「進路調査の紙、集めるから後ろの人回収して持ってきて!」
担任のニシヤマが教壇に立って呼びかける。
あたしは頬杖をつきながら、ニシヤマの言葉を無視するように空を見ていた。
「おい、中村!お前一番後ろの席なんだから、早く回収しろ」
うるさいな。教師ってなんでこんなに偉そうなんだろう。ちらっと視線を移すと、前の席の人たちと目が合った。
こっちを見るくらいなら自分たちで勝手に出せばいいのに。本当に、めんどくさい。
あたしはガタッと大きな音をたてて立ち上がり、列の人たちの分を集めて、ニシヤマに渡した。
ニシヤマはあたしが渡した紙を受けとると、一枚ずつめくって確認していく。
「…あれ」
嫌な予感がした。
「中村、お前の分が出てないみたいだけど?」
「あー、忘れました」
「忘れたって…。仕方ないな、明日には出せよ」
「はーい」
適当に返事をして、自分の席に戻る。音をたてて座ると、またちらちらとこちらを見てくる視線を感じた。
長いホームルームが終わり、ニシヤマが教室を出ていく。解放されたように、クラスがざわざわとなった。
はぁ、早く帰ろ。
居心地の悪いこの教室から一刻も早く離れたかった。
あたしは鞄を机の上に置いて、教科書をつめる。
その途中、ぐしゃりと何かが手にあたった。思わず、顔をしかめる。指先で掴んでゆっくりと取り出すと、潰れて端の方がボロボロになった紙が出てきた。
見なくたって、何の紙かわかる。あたしは「はぁ」とため息をついて、その紙を開いた。
『希望する進路は何ですか?』
無機質に並ぶ黒い文字に嫌気がさす。こんなの、書けるわけないじゃん。こんな紙一枚で、あたしの人生、決められてたまるか。
あたしは、紙をぎゅっと握り潰す。
こんなの、捨ててやる。
「澪ちゃん、なにしてるの?」
意地になって紙を丸めていたら、ひょこっと、目の前に見慣れた顔が現れた。
「…ひより。別に、なにもしてないから」
「うそ~。すっごい紙、丸めてるじゃん。それって進路の紙でしょ?」
「そうだけど、こんなのいらない」
ひよりはあたしの手から紙をひょいっと取ると、綺麗に広げた。
「ちょっと!」
「澪ちゃん、なにも書いてないじゃん」
「…別に、書くことないし」
「なんで~。澪ちゃんには、夢があるのに。それ書けばいいじゃん!」
「あんなの書いてもバカにされるだけだし、それになれてもないのに書くのはカッコ悪いでしょ」
「そうかな~」
ひよりは首を傾げながら、隣の空いてる席に座った。
「…ひよりは、なんて書いたの」
「私は、別にやりたいことないし、普通に就職って書いたよ~」
「それで本当にいいの」
「うーん、特に夢とかないし!」
ひよりは一瞬だけ悩む素振りを見せたけど、すぐにいつものように笑った。
「澪ちゃんが書けないなら、私が書いてあげよっか?」
そう言うと、ひよりはあたしの筆箱からシャープペンを取り出して、空欄を埋めていく。
「ちょっと!やめてよ」
パッと紙を取ったけど、遅かった。
『希望する進路は何ですか?』
その質問の下には可愛らしい文字で、四文字の言葉が書かれていた。
「これじゃ、ひよりが書いたってバレバレじゃん」
「だったら、澪ちゃんが書けば~?」
ひよりはニコニコしながら、あたしにシャープペンを渡した。
「いい。あとで消すから」
あたしはシャープペンを受け取り、そのまま筆箱にしまった。
「あ~、そしたら私が何回でも書くからね!澪ちゃんが出すまで、絶対」
「やめてよ。別に、白紙で出すから」
「白紙で出すんだったら、消しても跡が残るように私、濃く書くから!」
「そしたら、破って捨てるもん」
ひよりはみるみる怒ったような表情になり、わかりやすく頬を膨らませた。そんなことしても、全然怖くない。
そんなことを思いながら、ひよりをじっと見ていると、ひよりは「わかった」と口にした。
「澪ちゃんがそれでいいなら、そうしたらいいよ!それで、本当に後悔しないなら!」
ひよりはそう言い残して、自分の席へと戻っていく。
後悔なんて、するわけない。
あたしは、いつも後悔しないように生きてるし。
だから、苦しいんじゃん。諦められないから、辛いんじゃん。
ひよりには、この気持ちは絶対にわからない。
あたしはむしゃくしゃした気持ちのまま、進路の紙を鞄の中へと突っ込んだ。
