きみの心をのぞかせて

「用事思い出した! 先に家に入ってて!」
「ど、どうしたの、八重花ちゃん」
「お姉ちゃん、待ってー!」

 私はマンションを飛び出し、道をダッシュで戻った。
――やっちゃった!
 河川敷から慌てて去ろうとした私は、自分のではなく、加藤ちとせのスクールバッグをつかんで帰ってきてしまったんだ。
今持っているスクールバッグの本当の持ち主は、まだ河川敷に残って発声練習をしているかもしれない。運良く、自分のスマフォはスクールバッグではなくスカートのポケットに入れていた。でも彼女の連絡先は知らない。

「い、いない……」

 河川敷に着き、橋の下に下りたけど、もう彼女の姿は無かった。スクールバッグも見当たらない。加藤さんも気がつかずに持ち帰ってしまったのだろうか。

「加藤さーん!」

 土手の上に戻り、恥を忍んで叫んだ。

「加藤さん! 加藤さん! 加藤ちとせさーん!!」

 何度呼んでも返事は無い。土手を行き交う知らない人たちが不思議そうに振り返るだけ。
 スマフォで高校に連絡し、担任に繋いでもらった。事情を話すと、特別に彼女の住まうマンションの住所を教えてもらえた。不幸中の幸いか、彼女の家は河川敷からそれほど遠くなさそうだ。
 スマフォで地図アプリを開き、彼女のマンションをピン止めする。目的地にいざ向かおうとした時、一粒の滴が頬を濡らした。

「うそっ」

 雨が降ってきたのだ。

「もー! 最悪!」

 加藤家に向かって走り出した。雨脚はどんどん強まっていく。気温もぐんと冷えてきた。
 地図を頼りに走ること、およそ十分。

「こ、ここかな?」

 ようやく茶色のマンションの前にたどり着いた。髪も肩も、びしょびしょになっていた。

「……八重花ちゃん!?」

 エントランスに続くガラスドアの前にベンチにある。加藤さんが一人で腰かけていた。
 彼女の頭の上には屋根がある。雨はしのげるけれど、肌寒いのか、制服のシャツの上から自分の腕をさすっている。
 ベンチの脇にはスクールバッグがあった。私の。

「なんでウチがわかったの!? 八重花ちゃんって超能力者だったりする!? それにずぶ濡れ!」
「超能力者って、アニメじゃないんだから……。担任に連絡して教えてもらったの。加藤さん、ずっとそこにいたの……?」
「うん。家の鍵もスマフォもバッグの中だったから。お父さんもお母さんもまだ帰ってきてないし、どうしようかと」
「ごめんなさい……っ!」

 私は思いきり頭を下げた。髪の毛先から雨水が垂れて、タイルを濡らした。