゃん」

「これね、すごいんだよ。前に行った本屋さんで見つけたんだけどさ、空に透かすと絵が浮かび上がるの」

あたしは試しに会場の光に向かって、透かしてみた。

「何も浮かばないけど…」

「ここは少し暗いからね。外でやったら綺麗だよ」

「でも、あたしが持ってていいの?」

「もちろん!澪ちゃんのために買ったんだもん」

あたしはしばらくその栞を見ていた。うっすらと絵が描いてあるけど、ハッキリとはわからない。

「これ、何の絵なの?」

「秘密~!自分で透かしてみて」

ひよりは嬉しそうに笑っている。何回聞いても教えてくれない。

「それではオーディションを始めます。呼ばれた人は別室に移動してください」

メガネをかけた男性がそう告げた。あたしは、大切に栞を鞄にしまう。

順番に数字が呼ばれていき、左胸につけていたあたしの数字が呼ばれた。

「澪ちゃん、頑張って!」

あたしは頷いて立ち上がり、前に呼ばれた女の子たちについていった。



*




別室につくとスーツを着た審査員が並んでいる。その場で一人一人の歌唱審査とダンス審査が行われた。

胸がこれまでにないくらい音をたてる。口から心臓が出そうなくらいだった。

「次の方、お願いします」

あたしの番がまわってきた。

ここに、全部を賭けるーー。

あたしは椅子から勢いよく立ち上がった。

「中村澪です!よろしくお願いします!」

元気よく、深々と頭を下げた。

「まずは、あなたがこのオーディションに応募した理由についてお聞かせください」

「はい!テレビで見たアイドルに憧れて、自分もこんな風に誰かを笑顔にできる存在になりたいと思ったからです!」

「わかりました。それでは、歌唱からお願いします」

淡々と審査員の男性から告げられる。気合いをいれて歌う。静まり返る空間にあたしの声だけが響いた。

「それでは次、ダンスを見せてください」

男性が音楽をかけた。流れる音とともに、あたしは練習したとおりにステップを踏んだ。

「ありがとうございました」

音楽が終わり、男性がそう声をかけた。あたしは深々と頭を下げた。

「ありがとうございました!」

椅子に座って、あたしはぐっと拳を握りしめた。

くそ…、もっとできたはずなのに…。足、もつれそうになったし、声も震えてた。

「君、もう一曲踊ってくれない?」

声が聞こえて、パッと顔をあげると、あたしの目の前でダンスを披露していた子が、もう一度踊ろうとしていた。

なんで、あたしは一回で終わったのに…。

曲がかかって踊りを見た瞬間、その場の雰囲気がガラッと変わった。

すごい…。あたしとは全然違う。

指先まで洗練されたダンス。長い髪もつられて踊っているように見えた。

あたしはどっと心が重くなったまま、部屋を出る。

会場内にあったベンチに座って、ひよりが終わるのを待っていた。

考えるのは、一人だけもう一曲踊っていた女の子のこと。審査員たちは顔色を変えずに頷いていたけど、きっと受かるんだろうな。

窓から光が差し込む。あたしは、思い出したように鞄からひよりにもらったお守りを取り出した。

その光に栞を透かしてみる。

すると、綺麗な虹が現れた。

「綺麗でしょ、それ」

声のする方を見ると、そこには少し汗をかいたひよりが立っていた。

「ひより…」

「お疲れ、澪ちゃん。どうだった?」

「…別に。普通かな」

「そっか~」

ひよりはタオルで汗を拭きながら、隣に座った。

「ひよりは、どうだった?」

「私はね~。なんか二回も踊らされたよ」

「…え」

「下手だったのかな?」

「それって、ひよりだけ?」

「うん、そうだよ~」

ひよりは口を尖らせながら言う。

それって、ひよりはーー。

考えただけで、どんどん黒い感情があたしを襲う。

「帰ろっか~」

呑気に立ち上がったひよりは、鼻歌を歌いながら歩き出す。

あたしもゆっくりと立ち上がった。

さっきの光はどこに行ったんだろう。窓には影がかかって、辺りは暗くなっていた。