花脊の苑



 竹を割ったような性格だと、人から言われるのも自分で言うのも苑は好きだった。

 割っているのはヒノキの木だが、苑は無心に鉈を振るい続けた。

 スパンスパンといいかんじに割れていくのが心地良く、苑の後ろには山高くヒノキの短冊が積まれていった。

 ふと顔を上げた苑は、土間をぐるりと見回した。

 もうどのくらい時間が経ったかと時計を探したのだが、土間の壁にそんなものは下がっていない。

 あるのは整然と並べられた工具の数々と、謎の木彫りの像ばかりだ。

 立ち並ぶ木彫りの像を、苑はじっと見つめた。

 それが神なのか仏なのかは分からなかったが、一言で言い表すなら『女神像』と呼ぶのがしっくりときた。
 
 薄い衣をまとう木彫りの女神たちは、まるで風に吹かれているかのように自由で複雑だった。

 柔らかな女の体と、風に揺蕩う衣の曲線が緻密で生々しくて、今にも動き出しそうな不気味さすら感じさせる。
 
 この女神像に共通しているのは、どれも慈愛に満ちた表情をしていること。

 なんとなくダフネの顔を思い浮かべつつ、苑はポケットからスマホを取り出した。


「……えーと、なんやっけあいつ。イトウタクミやっけ」


 入力バナーにうろ覚えの巧身のフルネームを入れて、苑は検索ボタンを押した。

 見知らぬ人の検索結果が表示されたかと思うと、検索エンジンの方から『もしかして 井枝巧身』と親切に聞き返してきた。


「あーそうそう、そうやった。そんな名前やったなアイツ」


 その親切心をタップしてみると、見渡す限りに「イケメン」というワードが並んでいた。
 
 イケメン彫刻家、イケメン現代アーティスト、イケメン過ぎる京男。


「なんやこれは……イケイケ祭りか……?」


 呟きながらスクロールしていくと、やっと巧身の作品画像が現れた。
 
 その掲載元に飛んでみると、美術商の販売ページに行き着いた。

 販売ページに並ぶ井枝巧身の作品には、全てSOLD OUTの赤字がかかっている。

 その下に並んだ数字を見るなり、苑はヒュッと喉を鳴らした。


「さっ……!!さんびゃく……っ!?」

 
 一旦、苑はスマホを丸太の上に伏せた。
 
 頼むから三百円であってくれと、苑はもう一度目を凝らす。

 二、三度それを繰り返すと諦めがつき、苑は販売ページをくまなく見て回った。
 
 どの作品にも似たような値打ちがついているのを見るに、苑の幻覚や入力ミスではなさそうだった。

 土間に並ぶ女神像を一瞥してから、苑はゆっくりと天井を仰いだ。


「ルブタンどころか……。バーキン超えてるやと……!?」


 ガレージから響く音が止んだのを見計らい、苑は丸太の上に鉈を置いて立ち上がった。