「澪ちゃん、帰るよ~!」
ひよりは自分の席に戻って鞄を持つと、教室のドア付近で振り返り、あたしを急かした。
一緒に帰るんだ。
気分屋なひよりが何を考えているのかはいつもわからない。まぁ、小さい頃からこんな感じだから今さら驚くことはしないけど。
あたしは鞄を持って、ひよりの隣を歩く。
「今日さ、本屋に寄りたいんだけどいい?新刊出るんだよね~」
「いいよ」
特に予定もないし、そう頷くとひよりはパッと笑顔になった。
本当に、見ていて飽きない。さっきまで怒っていたなんて誰にもわからないだろう。
通学路の途中にある本屋に着くと、ひよりは一目散にライトノベルコーナーへと消えていった。
「いや、早すぎ」
いつもはおっとりしてるのに、自分の好きなもののことになると、ひよりは行動が早い。
そういうところ、ちょっとだけ羨ましかったりする。
あたしは特に見たい本もなかったので、適当に雑誌コーナーをぶらぶらした。
立ち読み禁止!なんて注意書きを見つけるけど、普通に立ち読みしている人いるし。
こんなのしても、意味ないじゃん。
あたしはそんなことを思いながら、一つの雑誌を手に取った。
今話題のアイドルが表紙を飾った情報雑誌を、ペラペラとめくる。
『アイドルオーディション開催!』
思わず、めくる手が止まった。
『あなたの夢を、ここで叶えてみませんか?』
大きく書かれた見出しが嫌でも目に入ってきた。あたしが、叶えられるわけないじゃん。何回、落ちたと思ってんの。そう思うのに、中々雑誌を閉じることができない。
「あのー」
後ろから声をかけられてハッとする。あたしは慌てて雑誌を閉じて、振り返った。
「ここ立ち読み禁止なんですけど」
青いエプロンをつけた男性店員が怪訝そうにあたしに告げる。
あっちの立ち読みしてるおじさんにも注意しろよ、と心のなかで悪態をつきながら、あたしは適当に謝罪した。
居心地が悪くなって、あたしは雑誌を持ったままその場を離れた。
これ、どうしよう。
つい咄嗟に持ってきてしまったけど、別に欲しいわけじゃないし。でも今戻ったら、あの店員いるし。
あたしは何度目かわからないため息をついて、雑誌をレジに通した。
*
「澪ちゃん、お待たせ~」
本屋の外でさっき見つけたオーディションのページを読んでいると、ひよりが紙袋を持って店から出てきた。
「なに見てるの?」
「…別に」
あたしは雑誌を閉じて、袋の中に入れる。その一連の流れを見ていたひよりはニコニコしながら口を開いた。
「もしかして、新しいオーディション見つけた?チャレンジするの?」
本当は言いたくない。だけど、嘘をついてもひよりにはいつもバレてきた。
あたしは諦めて、小さく頷く。するとひよりはパッと花が咲いたように笑顔になった。
ーーあたしよりも、アイドル向いてそう。
小さい頃からずっと思っていた。ひよりみたいな愛嬌と可愛さが、あたしにもあれば良かったのに。
「いいね、いいね!私にも協力させてよ」
ひよりが嬉しそうに隣に並ぶ。
「…協力って、別にいいよ」
そんなことされても、惨めなだけだ。あたしは、ひよりから逃げるように歩き出す。
「遠慮すんな~」
「遠慮なんてしてない。どうせ、今回もダメだろうし」
「もう、澪ちゃんネガティブすぎだって!大丈夫だよ!一緒に頑張ろ」
意気込むひよりに、何も言えなくなった。挑戦しても、思うように結果が出せない。惜しいところなんていったこともなくて、いつも書類審査で落とされることがほとんど。ネガティブになるに決まってるでしょ。
黙り込むあたしに、ひよりはいつも決まって声をかけてくれる。
「澪ちゃんは可愛いんだから、絶対アイドルになれるよ!」
ほら、今日もまた言った。
「よし!じゃあ作戦会議だ」
ひよりはいつの間にかあたしを抜かして、軽い足取りで歩いている。こうなったらひよりは絶対に引かない。
あたしはバレないようにため息を吐いて、後を追いかけた。