担任のニシヤマが教壇に立って呼びかける。
あたしは頬杖をつきながら、ニシヤマの言葉を無視するように空を見ていた。
「おい、中村!お前一番後ろの席なんだから、早く回収しろ」
うるさいな。教師ってなんでこんなに偉そうなんだろう。ちらっと視線を移すと、前の席の人たちと目が合った。
こっちを見るくらいなら自分たちで勝手に出せばいいのに。本当に、めんどくさい。
あたしはガタッと大きな音をたてて立ち上がり、列の人たちの分を集めて、ニシヤマに渡した。
ニシヤマはあたしが渡した紙を受けとると、一枚ずつめくって確認していく。
「…あれ」
嫌な予感がした。
「中村、お前の分が出てないみたいだけど?」
「あー、忘れました」
「忘れたって…。仕方ないな、明日には出せよ」
「はーい」
適当に返事をして、自分の席に戻る。音をたてて座ると、またちらちらとこちらを見てくる視線を感じた。
長いホームルームが終わり、ニシヤマが教室を出ていく。解放されたように、クラスがざわざわとなった。
はぁ、早く帰ろ。
居心地の悪いこの教室から一刻も早く離れたかった。
あたしは鞄を机の上に置いて、教科書をつめる。
その途中、ぐしゃりと何かが手にあたった。思わず、顔をしかめる。指先で掴んでゆっくりと取り出すと、潰れて端の方がボロボロになった紙が出てきた。
見なくたって、何の紙かわかる。あたしは「はぁ」とため息をついて、その紙を開いた。
『希望する進路は何ですか?』
無機質に並ぶ黒い文字に嫌気がさす。こんなの、書けるわけないじゃん。こんな紙一枚で、あたしの人生、決められてたまるか。
あたしは、紙をぎゅっと握り潰す。
こんなの、捨ててやる。
「澪ちゃん、なにしてるの?」
意地になって紙を丸めていたら、ひょこっと、目の前に見慣れた顔が現れた。
「…ひより。別に、なにもしてないから」
「うそ~。すっごい紙、丸めてるじゃん。それって進路の紙でしょ?」
「そうだけど、こんなのいらない」
ひよりはあたしの手から紙をひょいっと取ると、綺麗に広げた。
「ちょっと!」
「澪ちゃん、なにも書いてないじゃん」
「…別に、書くことないし」
「なんで~。澪ちゃんには、夢があるのに。それ書けばいいじゃん!」
「あんなの書いてもバカにされるだけだし、それになれてもないのに書くのはカッコ悪いでしょ」
「そうかな~」
ひよりは首を傾げながら、隣の空いてる席に座った。
「…ひよりは、なんて書いたの」
「私は、別にやりたいことないし、普通に就職って書いたよ~」
「それで本当にいいの」
「うーん、特に夢とかないし!」
ひよりは一瞬だけ悩む素振りを見せたけど、すぐにいつものように笑った。
「澪ちゃんが書けないなら、私が書いてあげよっか?」
そう言うと、ひよりはあたしの筆箱からシャープペンを取り出して、空欄を埋めていく。
「ちょっと!やめてよ」
パッと紙を取ったけど、遅かった。
『希望する進路は何ですか?』
その質問の下には可愛らしい文字で、四文字の言葉が書かれていた。
「これじゃ、ひよりが書いたってバレバレじゃん」
「だったら、澪ちゃんが書けば~?」
ひよりはニコニコしながら、あたしにシャープペンを渡した。
「いい。あとで消すから」
あたしはシャープペンを受け取り、そのまま筆箱にしまった。
「あ~、そしたら私が何回でも書くからね!澪ちゃんが出すまで、絶対」
「やめてよ。別に、白紙で出すから」
「白紙で出すんだったら、消しても跡が残るように私、濃く書くから!」
「そしたら、破って捨てるもん」
ひよりはみるみる怒ったような表情になり、わかりやすく頬を膨らませた。そんなことしても、全然怖くない。
そんなことを思いながら、ひよりをじっと見ていると、ひよりは「わかった」と口にした。
「澪ちゃんがそれでいいなら、そうしたらいいよ!それで、本当に後悔しないなら!」
ひよりはそう言い残して、自分の席へと戻っていく。
後悔なんて、するわけない。
あたしは、いつも後悔しないように生きてるし。
だから、苦しいんじゃん。諦められないから、辛いんじゃん。
ひよりには、この気持ちは絶対にわからない。
あたしはむしゃくしゃした気持ちのまま、進路の紙を鞄の中へと突っ込んだ。


