「会いたくなかったっ……! 会いたくなかったのに……!」
会いたくなかった。
我慢していた気持ちが、きっと溢れてしまうから。
「八重花ちゃん、ごめん……」
「違う。ち、ちとせは、悪くないっ。何も悪くない! ただ、ただ私が……っ」
泣いている顔なんて見られたくなくて手で覆う。
ふいに自分の体が温かくなった。
私はちとせに抱きしめられていた。
「大丈夫」
ちとせの温かい言葉が耳朶にかかる。
「大丈夫だよ、八重花ちゃん」
「ごめん……。こんな、こんなとこ、見せて……」
「謝らないで。泣いていいんだよ、八重花ちゃん。たくさん泣こう。大丈夫。八重花ちゃんは、もっと素直になって大丈夫なんだよ」
ぴんと張っていた糸が、ゆるゆるとほどけていくような感覚があった。
我慢していた涙が、感情が、目から溢れて止まらない。
「う、うう……っ」
泣き続ける私を、彼女は咎めたり嗤ったりしなかった。
ちとせは私とは違って、素直に感情を出せる人だ。だから、羨ましかった。苦手なタイプとさえ思ってしまった。
でも、彼女は、私が感情を出しても、少しも嫌な顔をしない。
彼女の腕の中が心地よくて、私は泣き続けた。
子どものように。
*
帰りの電車の窓から夕陽が差し込んでいる。やけに眩しく感じるのは、まぶたが腫れるほど泣いたせいだろうか。
「……ごめん。恥ずかしいところを見せちゃって」
並んで座るちとせに謝ると、声もがらがらと枯れていた。
「ううん。私は嬉しかったよ。八重花ちゃんの気持ちが聞けて」
「……嬉しい?」
「うん。八重花ちゃんはいつ本当の顔を見せてくれるのかなって、出会った日からずっと思ってたから」
本心を隠して生きていることは、彼女にはとっくにバレていたらしい。
「……あのね、八重花ちゃん。演技をする時って、相手役がすご~く重要なの」
「相手が上手い人のほうが良いってこと?」
「というよりも、ちゃんと感情を見せてくれるかどうか、かな。自分が『大丈夫?』っていう台詞を読まなくちゃいけないとするでしょ? でも、相手役が全然困っていたり悩んでいなかったりしたら、『大丈夫?』っていう台詞も上手く言えない。大丈夫そうな相手に『大丈夫?』なんて訊かないもん。だから、相手が棒読みだと、こっちも棒読みになっちゃうの。……それは、演技をしている時だけじゃなくて、日常生活でも同じ。八重花ちゃんに気持ちを隠されちゃうと、私も本音を見せることが難しくなっちゃう。そういう関係ってさ、友だちとは呼べないと思うんだよね。だから、八重花ちゃんが自分の気持ちを見せてくれて、私は嬉しいなって思っちゃった。やっと本当の友だちになれるって思ったよ」
「……」
自分の気持ちを表して、嬉しいなんて言ってくれる人が現れるとは思っていなかった。私はもっと、自分の気持ちを素直に見せていいのかもしれない。
ちとせを「苦手なタイプ」だと思ってしまったことを、私は心の中で謝った。
ちとせは友だちだ。
私が心をのぞかせることのできる、大切な友だち。
「それにぃ……」
ちとせがにやりと笑う。
「泣いてる時の声も夢埜さんそっくりだった~! めっちゃときめいた~!」
「友だちが泣いてるのにときめくなっ」
また抱き着こうとしたちとせを押しのけつつ、私は自分の喉のあたりを触る。
声が夢埜ナナに似ていると言われる度に、私の喉はこそばゆくなっていたのだ。
お母さんに似ていると言われて、嬉しかったから。
会いたくなかった。
我慢していた気持ちが、きっと溢れてしまうから。
「八重花ちゃん、ごめん……」
「違う。ち、ちとせは、悪くないっ。何も悪くない! ただ、ただ私が……っ」
泣いている顔なんて見られたくなくて手で覆う。
ふいに自分の体が温かくなった。
私はちとせに抱きしめられていた。
「大丈夫」
ちとせの温かい言葉が耳朶にかかる。
「大丈夫だよ、八重花ちゃん」
「ごめん……。こんな、こんなとこ、見せて……」
「謝らないで。泣いていいんだよ、八重花ちゃん。たくさん泣こう。大丈夫。八重花ちゃんは、もっと素直になって大丈夫なんだよ」
ぴんと張っていた糸が、ゆるゆるとほどけていくような感覚があった。
我慢していた涙が、感情が、目から溢れて止まらない。
「う、うう……っ」
泣き続ける私を、彼女は咎めたり嗤ったりしなかった。
ちとせは私とは違って、素直に感情を出せる人だ。だから、羨ましかった。苦手なタイプとさえ思ってしまった。
でも、彼女は、私が感情を出しても、少しも嫌な顔をしない。
彼女の腕の中が心地よくて、私は泣き続けた。
子どものように。
*
帰りの電車の窓から夕陽が差し込んでいる。やけに眩しく感じるのは、まぶたが腫れるほど泣いたせいだろうか。
「……ごめん。恥ずかしいところを見せちゃって」
並んで座るちとせに謝ると、声もがらがらと枯れていた。
「ううん。私は嬉しかったよ。八重花ちゃんの気持ちが聞けて」
「……嬉しい?」
「うん。八重花ちゃんはいつ本当の顔を見せてくれるのかなって、出会った日からずっと思ってたから」
本心を隠して生きていることは、彼女にはとっくにバレていたらしい。
「……あのね、八重花ちゃん。演技をする時って、相手役がすご~く重要なの」
「相手が上手い人のほうが良いってこと?」
「というよりも、ちゃんと感情を見せてくれるかどうか、かな。自分が『大丈夫?』っていう台詞を読まなくちゃいけないとするでしょ? でも、相手役が全然困っていたり悩んでいなかったりしたら、『大丈夫?』っていう台詞も上手く言えない。大丈夫そうな相手に『大丈夫?』なんて訊かないもん。だから、相手が棒読みだと、こっちも棒読みになっちゃうの。……それは、演技をしている時だけじゃなくて、日常生活でも同じ。八重花ちゃんに気持ちを隠されちゃうと、私も本音を見せることが難しくなっちゃう。そういう関係ってさ、友だちとは呼べないと思うんだよね。だから、八重花ちゃんが自分の気持ちを見せてくれて、私は嬉しいなって思っちゃった。やっと本当の友だちになれるって思ったよ」
「……」
自分の気持ちを表して、嬉しいなんて言ってくれる人が現れるとは思っていなかった。私はもっと、自分の気持ちを素直に見せていいのかもしれない。
ちとせを「苦手なタイプ」だと思ってしまったことを、私は心の中で謝った。
ちとせは友だちだ。
私が心をのぞかせることのできる、大切な友だち。
「それにぃ……」
ちとせがにやりと笑う。
「泣いてる時の声も夢埜さんそっくりだった~! めっちゃときめいた~!」
「友だちが泣いてるのにときめくなっ」
また抱き着こうとしたちとせを押しのけつつ、私は自分の喉のあたりを触る。
声が夢埜ナナに似ていると言われる度に、私の喉はこそばゆくなっていたのだ。
お母さんに似ていると言われて、嬉しかったから。
