夢の続きは君が描いて

あの日から、二週間がたった。

ひよりとはずっと一緒だったけど、いっさい口をきかなくなった。

ひよりは別の友達と過ごしているし、あたしは誰かとつるむのが好きじゃないから、ずっと一人だった。

寂しくなんてないけど、心のなかがずっとモヤモヤしていた。

適当に鞄を置いて、大の字で寝転がる。殺風景な部屋も、二週間たてば慣れてしまった。

そろそろ、あのグッズも捨てなきゃ。

ちらっとドアの近くに置いた大きな袋を見る。

いっそのこと、ひよりに全部渡せばよかったかな。

でも、別にもういいか。関係ないんだし。

だんだんと瞼が重くなっていく。意識を手放しそうになったとき、ピコンとスマホの通知音が鳴った。

あたしはテーブルの上にあったスマホを手繰り寄せて、画面を覗いた。



【ひよりからメッセージがあります】



なんで、ひよりから…。

あの日からずっと話していないのに。

パッと起き上がり、トーク画面を開く。

「なにこれ」

そこには一つのリンクが貼られていた。

押そうか迷っていると、すぐにまたメッセージが届く。

『これ、私受けるから!』

気になって開くと、『アイドルオーディション開催!』という文字が出てきた。

なんであたしにいちいち報告するんだろ。勝手に受ければいいのに。なんだか、イライラする。

『がんばれ』

どうせ、落ちるだろうけど。なんて思いながらメッセージを送信する。すると、すぐに既読がついて、着信画面に切り替わった。

「…なに?」

『もう、澪ちゃん本当にわかりやすい!どうせ、落ちるなんて思って送ったでしょ』

なんで、バレてんの。

『澪ちゃんって、ひらがなで返してくるときは、だいたい適当な返事なんだよね。そんなことよりさ!』

ひよりの声が煩くて、スマホを耳から少し離す。

『一緒に……ない?』

「なんて?」

『だから!一緒にオーディション受けない?』

考えるよりも先に、勝手に口が動いた。

「受けない」

『…もう!じゃあさ、私がもし受かってアイドルになったら、澪ちゃんは後悔しない?』

「しない」

『そっか…』

まるで、自分が受かるとでもいうような口調に腹が立つ。そんなに、この道は甘くない。

「もういい?忙しいんだけど」

本当はやることなくて暇しているけど、これ以上ひよりと話したら、感情が爆発しそうだった。

『ごめん、澪ちゃん。本当はお願いがあって電話したの』

「…なに?」

『私に、歌とダンス教えて?』

ピンポーンと家のチャイムが鳴る。

『今、澪ちゃん家の前にいる。開けるまで、私ここにいるから』

もう、本当にひよりはめんどくさい。こうなったら、ひよりは意地でも居座り続ける。

あたしは階段を下りて、家の扉を開けた。

「やっほ。澪ちゃん」

軽く手をあげたひよりはジャージ姿だった。

「ほら、澪ちゃんも早く着替えて!公園行こ!」

促されるままあたしもジャージに着替えた。

誰もいない近所の公園につくと、ひよりがスマホで音楽をかける。

「これが課題曲らしいんだけど、私ダンスとかやったことなくてさ~」

古びたベンチの上にスマホを置いて、しゃがんで振りを確認しているひよりを見つめた。本当に、何もわかってないんだな。

「ダンスって、書類審査に通らないと見てもらえないんだよ」

あたしは後ろからそう声をかけた。

ひよりは、動画を停止して振り向く。

「でもさ、書類審査に通ったらあるってことでしょ?だったらやらないと!」

再び動画を再生するひよりにイラッとする。

「だから、無駄だって!通らなかったら意味ないんだよ。見てもらえなかったら全部、終わりなの!」

あたしはひよりのスマホを取り上げる。投げてやりたかったけど、グッと我慢した。

「澪ちゃん、そうやって否定するのやめな」

ひよりはそう言って、あたしの手からスマホを取る。

「確かに、審査に通らなかったら意味ないって思うかもしれない。でも、私は澪ちゃんを見て憧れたんだよ。澪ちゃんのおかげで、私もやってみたいって思えたの」

「…ひよりに見てもらったって、あたしは何も変わんないんだから意味ない」

「いつか変わるかもじゃん。応募しなかったら可能性はゼロだけど、応募すれば可能性はゼロじゃなくなるでしよ。私は、その可能性に賭けてみたいな」

ひよりは、スマホを操作してあたしに見せる。

「このオーディション、応募期限明日までなの。私はやってみたいから、受けるよ。澪ちゃんは、どうする?」

もう、今さら挑戦したって変わんないかもしれない。それでも、あたしはやっぱりアイドルが好きだ。

「…受ける」

あたしの言葉に、ひよりは大きく頷いた。