時が止まったままの子供部屋を見回し、苑は思い出したかのようにクローゼットを開けた。
「たしかこのへん……。あ、あった」
衣装ケースの中に仕舞い込まれたそれを見つけると、苑は両手を上げて小花柄のワンピースを脱いだ。
「やっぱうちは、これやないとな」
花脊一中と胸に書かれた白い半袖に、小豆色の半ズボン。
東京から何度取りに戻ろうと思ったか知れない、苑の大好きな部屋着である。
ふと思い立った苑は、そのままクローゼットの中に手を伸ばす。
中学の卒業アルバムを引っ張り出すと、老婦人たちの孫三人を探した。
「ワタパチ……。アホヅミ……。あ、おったおった」
ワタパチこと渡辺八郎と、アホヅミこと穂積里奈。どちらも苑にとっては宿敵であり悪友だ。
この狭い花脊で共に育ち、時と場合によっては手を組んだり、取っ組み合いの喧嘩をしてきた。
ワタパチの坊主頭とアホヅミのキツネ顔に、剥げたジェルネイルの先を突き立てた。
次のページを捲ると、中学三年生の苑と二十五歳の苑が対面する。こうして見てみても、若宮苑こそ学校一の美少女であることは疑いようもない。
鋭い目つきのせいで、卒業写真がマグショットと化しているのが、玉に瑕ではあったが。
苑の指先が、残るあと一人を求めて写真を辿る。
「えーと脊川、脊川……。あ、これやこれ。雪ちゃん」
野暮ったくて、ほんわか優しい日陰者。
派手で勝気な苑に言わせると、脊川雪葉はそんな女の子であった。
苑がこの子のことを気に入っていたのは、単に優しいからだけではない。
抜群に頭が良かった雪ちゃんは、関関同立の付属校に行った。それほど頭が良くなかった苑は、密かに彼女に一目置いていたのだ。
地元の人間と繋がりを絶っていた苑は、この三人の孫たちがどこで何をしているか知る由もない。
のんびり笑う雪ちゃんの写真を指で撫でると、苑は卒業アルバムを閉じた。
暗くなった部屋の明かりをつけると、階下から苑を呼ぶダフネの声がした。
「ソノール!ご飯やで〜!」
カレーを平らげてから、そう時間も経っていない。
それほど腹も減っていなかったが、苑はいそいそと階段を降りて行く。
東京ではほとんど外食で、どれも同じような味に感じて辟易していた。苑はダフネの手料理に飢えていた。
瀟洒な飾り窓のついたドアを開くと、ダイニングテーブルに見覚えのある顔が二人並んで座っていた。
「きよったな!バカ宮苑!」
「ううわ、何そのカッコ!あんた中学のコスプレしてはんの!?」
坊主頭と、化粧っ気のあるキツネ顔。
随分大人になったワタパチとアホヅミが、苑に向かって箸の先を向けている。
「いや、なんでおんねん!!」
キッチンに二人並んで立つダフネと巧身が、顔を見合わせて微笑んだ。
