金沢おでんカフェ らくまつ ―好きが溢れるほかほかおでん―

 金沢駅の改札を抜けたとき、腕時計は十三時ちょうどを指していた。
 十月半ば。暑さは一段落していて、移動も苦にならない。
 三枝千尋(さえぐさちひろ)はホームから続く人の流れを外れて、壁際で足を止めた。待ち合わせは十四時、きっかり一時間ある。
 十時台に出発する北陸新幹線に乗れば十三時前に着くと家を出る前に三度は確かめた。昼前の便でも十分に間に合う計算だったのに、遅延や何かしらのアクシデントの可能性を考えて、早いほうを選んでいた。
 昔からそうだ。約束の時刻に遅れる自分を想像すると、みぞおちの奥が冷たくなる。早すぎるよ、と苦笑されたことも一度や二度ではなかった。
 そこまで考えて、今まで一番よく待ち合わせをしていた人物の顔がふと脳裡をよぎる。
 いつもいつも、五分以上遅れてきた相手……。
 頭を振って浮かんでいた顔を振り払い、千尋はキャリーケースの取っ手を握り直した。紺のパンツスーツの襟を整え、束ねた髪の毛先を肩から払う。
 二十七歳、都内のITコンサルティング会社・アークシスに勤めて五年目だ。今日は先輩社員である柏木恵一(かしわぎけいいち)の補佐として、ここ──金沢にある取引先へシステムの提案に来ている。
 金沢に来るのは初めてだった。プレゼンの主担当は柏木で、千尋の役目は資料の配布やデモの操作だ。
 ひとまず金沢駅構内の案内表示をたどっていくと、ガラス張りの観光案内所が目に入った。ぱっと目を引くのは金色の兜を被った人形だった。壁一面がパンフレットの棚になっていて、外国語の窓口には数人が並んでいる。
 千尋は棚からパンフレットを一部抜き取って、その場で開いた。
 見開きいっぱいに、海鮮丼の写真が載っている。器の縁からこぼれ落ちそうなほど盛られた甘海老と鮪。真ん中に乗った雲丹。どれも色鮮やかで美味しそうだ。
 次の頁には治部煮が掲載されていた。鴨と麩に、汁がたっぷりかかっている。その隣はのどぐろの塩焼き。金沢名物の高級魚である。
(美味しそう……!)
 思わず頬が緩んで、千尋は自分に少し呆れた。新幹線の中で駅弁を食べたばかりなのに、頭の中はもう夕飯のことでいっぱいになっている。
 写真の下に、近江町市場という名前と、その説明があった。江戸時代から続くこの市場は、鮮魚店や飲食店が三百近く並んでいるらしい。駅からバスで数分。添えられている地図を見ると、これから向かう取引先ともそう遠くない位置にある。
 今日の仕事は夕方までの予定で、遅くとも十八時には解放されるはずだった。東京に帰るのは明日だ。それなら、ここで夕飯を食べればいい。千尋はその頁の隅を折って、パンフレットをバッグへ落とし込んだ。
 時計を見ると、まだ十三時十五分。せっかくなので駅の外までちょっと出てみることにして、案内表示に従って歩き出す。
 コンコースは天井が高く、広々していた。両側に立つ太い木の柱が門の形に組まれていて、その内側には漆や象嵌の工芸品が嵌め込まれている。焼き物の壁が面をまるごと覆っている場所もあり、釉薬の飴色が照明を吸って鈍く光っていた。どこか和風なのは、金沢が時折『古都』と呼ばれる昔ながらの城下町だからだろうか。
 出口を抜けると、視界が一気に開けた。
 巨大なガラスの屋根が頭上を覆っている。細い鉄骨が幾何学に組まれ、その隙間から十月の光が落ちてきていた。来る前に読んだ雑誌の記事によると、この屋根は傘をイメージしていて、『もてなしドーム』というらしい。金沢は『弁当忘れても傘忘れるな』と言われるほど雨が多い土地で、訪れた観光客が濡れないように傘を差し掛ける、もてなしの心を表しているそうだ。
 その屋根の向こうに立っているのが、写真で何度も見た鼓門だった。
 実物は想像よりずっと大きい。二本の太い柱が斜めに天へ伸びて、その上に格子の屋根が乗っている。その名の通り、柱は和楽器の鼓をイメージしているようだ。
 柱の傍では、観光客が入れ替わり立ち替わり写真を撮っていた。外国人の若い二人連れがスマートフォンを差し出してきたので、千尋は受け取ってシャッターを押す。もう一枚撮りましょうか、と英語で言うと何度も礼を言われた。
 二人が立ち去ったあと、少し視界が広くなって門の脇が見えた。
 そこに立っていた人を見て、千尋ははっと目を見開いた。

(あ、素敵……!)

