きみの心をのぞかせて


 ちとせが風邪を引いたと知ったのは翌日だった。
 原因は明らか。私のせいだ。私がスクールバッグを取り違えたせいで、彼女は自宅に入れず体調を崩したのだ。
 一方で、私は風邪なんて滅多に引かないから、すこぶる元気だった。
 三日後、ちとせはようやく学校に姿を現した。クラスメイトたちは彼女を心配しながらも、転入早々に学校を休んだことをいじっていた。

「さっそく休まないでよー」
「も~! こっちだって休みたくて休んだわけじゃないよお」
「学校嫌になったのかと思った」
「だから違う~!」

 ちとせが口をへの字に曲げると、とみんなが笑った。彼女も「忘れられてたらどうしようかと思った」と笑う。
 昼休みになり、私は彼女を人のいない多目的室に呼び出した。もちろん、謝るためだ。

「風邪を引かせちゃって、本当にごめんなさい。私のせいです」

 彼女のマンションのエントランスで謝った時よりも角度をつけて、深々と頭を下げる。
 転入した次の日から休むはめになったのだ。私だったら、休んでいる間、不安で仕方なくなる。
 数秒の間があって、「全然気にしないで!」とちとせが明るく返した。
 顔を上げる。彼女はいつものように、にこっと笑っていた。
 でも、すぐに真顔になった。

「……なんて、言うと思った?」
「え」

 ちとせの曲がった口元に、私は動揺した。
 彼女は怒っているらしい。当たり前だ。

「ほ、本当にごめんなさい!」

 私はもう一度頭を下げた。深く深く。

「謝ったら済むって思ってるの?」

 低くなった彼女の声が、下げた自分の頭に降ってくる。

「そんなことないけど、じゃあどうしたら……っ」

 謝ったら終わりだなんて思っていない。
 でも、これ以上何を言えばいいのか、何をすればいいのか、私にはわからなかった。私は謝ることに慣れていない。
 だって、他人を怒らせるようなことをしないから。

「何でもするから、許してほしい。私にできることなら……」

 胸の前でぐっと拳を握る。すると、ちとせが手を伸ばし私の手を取り、
「……なあんちゃて!」
 と笑った。

「……?」

 ぽかんとしていると、彼女は私の手を取りぶんぶんと振り回した。二人でお遊戯でもしているような、間抜けな姿になる。

「ごめんごめん! この時期はよく風邪引くんだ~。体調管理のできてない私の落ち度でもあるよ」
「許して、くれるの……?」

 ちとせはぴたりと動きを止め、「うーん」と唸って目を瞑った。

「……罪滅ぼししてくれるつもりなのだったら、八重花ちゃんにお願いしちゃおうかな?」
「……………………え?」