きみの心をのぞかせて


翌朝。

『出ましたわね、モンモンスター! プリンセスが許しませんわ!』

 リビングに入ると、お母さんと妹が一緒にソファに座ってテレビを観ていた。映っているのは「ポポポン・プリンセス」。妹、そしてちとせの大好きな幼児向けアニメだ。毎週日曜日の朝に最新話が放送される。
 夢中になっている妹の隣に座るお母さんが私を振り返った。

「おはよう。朝ごはん、フレンチトーストでいい? ちょっと待っててね」
「おはよ。自分でやるよ」

 私は寝間着のままキッチンに立ち手を洗った。フライパンでバターを温めながら、ちらりとテレビを見やる。

『なんてすさまじい力ですの! でも負けませんわ!』
『ええ! みんなで力を合わせますわよ! さあ、手を貸すのです!』

 カラフルな衣装の登場人物たちが、台詞を叫んでいる。

――図々しい!! 図々しい!! 図々しい……っ!!
――ずう、ずう、しいいいいいいいいーーーーっ!

 台詞を叫べて、楽しかったな。
 河川敷での練習を振り返り、素直にそう思う。
 演技なんて私には無理、足手まといになるだけだと思っていたけど。

「八重花ちゃんも観たい? フレンチトーストはやっぱり私が焼いてあげる!」
「えっ、いや、そういうわけじゃ」
「いいのいいの。一緒に観てあげて」

 お母さんにキッチンを追い出され、半ば無理やりソファに座らせられてしまった。

『もしかして、私のお母様なのですか……!?』

 テレビの中で、主人公が女王様に尋ねている。

『わ、わたくしは……』

 夢埜ナナ演じる女王様が主人公の質問に答えようとし……、エンディングテーマが流れてしまった。続きはまた来週、だ。

「あーあ! 良いところで終わっちゃったあ!」

 妹がソファの上でのけぞる。

「でも、面白かったあ!」

 にこにこの妹に、私も頷いた。幼児向けだけど、どんでん返しもあるようで面白そうだ。
 テレビ画面に、役名と、役を演じた声優たちの名前が映っている。女王様役の夢埜ナナの名前もあった。
 ストーリーも気になるけれど、声優はみんな、マイクの前で感情を爆発させているのだろうか。エンドロールが終わってCMに切り替わってもまだ、マイク前で演技する声優たちを想像している自分がいた。
 
*
 
「7番チームのお二人はこちらに掛けてお待ちください。順番になりましたらお呼びします」
「はい!」
「は、はい!」

 とうとうオーディションの当日となった。
 オーディション会場である声優養成所を訪れると、私とちとせは地下のスタジオに案内され、控室のパイプ椅子に座って待つよう、スタッフに指示された。私たちは7番チームだという。
 控室のドアの向こうから、人の声が聞こえてくる。一つ前の、6番チームがオーディションを受けている最中らしい。

「き、緊張する~」

 この日のためにおしゃれをしたちとせが胸を押さえ深呼吸を繰り返す。彼女の付き添いとはいえ、私ももちろん緊張していた。AとBの台詞の書かれたコピー用紙の台本を持つ手が震えている。

「あ、足手まといにならないようにするね」

 本気で声優を目指しているちとせを不安にさせないよう声を掛けると、彼女は私の方を向き、首を横に振った。

「そんなこと考えなくていいよ。演技を楽しもう」
「楽しむ……」
「河川敷で本気で声出したの、楽しかったでしょ?」
「……」

 控室のドアがノックされた。

「順番になりました。7番チームのお二人、準備はいいですか?」