 着物姿の男性だった。角帯を締め、小さな風呂敷包みを抱えている。誰かを待っているのか、時折懐中時計を取り出して目を落とす。背が高く、姿勢がいい。

(素敵すぎる──着物が!)

 男性の容姿は、かなり整っていた。けれど千尋が見惚れたのは、顔よりも身に纏っている着物のほうだ。
 素敵という言葉を、千尋は滅多に使わない。だが、そうとしか言えない。
 地の色は深い茶。最初は無地だと思ったが、よく見ると全体的に細かい模様が入っている。
 牛首紬──石川県名産の織物で仕立てられた極上の着物だ。
 生地の特徴は、何とも言えない美しい光沢とハリ、そして独特の節だろう。牛首紬は二匹の蚕が入った天繭から作られる。天繭から取れた糸は太さが揃わないので、織り上がりに節が出て光沢の中に味を出す。また、生地は釘に引っ掛けても破れないことから、釘抜紬とも呼ばれている。
 着付け教室の師範をしている祖母の影響で、千尋は着物にちょっとだけ詳しい。自分で着ることだって、もちろんできる。
 学生の頃は祖母と二人、着物を纏って美術館や歌舞伎座へよく出かけたものだ。着物に関わる仕事に就きたいと思ったこともあり、呉服屋で働く自分を、実はそこそこ具体的に想像していた。
 が、給与や規模や福利厚生のことを考えて、結局入社したのは今の会社だった。
 それでも着物に触れていたくて、一人暮らしの部屋に着物などを収めた桐の箪笥を持ち込んでいる。祖母からもらった袷や付け下げ、普段着の小紋。帯や小物もみんな揃っているのに、最後に着物を着たのがいつだったか、千尋はすぐに思い出せない。
 やがて、千尋の視線に気付いたのか、男性がふいにこちらを見た。
 一瞬だけ目が合って、千尋はどきりとした。
 まじまじと眺めすぎたかもしれない。見ていたのは着物であってその人ではないけれど、妙に気恥ずかしくなる。
 改めて見てみると、男性の歳は三十を超えたあたりだろうか。優美な佇まいに落ち着いた牛首紬がぴったりと合っている。角帯はここしかないという位置で締められていて、足元は当たり前のように下駄だ。この人が洋服を着ている姿を想像できない。
(着物の申し子……)
 千尋がそんなことを考えているうちに、男性は門の下を抜け、タクシー乗り場のほうへ歩いて行ってしまった。
 深い茶の背中が人ごみに紛れて見えなくなったとき、バッグの中でスマートフォンが震えた。柏木からのメッセージだ。
『三枝さんもう着いてる? 俺いま改札』
 時計は十三時五十二分。千尋はキャリーケースの向きを変えて、駅の中へ戻った。
 ほどなくして、柏木と無事合流できた。二人してバスに乗り込む。
「三枝さん、金沢に来たことある? あ、ないか。先方のオフィスは香林坊ってところにあるんだけど、金沢でもっとも賑やかな一帯らしいぞ。百貨店やらファッションビルやら、いろんな店が集まってる」
 ほどよく空いていた車内で柏木がそう教えてくれた。柏木は千尋より六年先輩で、社内では仕事ができる人で通っている。気さくで、話しやすい。
 目的地の香林坊までは十分くらいで着いた。バスから降り立つと欅の並木が道に沿って続き、葉が半分ほど色づいている。交差点の角では百貨店とファッションビルが向かい合い、多くの人が行き交っている場所だった。
 見た目は千尋が住んでいる東京の繁華街とさほど変わらない。もちろん規模は違うのだろうが、このあたりに来れば、暮らしていくのに必要なものは全部揃いそうだ。
