きみの心をのぞかせて

「す、すみませんっ……!」

 私は、審査員の三人とちとせに謝ったつもりだった。合図をもう一度出してもらって、やり直したかった。やり直しは審査に響いてしまうだろうか。そう考えたら、額に汗が浮かんだ。

 でも、気付く。私の放った「す、すみません」という言葉は、Aの一番初めの台詞と全く同じ。
 私は紙を表にした。

『オーダーが、通っていなかったみたいで……っ、すぐに作りますっ!』

 必死になって台詞の続きを読み上げながら、さらに気がついた。
 審査員の三人とも目を閉じていて、演技している私たちを全く見ていなかった。寝ているようだけど、そんなわけない。三人とも、私たちの演技をよく聞こうとしているのだ。
 だから恐らく、私が台本を落としたことも知らない。
――大丈夫。
 自分に言い聞かせる。深呼吸をしようとした。
 けれど上手くいかなかった。喉の奥で、ヒ、と詰まったような感覚があった。
 まずい。
 過呼吸になる前の状態かもしれない。

「……っ」

 右手で胸を押さえる。
 ふと、背中が温かくなった。

「……?」

 ちとせの手のひらだった。
 台本を持つ左手とは逆の、ちひろの右手が私の背にそっと触れていた。

『大丈夫ですよ。』

 ちひろは私を――ラーメンのオーダーを通すのを忘れてしまったAを――落ち着かせようと、優しく返す。

『全然急いでないので。』

 ちとせの気持ちが温かい手のひらから、やわらかい台詞から伝わってくる。

『……でも、トッピングおまけしてもらっちゃおうかなあ~?』

 私もちとせも、前を向いている。だから彼女の表情は見えないけれど、にやりと笑ったことがはっきり伝わってきた。

『……はい! もちろんです! 何にしますか?』

 私はちとせのおかげで、ラーメン屋を訪れたお客さんのおかげで、気を取り直すことができた。

『じゃあ、味玉に海苔にコーンに……、あと替え玉もトッピングしてください!』
『かしこまりました……って、ずっ、図々しい!』

 最後は、「怒」の気持ちが足りなかったかもしれない。
 でも、なんとか全ての台詞を読み終えた。
 やり遂げることができた。
 私の胸は達成感で満たされていた。
 罪滅ぼしができたからではなく、演技をやり遂げたから。

「――はい、おつかれさまでした!」

 三人が顔を上げる。

「まず、お客さん役のB! 声が良いですね~!」

 演技の講評をしてくれるらしい。声を褒められて、さすがちとせだ。本人も嬉しそうに「ありがとうございます!」と頭を下げる。

「ザ・アニメ声ですね」

 真ん中の男性も頷く。低くてとても良い声だった。

「私も、一声聞いただけで可愛くて良い声だなあと思いました。あとは間の取り方やテンポも良いです。でもね、活舌はもっと頑張ってほしいです」
「そうですね、基礎の部分を頑張ったらもっと伸びそうです」
「店員のAは、あわってっぷりがよかったですね! 目の前のお客さんに話しかけている、という状況もしっかり伝わってきました。声も落ち着いていて、Bと対照的でよかったです。……ねえ、夢埜さん!」

――夢埜さん?

 知っている声優の名前が出て、自分の耳を疑う。