恋に遠し に近し

「せりなっ……! やっと常盤(ときわ)からラインの返信が来たよぉ……」

 さやが息を弾ませながらやってきた。
 彼女はスマホを強く握りしめ、私にラインの通知画面を見せてきた。

 『うんうん』という犬のスタンプだけが表示されている。

「……いつラインしたんだっけ?」

「昨日の朝! もう来ないかと思った、本当に良かったぁ……」

 彼女は嬉しそうに何度もスマホの画面を見つめている。

 私は静かに席を立ち、荷物をまとめる。

「よかったね。……人待たせてるから、先に帰るね」
「うん、じゃあまたね!」

 彼女に手を振ってから、すたすたと昇降口に向かう。
 私の足取りはとても軽い。早く会いたい、会ってさっきのこと確認したい。

 高まる興奮を外に出しすぎないように、ゆっくり深呼吸をする。

 昇降口を出て右に曲がる。そこには自動販売機があり、隣にはおしゃべりするのにぴったりなベンチが置いてある。

 彼はいつもそこで私を待ってくれる。
 私に気が付くと目を細めながら微笑んだ。

「よっ」
「よー」

 彼の挨拶はいつもこれだ。
 彼の「よっ」を聞いていたら、知らぬ間に私の挨拶も彼のと似たものになっていた。

「帰ろうか、常盤」

「ん、そうだな」

 常盤夜一(ときわよいち)
 彼を初めて見たとき、芸名みたいな名前がよく似合うと思った。

 誰が見ても整った顔に、広い肩幅、含みのある低い声、大きな手のひら、薄い唇。

 そして額にかかる前髪の中に、一筋の銀色の毛が混ざりこんでいた。

 彼の性格は決して優しくなんかない。
 おそらく自分に自信があり、ある程度物事を難なくこなせる器用な人。
 クラスの中心にいる陽キャでは決してないが、コミュニケーション能力の高さが尋常じゃない。

 王子様なんて全く思わない。それでも彼は高校二年生の時点で、四人の女子に告白をされている。
 さやもそのうちの一人だ。

 この人は過去の恋愛話を誇らしげに語る。
 さやの話は本人よりも常盤から多く聞いた。

 この人は自分に自信があって、それを人に聞かせて自分がすごいと周りに知らせたいんだろう。

 嫌な性格……

 それでも彼は周りを魅了する。男女ともに彼を嫌いな人はいないだろう。
 カリスマ性、それが一番彼にぴったりな言葉だ。

 私はもちろん彼の恋人なんかじゃない。

 片想いなのは認めよう。
 だけど告白なんてしない。

 私はこの人の特別な人でいたい。
 それは彼女という形じゃなくてもいい。

 一番仲がいい異性の友達で十分なんだ。

 隣に立てればそれでいい……