 訪問先の加州テキスタイルは、その交差点から一本入ったところにあった。金沢に本社を置く繊維商社で、設立は昭和初期。今は自動車の内装材が売上の八割を占めており、石川県内に工場が二つある。
 落ち着いた六階建てのビルで、一階のエントランスには反物が一本、ガラスケースに立ててあった。白地に、薄い水色の流水の柄。受付で名刺を出しながら、千尋はつい目で追ってしまう。
「うちの会社が、加賀友禅の白生地を扱っていた頃のものですよ」
 と教えてくれたのは、千尋たちをエントランスまで迎えに来てくれた加州テキスタイルの男性社員・波多野正史(はたのまさし)だ。波多野は以前、別の仕事で柏木とかかわりがあったようで、かなり親しそうである。
「金沢といえば友禅染めに牛首紬。ここは昔から着物の町ですからね」
「着物の町……」
 波多野の一言に、少し胸が躍った。そういえば、駅でも着物姿の人がいた……千尋はあの見事な牛首紬を思い出す。
 今回のプレゼンは、アークシスの他に二社が参加する。関係者全員が五階にあるミーティングルームに集まり、会議が始まったのは十五時だ。
 柏木の説明は淀みがなく、先方の手応えもよさそうだった。サポートに徹しつつ様子を窺っていた千尋は、まだまだ先輩には及ばないな、と自覚する。
 大学卒業後すぐ入社したアークシスは中堅どころのITコンサルティング会社で、事業は拡大しているようだが千尋に任されていることはまだまだ限られている。受け持った仕事は責任をもってこなしているつもりだが、柏木のポジションに立つ自分の姿が想像できない。
 主に柏木の活躍で、プレゼンはつつがなく終わった。会議がお開きになったのは十八時だ。結果は明日の午前中、同じ場所で通知されるので、今日はこのまま解散となる。
「三枝、お疲れ。俺、このあと波多野くんと飲むけど一緒に来る?」
 エントランスまで降りたところで柏木に聞かれた。後ろには波多野も控えている。
「私はやめておきます。お二人でどうぞ」
 千尋はなるべく丁寧に断った。親しい者どうし、飲みの席で積もる話もあるだろう。
「そうか。じゃあ三枝さんも、何か美味いもんでも食えよ~。せっかく金沢に来たんだ。ご当地メシは出張の特権だろ」
 柏木はひらひらと手を振って、波多野とともに先に外へ出た。
 ご当地メシは出張の特権。その通りだ。
 二人の姿が見えなくなってから、千尋はバッグに入れていたパンフレットを取り出した。金沢駅の観光案内所に置いてあった、近江町市場のものだ。
 市場自体は夕方で閉まるようだが、パンフレットに記載されている周辺の店の中には、もう少し長く営業しているところもあるらしい。
 千尋の母は、外食をするとき必ず誰かと一緒に行く。同年代の友人の中にもそういうタイプがいる。「せっかく美味しいものを食べるんだから」「一人だと寂しい」と彼女たちはよく言っている。
 千尋自身は、一人で食事することに全く抵抗がなかった。今日はプレゼンで緊張したのもあり、むしろ一人になれた方が落ち着く。
 パンフレットに載っていた大盛りの海鮮丼や治部煮が頭の中をぐるぐる回り始めて、胸が躍った。
 しかし、建物を出たとき、バッグの中でスマートフォンが震えた。
 画面に表示されていた森真弥子(もりまやこ)という名前を見て、千尋は首を傾げた。
 真弥子は同期入社の女子社員だが、千尋とは所属している部署が全然違う。新人研修のときに少し話したきりで、電話番号やメッセージアプリのアカウントは交換しているものの、プライベートはおろか仕事上のやり取りすらしたことがなかった。
