「じゃあ、Aの最後の台詞、『図々しい!』ってどんな気持ち?」
「……『図々しいな~』って気持ち?」
「もっと詳しく」
「えーと、『図々しい』っていうのは、遠慮がないっていう意味で」
「言葉の意味じゃなくて、Aの感情を訊いてるんだよお。……じゃあ、シンプルに考えよう。喜怒哀楽で言うとどれ?」
「……『怒』が一番近いかな?」
お客さんのオーダーを通し忘れたラーメン屋の店員が、もちろん悪い。
でも、謝罪として、たくさんのトッピングに加えて替え玉まで要求されたら、「怒」の感情が生まれてしまうかもしれない。
「うんうん! じゃあ『怒』でいこうか! 八重花ちゃん、去年の一年間で、一番頭に来たエピソードは何?」
「え? ええと……」
感情を表に出さないからと言って、感情が全く無いわけではない。人知れず腹を立てた日もあれば、涙を流した日もあった。
そういえば、お小遣いを溜めて買ったリップを妹が勝手に使った挙句、幼稚園の友だちに貸していたという出来事があった。発覚した後は、お母さんも、お母さんに怒られて泣きじゃくる妹も謝ってくれた。私も「もうしないでね」と優しく諭して妹を許してあげた。……けれど、怒りが収まるはずがなく、一人この河川敷を訪れ、喉が嗄れるまで絶叫した。ちょうど一年前のことだ。
「お、思い出したら腹が立ってきた……!」
記憶の中の「怒」が入道雲のようにむくむくとわいてくる。
「うんうん、いいよいいよ! 八重花ちゃん、その調子! その気持ちで『図々しい』って叫んでみよう!」
「ず、図々しい……!」
妹のしでかしたことは、「図々しい」ことではなかったけれど、ちとせに言われた通り叫んだ。
すると不思議なことに、怒りがさらにこみ上げてきた。
「もっともっと!」
「図々しい!! 図々しい!! 図々しい……っ!!」
「もっとー!!」
「ずう、ずう、しいいいいいいいいーーーーっ!」
怒りの感情が、雷みたいに私の喉から放たれた。
「めぇぇっちゃ良い感じ―!!」
叫びすぎて息切れしていると、興奮気味のちとせが抱きついてきた。
「その調子で行ってみよー!!」」
私はちとせの体温を感じながら、放心していた。怒りをぶちまけて、空っぽになった自分の体が軽く感じる。
「それから叫び声がやっぱり夢埜ナナさんに似てる~!」
「そ、それは知らないけど」
しばらくの間、私はちとせにされるがままだった。
ふわふわして風に飛んでいきそうな体を、彼女が繋ぎとめてくれているみたいだった。
