夢の続きは君が描いて

なにこれ。

ひよりが、アイドルを辞める…?

あたしは急いでひよりに電話をかけた。

何度かけても、繋がらない。あたしは電話を切り、二年前で止まっているひよりとのトーク画面を開いた。

『ひより、アイドル辞めるってどういうこと』

送信ボタンを押そうとしたとき、画面が着信表示に切り替わった。

ひよりからだ。

あたしはすぐさまボタンを押して、電話に出た。

『…もしもし、澪ちゃん?』

「ちょっとひより!どういうこと!」

『ごめん』

「ごめんじゃわかんないって!」

『ちゃんと説明したいから、いつもの公園まで来てくれない?』

「え、ひより今、東京じゃないの?」

『…帰って来た。じゃあ、待ってるから』

ツーツーと電話が切れた音がする。

あたしは部屋着のまま、家を飛び出した。







*






外はもうすぐ、日が沈みそうだった。

近所の公園に着くと、ベンチに人影が見えた。

あたしはそっと近づく。

「…ひより」

「澪ちゃん、久しぶり」

ひよりはふにゃりと笑った。

「久しぶりじゃないよ!どういうこと、ちゃんと説明して!」

あたしの言葉にひよりはふふっと声を出して笑う。

「何がおかしいの?こっちは真剣に…」

「澪ちゃん、ちゃんと私のブログ見てくれてるんだなって思って」

ひよりはあたしにスマホを確認するように伝えた。あたしは言われた通り、スマホを開きSNSを確認する。

トレンドにひよりの名前はなかった。

「ブログね、電車の中で書いて、こっちについてから出したの。そしたらすぐ澪ちゃんから連絡来たからさ~」

ひよりは顔をほころばせながら話す。

「あのさ、あたしが聞きたいのはそういうことじゃないの。ひよりがアイドル辞めること、あたし聞いてない」

「ブログにも書いたけどさ、私、新しい夢ができたの」

ひよりは自分の隣をポンポンして、あたしに座るように促した。あたしは、ひよりの隣に腰を掛ける。

「アイドルになったときね、最初は本当に辞めたかった。思ってたのと違って、求められてるのと違って…。でも、澪ちゃんの分まで頑張るって決めたから…」

「…」

「でもね、こんな私のことを応援してくれる人が現れたの。その人たちが笑顔になってくれる度に、嬉しかった。どんどん、アイドルが好きになった」

「だったら、なんで」

ひよりは、いつの間にか暗くなった空を見上げて呟いた。

「…私じゃないんだよ」

ひよりの目から、一筋の涙が流れる。

「ライブで踊ってるときも、握手会のときも、アイドル活動をしてる間、いつも思い出すのは、澪ちゃんだった」

「…」

「澪ちゃんなら、どう踊るかなとか。澪ちゃんなら何て言うかなとか。そういうのばっかだったよ」

ひよりは目に涙をたくさん溜めて、あたしを見た。

「だから私にはもう、この夢は描けない。ごめんね、澪ちゃん」

なにそれ。なんで勝手に諦めるの。

「……だったら、…変わってよ」

「え…」

「そんなこというなら変わってよ!あたしは、なりたくてもアイドルになれない!なんでよ、なんでひよりはなれて、あたしはなれないの!…なんで、あたしじゃないの」

あたしの目からはボロボロと涙が溢れ落ちた。

「澪ちゃん、ちょっと落ち着いてよ」

「落ち着いてるよ!あたしだったら、そんな理由で辞めない。絶対に、辞めない!」

「でも、私にはもう無理だよ…」

「諦めないでよ!ひよりが頑張ってくれてるから、あたしはやっと諦めがついたのに」

「ごめんね、でもこれ以上私に期待しないで」

「…っ」

「それにね、私わかるよ。澪ちゃんは諦める理由を探してるだけなんだよ」

「別に、そんなんじゃない」

「…はい、これ」

ひよりは鞄の中から何かを取り出して、あたしに差し出した。

「これはやっぱり澪ちゃんが持っててよ」

手渡された虹の栞を見る。

「これ買うときね、色んな種類があったの。でも虹がいいなって思った。澪ちゃんに、こんなアイドルになってほしいって思ったの」

あたしは虹の栞をぎゅっと握りしめた。

「それにね、私には夢ができた。澪ちゃんも見てくれてたでしょ、私のブログ。『虹の栞』ってアカウントで時々コメントくれてたのも知ってたよ」

バレてたんだ…。あたしは恥ずかしくて、下を向く。

「それが、私の夢。ブログを書くときがアイドル活動をしている中で、一番自分らしくいられた。コメントつくのが嬉しくて、自分の書いた文章が誰かの支えになってることが嬉しかった。だから、私はその道にいきたい」

「…」

「私、小説家になりたい。だから、澪ちゃんの夢は描けない」

「でも、オーディションも年齢制限とかあるし、やっぱあたしには無理だって」

「澪ちゃん、栞はね物語を止めるの。でもね、また続きが見れるものなんだよ」

ひよりは、あたしの持っている栞を見ながら言った。

「私が栞をお守りにした理由、わかってくれた?」

ストンとあたしの胸に、その言葉が落ちた。

「ひより、…あたし」

「うん、わかってる。幼なじみだもん。この夢の続き、澪ちゃんが描いて」

あたしは、頷く。

「そしたら、ひよりはあたしの物語を書いてもいいよ」

「もちろん!」

ひよりは笑顔で頷いた。