 その真弥子が、メッセージのやり取りではなくわざわざ電話をかけてくるなんて、一体何の用事だろう。
 千尋は少し迷ってから応答ボタンに触れた。
『お疲れー。今、平気? っていうか、ちーちゃん今どこにいるのー?』
 のー、という音が最後まで耳に残って、ようやく真弥子の声が少し甲高かったことを思い出した。千尋はスマートフォンを僅かに遠ざけつつ、あだ名で呼ばれるような仲ではなかったのにな……と心の中で少し訝しむ。
 今は出張で金沢にいて、仕事が終わったところだと手短に告げると、真弥子は薄い機械の向こうで『えーっ、ウッソー』となぜか笑い転げた。出張のどこが『ウッソー』なのか、全然分からない。
 真弥子はひとしきり笑ったあと、間を置かずにこう聞いてきた。

『ねぇ、佐島(さしま)くんと別れたって、本当?』

 その途端、千尋の脳裡に『早すぎるよ』という声が蘇る。
 いつもいつも五分は遅れてくる、千尋が一番多く待ち合わせをした相手……そうやって遅刻しておいて『来るのが早すぎる』と苦笑していたあの人。
 佐島広夢(ひろむ)──千尋とは同期入社で、四年付き合った。
 同じフロアで働く千尋と広夢が恋人同士であることは社内でじわじわ認知され、交際二年目からは公認といってよかった。会社主催の忘年会で、席順を周囲が勝手に調整してくれる程度には。
 真弥子は女子社員の中で一番耳が早いと言われている。だから千尋と広夢の関係を把握しているはずだ。
 おそらく、今、二人がどうなっているのかも……。
『やっぱり別れちゃったんだー』
 真弥子は千尋の沈黙を肯定と受け取ったようだった。その口ぶりには憐れみと、どこか楽しんでいるような軽さが入りまじっている。
『ざんねーん。あたし二人のこと応援してたのにぃ。──てっきり、このまま結婚するかと思ったよ』
 私も、いずれそうなると思ってたよ。
 そう返す代わりに、スマートフォンを握る手にぎゅっと力を籠める。
 嫌でも耳に届いてくる甲高い声に適当な相槌を打ちながら、千尋はゆっくりと歩き出した。開いているほうの手で、スーツケースを引っ張る。
 どこへ向かっているのか自分でも分からなかった。ただ身体のどこかを動かしていたい気がして、ビルを横目に見ながら信号を渡る。
 すっかり日が暮れていた。じんわり光っている街灯には『長町武家屋敷跡』という文字と矢印が書かれた看板が取り付けられている。千尋はなんとなくその矢印に沿って、細い道へ入った。
 しばらくすると風景が変わった。ずらりと続く土塀と石畳の小径。立ち並んでいる建物はどれも昔ながらの和風の屋敷だ。
 そうか、ここが武家屋敷跡……千尋はさっき見た看板の意味をようやく実感した。幾度か道を折れただけで香林坊のビルの面影は消え、まるで江戸時代にでもタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。
 建物の中には資料館などもあったが、とっくに閉館時間を過ぎていた。そのせいかあたりには人通りが全くなく、千尋は街灯を辿るように歩く。
 やがて水の音が聞こえてきたと思ったら、水路に行き当たった。幅二メートルほどのそれは、人工的に作られたものらしい。
 そこでようやく足を止めた。
 真弥子からの電話はすでに切れていた。千尋は街灯に照らされて時折光る水面を、ただぼんやりと見つめる。
 広夢との関係が突然終わったのは、三か月前のことだった。あの日目にした元恋人の顔が、まだ脳裡にこびりついている。
 四年、一緒にいた。これから先もそうだと思った……。
