夢の続きは君が描いて

最終審査当日の朝がやって来た。

「大丈夫?緊張してる?」

「うーん、少ししてるかな。澪ちゃんいないし。でもちゃんと情報集めてくるから安心して!」

ひよりはグッと意気込む。

ひよりの手を取って、あたしは大事なお守りを渡した。

「これ、ひよりが持ってて」

「えっ、でもこれ澪ちゃんに渡したやつだし」

「…今はあたしよりも、ひよりが持ってた方がいい。それに、あたしの想いもこめといたから」

「わかった。澪ちゃんの分まで頑張ってくるね!」

ひよりはフィルム栞を空に透かした。すると綺麗な虹が現れる。

「やっぱり、綺麗だな~。これ、澪ちゃんだと思って頑張ってくるね」

「なにそれ、怖いかも」

「ちょっと、本気で引かないでよ」

電車の走行音が響き、強い風が吹き抜けた。やがてドアが開いた。

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい!」

あたしはひよりの背中を叩いた。

「澪ちゃん、力強いよ~。踊れなかったらどうするの?」

「それはそれで面白いかも」

「ひど~」

「冗談だよ!ほら、早く行きな」

ひよりは背中を擦りながら、電車の中へと入っていった。席について、窓から手を振ってくる。

電車がそっと動き出して、ひよりはあっという間に見えなくなった。

これから、ひよりは一人で東京に行くんだ。力なく手が下がる。羨ましくて仕方がなかった。

特にやることもなくて、ブラブラと近所の公園まで歩いてきた。ベンチに座り、空を見上げる。

空は眩しいくらいに晴れていた。

どれくらいの時間、そうしていたのだろう。いつの間にか空には夕日が顔を出していた。

ピコンと音がしてひよりから『終わったよ~』とメッセージが届く。

『どうだった?』

すぐに既読をつけて返信すると、着信画面に切り替わった。

「もしもし、ひより!どうだったの?」

『…澪ちゃん、私、合格したよ』

「えっ!すごいじゃん、おめでとう!」

『うん、ありがとう』

ひよりの声は小さくて、なんだか元気がない。

「どうするの?ひより…」

『澪ちゃん、ごめん…』

鼻をすする音が聞こえて、ひよりが泣いているんだとわかる。

「なんで、謝るの。あたしは最初からわかってたよ。ひよりは、受かるだろうなって。おめでとう」

『…でもアイドルは、…澪ちゃんの夢なのに…。私なんかがっ…なっていいわけないよ』

「そんなことない」

『なんで私なの…。私よりも澪ちゃんの方が、何十倍も努力してたのに…!』

「ひより、もういいから…」

『良くないよ…!これは澪ちゃんの夢なの。澪ちゃんが叶えるべきなの…!私じゃない…』

「…あたしだって、なれるならなりたかったよ」

ひよりの声が止まった。

『やっぱり、そうだよね。なりたいに決まってるよね。ごめん…』

「もう、謝らないでよ」

『でも…』

「ニシヤマも言ってたけどさ、アイドルはなりたくてなれるもんじゃないの。」

『…』

「だから、ひよりにはその夢を叶えてほしい。あたしの分まで。あたしが見れなかった景色、ひよりが確かめてきてよ」

『でも、私には向いてないって』

「それはさ、まだひよりが知らないからだよ。向いてないかとか決めるのは、舞台に立ってちゃんとアイドルになってからでもいいんじゃない?ひよりには、…それができるんだし」

言葉に詰まる。泣いちゃダメだ。ここで泣いたら、あたしが負けたみたいになる。

『わかった。私、やってみる。でも…』

ひよりは弱々しくあたしに告げた。

『澪ちゃん、やめないでね』

カラスの鳴く声が聞こえる。

これを言ったら、ひよりはきっと悲しむ。でも、もう決めたんだ。

「ひよりにね、お願いがあるの」

『なに…?』

「あたしの夢の続き、ひよりが描いて」

『なにそれ…、どういうこと?澪ちゃん、やめるってこと』

「じゃあ、そういうことだから。頑張ってね!ひよりのファン一号はあたしだから」

早口でそう告げ、一方的に電話を切った。

ひよりからまたすぐに着信がくる。でも、あたしはそれを無視した。

もう、決めたこと。…これで、いいんだ。

空はすっかり暗くなり、月が静かにあたしを見下ろしていた。