夢の続きは君が描いて

放課後の誰もいない教室に、夕暮れのチャイムが響き渡る。

あたしはその音を聞きながら、机の上に置いてあるしわのない一枚の紙と向き合っていた。


『希望する進路は何ですか?』


何回も目にしてきたこの質問。もう、見るだけでうんざりする。

ボールペンを手で回しながら、あたしはぼーっと空を見上げた。

「澪ちゃん、お待たせ!帰ろ~」

「委員会終わったの?」

「うん!」

教室に元気よく入ってきたひよりは、不思議そうにあたしを見た。

「澪ちゃん、何してるの?」

「進路希望の紙、書いてる」

ひよりは疑うように、あたしの机にある一枚の紙を覗き込んだ。

「あれ、昨日書いたじゃん。出さなかったの?」

「出したよ」

「あっ、もしかして私の字だってバレた?」

「ううん。ちゃんと自分で書き直した」

「そうなの?澪ちゃん偉い!…でも、だったらなんで?もしかしてニシヤマにバカにされた?」

「バカにされてはないけど、もう一枚書けって言われた」

「えっ?なんで、書き直す必要があるの?」

ひよりは持っていた鞄をドンッとあたしの机の上に置いた。その弾みで、紙がフワッと一瞬だけ浮く。

「私、先生のところに行ってくるから」

ひよりはあたしの机にある紙を奪って、教室を出ていこうとする。

「待って、ひより。違うから」

あたしの言葉にひよりは足を止めた。

「何が違うの?書き直してるってことは、ダメって言われたんでしょ」

再び歩き出すひよりの腕を、あたしは掴んだ。

「アイドルはなりたくてもなれるものじゃないから、安定した道を確保しておくのも夢を追いかけるための選択肢だって言われただけ」

あたしはひよりの手から紙を取って、席に戻る。

「…はぁ?それってさ、遠回しになれないって言われてるようなもんじゃん。澪ちゃんはそれでいいの」

なんで、それ言っちゃうの。

あたしはぎゅっと唇を噛んだ。

「…なんか澪ちゃん、変わっちゃったね」

ひよりがぼそっと呟いた声は、ガランとした教室にはよく響いた。

「昔から夢に一直線だったじゃん。安定した道なんて本当は望んでないでしょ?」

ひよりは真っ直ぐな目であたしを見つめた。

「…仕方ないじゃん。アイドルになんてなれるかわかんないんだから」

ひよりから言われなくても、気づいてた。ニシヤマからもう一枚新しい紙を渡されたとき、応援されてないってことはわかってた。

「昨日応募したオーディションでダメだったら、もうアイドルになるのは諦めるから」

「え~。なんでそんなこというの」

「ずっと追いかけててもダサいでしょ。だったらスパッとどっかでやめた方がカッコいい」

あたしはひよりの言葉を振り切るように、希望する進路の欄に『就職』と書いた。

これでいい。どうせ、今回も同じ結果なんだから。