 さっきまでひたすら歩いていたのに、滔々と流れる水路の水を前にして、千尋の足はぴたりと動かなくなった。
 柏木のプレゼンをほぼ聞くだけだった自分。真弥子の声。千尋に別れを告げたときの、広夢の顔。
 いろいろなものがぐるぐると渦巻いて、息が詰まる。
 そのまま、しばらく立ち尽くしてしまった。
 はっと我に返ったのは、真弥子との通話を終えたあと手にしたままだったスマートフォンが振動したからだ。
 慌てて確認すると、いつも使っているネットショップからのダイレクトメールが届いていただけだった。
 時刻は──十九時四十七分。
 そんなにぼんやりしていたつもりはなかったのに、思いのほか時が過ぎていて驚いた。
 同時に、強い空腹感を覚えた。
 昼に北陸新幹線の中で駅弁を食べたきりだ。バッグの中に近江町市場のパンフレットがあるのを思い出し、千尋は慌ててスーツケースの取っ手を掴んで身を翻す。
 スマートフォンでマップを確認すると、パンフレットに載っていた近江町市場近くの店は、ここから歩いて十五分ほどだと分かった。スーツケースを引っ張りながら、千尋はまっすぐそこを目指す。
 大きな看板があったので、近江町市場には迷わず辿り着けた。だが入口に立った千尋は肩を落とした。
 アーケードの下でひしめき合うように軒を連ねる店のほぼすべてが、シャッターを降ろしている。営業時間が終わってしまったのだ。
 空になった陳列台や発泡スチロールの箱が、店の前にいくつも並べられている。昼間に来ればきっと、賑わっているのだろう。夜になった今でも照明があるので暗くはないが、人が行き交う様を想像できる分、余計に寂しく感じる。
 パンフレットに載っていた店はアーケードを抜けた先にあったが、やはり暖簾はもう出ていなかった。両隣の店も灯りが消えている。
 スーツケースを引きながら歩き回ると、まだ開いている店はちらほらあった。ただ、多くがお酒を出すところで、下戸の千尋には少しハードルが高い。それに、その僅かにやっている店も、そろそろオーダーストップの時間らしかった。
 生鮮市場は朝早くから夕方までがメインの時間だ。周りの店もそれに合わせて開けているのだろう。もう二十時を過ぎている。すべてが遅かったのだ。
 空腹感はどんどん増している。スーツケースの取っ手が手の平に食い込む。足が重い。それでも、どこかに店がないかと探してしまう。
 何か『ここにしかない美味しいもの』が食べたかった。だが、入れそうな店がない。
 もう、ホテルでコンビニのおにぎりでも齧ろうかな……いい加減に疲れて諦めかけたそのとき、ふっといい香りがした。
 温かみのある出汁の匂いが、ふんわりと漂ってくる。お腹が空きすぎて幻かと一瞬思ったが、違った。香りだけなのに、口の中にふくよかな味が広がっていく。
 自然と足がそちらに向いた。
 漂う香りだけを頼りに進むと、やがて一軒の店が見えてきた。ガラスの引き戸の向こうから、優しい光がじんわりと零れてくる。
 戸の前に置かれた行灯型の看板に文字が浮かび上がっていた。
『金沢おでんカフェ らくまつ』
 東京には色々な店があるが『おでん』と『カフェ』が一緒に看板に収まっているのを、千尋は見たことがない。
 ガラス戸には『OPEN』の札がかかっていて、その下には『ラストオーダー 22:00』と書かれている。
 看板にカフェと書いてあるので、お酒がメインでもなさそうだ。
 また、ふんわりと出汁の香りがした。
 その瞬間、千尋はガラス戸に手を掛け、横に引いた。