*
「わかったようなことを言うなああああああああッ!」
放課後になり、私は声を限りに叫んだ。
行きつけの河川敷の橋の下で。
「当たってるけどおおおおおおおおッ……。ごほっ」
肺の中の空気を全部出しきったら、むせた。
「はあ、はあ……」
息を整えながら、足元の川面をのぞき込む。初秋の空と、ボブカットの女子高生の顔が歪んで映っている。
――もしかして、八重花は苦手なタイプだったりする?
クラスメイトの友だちの勘は当たっていた。大当たりだ。私はあの転入生、加藤ちとせが苦手だ。
アニメ声だからではない。テンションが高いからでもない。
じゃあ、どうしてか。
それは、彼女が自分を、自分の気持ちを、平気でさらけ出しているから。
私が自分の感情を露わにできるのは、放課後の通学路を遠回りして訪れる、この河川敷の橋の下のみ。
転入生は何も悪くない。自分らしくしているだけ。それはわかっている。けれど、叫びたくなるほど私が苛立った理由は、クラスメイトに自分の感情を見透かされそうになったからだ。
本当の気持ちを出さないようにして、必死で上手く生きていこうとしているのに……。
「……簡単に踏み込んでこないでよ」
「す、好き……」
「!?」
声がして、はっと振り返る。自分以外に誰もいないと思っていたのに油断した。でも、背後には誰の姿も無い。
「あ、こっちでーす!」
私は顔を上げた。
私のいる河川敷と土手を結ぶ、狭く急な階段。その一番上に、ツインテールの女の子の姿があった。
「か、加藤さん……!」
アニメ声の転入生だ。彼女はそこから私を見下ろしていたのだろうか?
――叫び声を聞かれていた……!?
自分の頬が、火をつけられたみたいに熱くなっていく。
「そうです、加藤ちとせです~! 覚えててくれて嬉しい!」
ツインテールは毛先を揺らしながら、ぴょこぴょこと階段を下りてくる。
「わっとっと!」
彼女は一番下の段で足を滑らせた。
「あ、危ないっ!」
私は咄嗟に腕を伸ばし、制服に包まれた転入生の体を支えた。
「あ、ありがとうございます」
彼女は恥ずかしそうに笑い、私から離れる。そして肩から提げていた自分のスクールバッグを河川敷の芝の上に置いた。私が怒りに任せ、放り投げるようにして置いていたスクールバッグと彼女のスクールバッグが仲良く並ぶ。
「改めまして、加藤ちとせです。私も名前を聞いていいですか?」
そういえば、私はまだ彼女に自己紹介をしていない。
「……」
私は口の両端を持ち上げてにこりと笑い、そして――、
「山吹八重花だよ。八重花って呼んでね。クラスメイトなんだから、敬語じゃなくてため口にしよ。これからよろしくね。…………じゃ!」
その場から逃げようとした。
「八重花ちゃん、発声練習はもう終わりですか? ……じゃなくて、もう終わっちゃうの?」
「!?」
「わかったようなことを言うなああああああああッ!」
放課後になり、私は声を限りに叫んだ。
行きつけの河川敷の橋の下で。
「当たってるけどおおおおおおおおッ……。ごほっ」
肺の中の空気を全部出しきったら、むせた。
「はあ、はあ……」
息を整えながら、足元の川面をのぞき込む。初秋の空と、ボブカットの女子高生の顔が歪んで映っている。
――もしかして、八重花は苦手なタイプだったりする?
クラスメイトの友だちの勘は当たっていた。大当たりだ。私はあの転入生、加藤ちとせが苦手だ。
アニメ声だからではない。テンションが高いからでもない。
じゃあ、どうしてか。
それは、彼女が自分を、自分の気持ちを、平気でさらけ出しているから。
私が自分の感情を露わにできるのは、放課後の通学路を遠回りして訪れる、この河川敷の橋の下のみ。
転入生は何も悪くない。自分らしくしているだけ。それはわかっている。けれど、叫びたくなるほど私が苛立った理由は、クラスメイトに自分の感情を見透かされそうになったからだ。
本当の気持ちを出さないようにして、必死で上手く生きていこうとしているのに……。
「……簡単に踏み込んでこないでよ」
「す、好き……」
「!?」
声がして、はっと振り返る。自分以外に誰もいないと思っていたのに油断した。でも、背後には誰の姿も無い。
「あ、こっちでーす!」
私は顔を上げた。
私のいる河川敷と土手を結ぶ、狭く急な階段。その一番上に、ツインテールの女の子の姿があった。
「か、加藤さん……!」
アニメ声の転入生だ。彼女はそこから私を見下ろしていたのだろうか?
――叫び声を聞かれていた……!?
自分の頬が、火をつけられたみたいに熱くなっていく。
「そうです、加藤ちとせです~! 覚えててくれて嬉しい!」
ツインテールは毛先を揺らしながら、ぴょこぴょこと階段を下りてくる。
「わっとっと!」
彼女は一番下の段で足を滑らせた。
「あ、危ないっ!」
私は咄嗟に腕を伸ばし、制服に包まれた転入生の体を支えた。
「あ、ありがとうございます」
彼女は恥ずかしそうに笑い、私から離れる。そして肩から提げていた自分のスクールバッグを河川敷の芝の上に置いた。私が怒りに任せ、放り投げるようにして置いていたスクールバッグと彼女のスクールバッグが仲良く並ぶ。
「改めまして、加藤ちとせです。私も名前を聞いていいですか?」
そういえば、私はまだ彼女に自己紹介をしていない。
「……」
私は口の両端を持ち上げてにこりと笑い、そして――、
「山吹八重花だよ。八重花って呼んでね。クラスメイトなんだから、敬語じゃなくてため口にしよ。これからよろしくね。…………じゃ!」
その場から逃げようとした。
「八重花ちゃん、発声練習はもう終わりですか? ……じゃなくて、もう終わっちゃうの?」
「!?」
