花脊の苑



 慣れたハンドル捌きで、ヘアピンカーブのキツい山道に軽トラックを走らせる男。

 悪くない。悪くはないと苑は思った。

 自動車免許を持たない苑にしてみると、運転の上手い男というのはポイントが高い。
 
 どんなに格好が良くて年収が高くても、運転が下手な男は信用に値しないという考えだ。

 いくらか開けた道に出ると、巧身がおもむろに口を開いた。


「……ええ友達もったな」


 少し嬉しそうな巧身の横顔から、苑はあからさまに目を逸らす。


「あんなん友達やのうて、腐れ縁いうんや」


「つまり大親友やんな」


「茶化すなボケ」


 ボケと言われてもまだ嬉しそうに、巧身は笑う。


「大事にしぃよ。あの子めっちゃええ子やん。おもろいし」


「あれがええ子なわけあるか。……でも、まあ。今後はあいつが頼みの綱やしな。検討しとく」


 アホヅミは出町柳のアパートを借りていて、店は木屋町にあるらしい。

 当面の生活資金が稼げるまで、アホヅミの家に転がり込むのもアリかもしれない。

 そんなことを目論んでいると、巧身が苑の方へ顔を向けた。


「その話なんやけどさ。オソノちゃん、俺んとこでバイトせえへん?」


「バイト?あんた、木こり以外になんか商売してはんの?」


「木こりて……。まあええか。俺はまあ、いわゆるうだつの上がらん彫刻家なんやけども」


「知っとる。アーティストとかダフネが言っとったわ」


「あはは、そうそう。そんでな、今度松上げがあるやろ?上げ松つくるん手伝ってほしいねん」


 松上げと聞いて苑は絶句した。

 花脊の松上げといえば、年に一度花脊に人が集まる夏の大イベントだ。

 男たちが大笠に向かって火のついた「上げ松」を投げまくる、超肉弾戦の祭り。

 こんなひょろい体の芸術家かぶれに務まるものかと、苑は疑わしくなった。


「……あんたが松上げやんの?」


「やるで。青年団入っとるし。はっちゃんかて青年団やし、やるやろ?」


「はっちゃんて誰や」


「さっき潰れてた、君の幼馴染ですけど」


「あれはワタパチやろ。なんやはっちゃんて」


「八郎くんやからはっちゃんやろ。でもなんで八郎くんなんやろなぁ?あの子三男坊やろ?」


「……八月八日生まれやからや」


「あーなるほど! ははっ。腑に落ちた」


 ずいぶん上まで登ってきたところで、巧身は軽トラックを林に停めた。


「はい到着。降りよか」





(後半に続く)