山道で二人抱き合って泣き喚く苑とアホヅミを、車のヘッドライトが煌々と照らし出した。
「あの〜、お嬢さん方〜?そこ道の真ん中なんやけど〜?」
軽トラックの窓から顔を出した巧身が、半笑いを浮かべながら声をかけてきた。
さながら追い詰められた逃亡犯のように照らし出された二人は、巧身の姿を見るなりまた泣き出した。
「えええ……。まあええわ、早よ乗って」
二度と乗るまいと誓った軽トラックに押し込められると思いきや、苑は後ろの荷台に乗せられた。
「前は二人しか乗れんから。な?」
「そうやでバカ苑。豚のように、おとなしゅうしとけ」
豚……。
そう独りごちた苑は、赤い目と鼻を擦りながら荷台に転がった。
風に揺られながら星空を仰ぎ見ると、自分も星屑の一つになったかのような心地がした。
*
ものの五分程度でアホヅミの実家に着くと、アホヅミは荷台の苑に向かって振り向いた。
「おいお前」
巧身が目の前にいるにも関わらず、アホヅミは低い地声で呼びかけた。
「うちはめっちゃ根に持つからな。泣いて謝ろうと許さへんぞ」
「……里奈」
弱々しくなりながらも、苑は声を絞り出した。
「商売女とか言うてごめん」
「……おお」
「なんなら今度、書類送検オッケーな店紹介してくれ」
そこだけは鈴虫に負けないくらいの声でハッキリと言うと、アホヅミは鼻を鳴らしたあとに腹を抱えた。
「あっはっはっ!バッカやなーお前!前科ついたわけでもあるまいに!」
気持ちよく笑って、アホヅミは苑と巧身に背を向けた。
ドレス映えしそうな華奢な背中は真っ直ぐ伸びていて、ちょっとやそっとでは倒れない強さを感じさせた。
アホヅミを見送ると、巧身は助手席のドアを開いた。
「はいどうぞ。豚のお姫様」
「誰が豚やねん花脊の姫や」
早口に捲し立てる苑に苦笑すると、巧身は運転席に乗り込んだ。
だいぶ頭も回るようになってきた苑は、雪葉の顔を思い浮かべると、巧身におずおずと尋ねた。
「……その〜。雪ちゃんて」
「ああ、もう帰ってもらったで」
苑の言葉を遮るようにして、エンジンをかける巧身が答えた。
巧身はゆったりとアクセルを踏みながら、苑の家とは反対方向に車を走らせた。
まさかこのまま山に埋められるのかと危惧する苑に、巧身は前を見たまま声をかけた。
「ほんならちょっと、夜のドライブしましょーか」
苑の脳内に、またうるさい声が響く。
(え〜!なになに?どこ連れてかれるんやろ〜?これはワンチャン、ホテルもあるで〜?どないしよ〜)
苑はその声を頭の中で叩き落とすと、乱れた前髪を手櫛で直した。
