足を止め、振り返る。
「な、なな、何のことやら」
加藤さんは首を傾げる。
「? 八重花ちゃん、さっき大きい声出してたよね? 発声練習仲間だと思ったんだけどな」
「いや、あの、それは私じゃなくてっ」
苦しい言い訳をしようとする私を意に介さず、彼女は「すっごい良い声だったよ!」と目を輝かせ、ずいと迫ってきた。
「私、八重花ちゃんの声、すごく好きかもー! 叫び声が誰かに似てた気がするんだよねえ。えーと、えーと……、あっ、夢埜ナナさんだ!」
「ゆ、夢埜ナナ……」
「そうそう! 超が付くベテラン声優さん! 今は『ポポポン・プリンセス』の女王様役をやってるよね! 八重花ちゃんも観てる!?」
「いや、私の妹は好きで毎週観てるけど……。そのアニメって幼児向けじゃないの?」
「高校生が観ても面白いよ? 私も毎週、絶対に観てるの。夢埜さん演じる女王様はね、ポポポン魔法王国を建国した偉大な人なの! でもでも、王国がモンモンスターに襲われちゃって、主人公たちが戦うんだけど、もしかしたら王女様と主人公って深い繋がりがあるんじゃないかっていう匂わせがあったのが先週の話で、それで――」
「ごめん! そろそろ塾の時間だ! 帰る!」
私は嘘をついて遮った。興奮気味の加藤さんが語る、幼児向けアニメの内容を。
芝の上のスクールバッグを鷲掴みにする。
「えっ? でも……」
「私、発声練習なんかしてないから! ……バイバイ!」
「ま、待ってよー!」
アニメ声を無視し、急な階段を駆け上った。土手の上で犬を散歩させているおばあちゃんやランニング中の男性を追い抜く。
「最っ悪!」
迂闊だった。
まさか、叫んでいる姿を転入生に見られるなんて思わなかった。
ところで、彼女はなぜ河川敷の橋の下なんかに来たのだろう。何をするつもりだったのだろうか。
「そういえば」
――発声練習仲間だと思ったんだけどなあ
そんなことを言っていた気がする。「仲間だと思った」ということは、彼女も発声練習がしたくて河川敷を訪れたのかもしれない。
「って、私は発声練習したかったわけじゃないけど」
私はただただ、日ごろの鬱憤を晴らしたかっただけだ。
発声練習なんて、声優じゃあるまいし。
「もしかして」
加藤さんが声優を目指しているということだろうか?
「な、なな、何のことやら」
加藤さんは首を傾げる。
「? 八重花ちゃん、さっき大きい声出してたよね? 発声練習仲間だと思ったんだけどな」
「いや、あの、それは私じゃなくてっ」
苦しい言い訳をしようとする私を意に介さず、彼女は「すっごい良い声だったよ!」と目を輝かせ、ずいと迫ってきた。
「私、八重花ちゃんの声、すごく好きかもー! 叫び声が誰かに似てた気がするんだよねえ。えーと、えーと……、あっ、夢埜ナナさんだ!」
「ゆ、夢埜ナナ……」
「そうそう! 超が付くベテラン声優さん! 今は『ポポポン・プリンセス』の女王様役をやってるよね! 八重花ちゃんも観てる!?」
「いや、私の妹は好きで毎週観てるけど……。そのアニメって幼児向けじゃないの?」
「高校生が観ても面白いよ? 私も毎週、絶対に観てるの。夢埜さん演じる女王様はね、ポポポン魔法王国を建国した偉大な人なの! でもでも、王国がモンモンスターに襲われちゃって、主人公たちが戦うんだけど、もしかしたら王女様と主人公って深い繋がりがあるんじゃないかっていう匂わせがあったのが先週の話で、それで――」
「ごめん! そろそろ塾の時間だ! 帰る!」
私は嘘をついて遮った。興奮気味の加藤さんが語る、幼児向けアニメの内容を。
芝の上のスクールバッグを鷲掴みにする。
「えっ? でも……」
「私、発声練習なんかしてないから! ……バイバイ!」
「ま、待ってよー!」
アニメ声を無視し、急な階段を駆け上った。土手の上で犬を散歩させているおばあちゃんやランニング中の男性を追い抜く。
「最っ悪!」
迂闊だった。
まさか、叫んでいる姿を転入生に見られるなんて思わなかった。
ところで、彼女はなぜ河川敷の橋の下なんかに来たのだろう。何をするつもりだったのだろうか。
「そういえば」
――発声練習仲間だと思ったんだけどなあ
そんなことを言っていた気がする。「仲間だと思った」ということは、彼女も発声練習がしたくて河川敷を訪れたのかもしれない。
「って、私は発声練習したかったわけじゃないけど」
私はただただ、日ごろの鬱憤を晴らしたかっただけだ。
発声練習なんて、声優じゃあるまいし。
「もしかして」
加藤さんが声優を目指しているということだろうか?
