中庭のベンチに腰かけて、野球部の屋台で買ったたこ焼きを爪楊枝でつつきながら、夏実がこちらを見る。
「で? あの短時間でなにがあったわけ?」
はふはふと熱そうにたこ焼きを頬張って、意味が分からないというように涙目で私を見る。
「大丈夫? 熱くない?」
「熱い。でもたこ焼きは熱いうちに食べるものでしょ?」
「そっか、そうかも」
いや、でも熱そうだけどな、と思いつつ、私もふーふーと冷ましながら口に運ぶ。
「じゃなくて!」
「うわっ!」
いきなり大声を出すから思わず爪楊枝ごとたこ焼きを落としてしまった。奇跡的にソースがたまったパックに着地した。
「なにがどうなって、おかしくなっちゃったのって話よ」
「引かない?」
「引かないよ、多分」
……多分って。
そう思いながらも、夏実にはなんでも話してしまう。
「さっき、歌ってる人いたでしょ?」
「うん。ほとんどの人が歌ってたけど、うん」
うぅ……、それもそうだ。
「ほら! おでこが広めで、黒髪で、センターパートで、歌がうまくて!」
必死に説明しても、大勢の人がいる中のたったひとりの特徴を覚えているなんてことはないらしい。そう考えると、やっぱり今日の私はおかしい。
「ごめん。その人は思い出せないけど、それがどうしたの?」
「あの人、ブラックホールみたいなの」
「……はぁ?」
想像通りの反応に、いつもならきっと笑っているだろう。でも、今日は全然笑えない。
だってまだ、あの人の顔が脳裏に、瞼の裏に。歌声が鼓膜に焼き付いている。まだ胸はドキドキと呼吸がいつもより浅くなるほど高鳴っている。
「ずっと、あの人のことが身体から離れないの」
「……え?」
「どうしよう。私、なにかに憑りつかれてるのかな?」
結構本気で聞いたのに、夏実はクスクスと微笑んだ。
「なんで笑うのよ」
「え? だっれそれ、あれでしょ?」
「あれって、なに?」
「一目惚れ」
……はぇ?
いやいやいやいや。一目惚れなんて、ありえない。……のか?
だって、私はずっと年甲斐もなく少女マンガみたいな恋をしたいと思っていた。
……「いた」。過去形……?
「いやでもだって、名前も知らないし、クラスも学年も知らないし、今まで一回も恋なんてしたことないし……」
なんだか、言葉にすればするほど、一目惚れに対する言い訳を並べているような感じがしてきた。言えば言うほど墓穴を掘っているような、そんな感覚。
なにかのマンガで読んだことがある。
人は言い訳をするとき、饒舌になるらしい。
「めっちゃ早口じゃん」
夏実は楽しそうにケラケラ笑っている。
「うぅー……」
今の私はまさに、自分の言葉で自分を追い込んでいる。
だってしょうがないじゃん。なんだか認めたら負けな気がするんだもん。なにに負けるのかもわからないのに。
でもこんな話をしている今も現に、あの人のことを考えてしまっている。
目の前にいるのは夏実なのに、夏実の横にあの人が見える気がして、胸がときめいている。
「……一目惚れ、しました」
結局、認めざるを得ない。だって、この短時間で夏実に必死に抵抗していたけど、心のどこかでは「一目惚れ」っていうワードがでたとき、自分の中でちゃんとしっくりきていたんだから。
「……うん。素直でよろしい」
そう、私の頭をくしゃくしゃになるまで撫でた。
私の視界が地面でいっぱいになっても、しばらく夏実は私の頭を撫で続けた。
「で? あの短時間でなにがあったわけ?」
はふはふと熱そうにたこ焼きを頬張って、意味が分からないというように涙目で私を見る。
「大丈夫? 熱くない?」
「熱い。でもたこ焼きは熱いうちに食べるものでしょ?」
「そっか、そうかも」
いや、でも熱そうだけどな、と思いつつ、私もふーふーと冷ましながら口に運ぶ。
「じゃなくて!」
「うわっ!」
いきなり大声を出すから思わず爪楊枝ごとたこ焼きを落としてしまった。奇跡的にソースがたまったパックに着地した。
「なにがどうなって、おかしくなっちゃったのって話よ」
「引かない?」
「引かないよ、多分」
……多分って。
そう思いながらも、夏実にはなんでも話してしまう。
「さっき、歌ってる人いたでしょ?」
「うん。ほとんどの人が歌ってたけど、うん」
うぅ……、それもそうだ。
「ほら! おでこが広めで、黒髪で、センターパートで、歌がうまくて!」
必死に説明しても、大勢の人がいる中のたったひとりの特徴を覚えているなんてことはないらしい。そう考えると、やっぱり今日の私はおかしい。
「ごめん。その人は思い出せないけど、それがどうしたの?」
「あの人、ブラックホールみたいなの」
「……はぁ?」
想像通りの反応に、いつもならきっと笑っているだろう。でも、今日は全然笑えない。
だってまだ、あの人の顔が脳裏に、瞼の裏に。歌声が鼓膜に焼き付いている。まだ胸はドキドキと呼吸がいつもより浅くなるほど高鳴っている。
「ずっと、あの人のことが身体から離れないの」
「……え?」
「どうしよう。私、なにかに憑りつかれてるのかな?」
結構本気で聞いたのに、夏実はクスクスと微笑んだ。
「なんで笑うのよ」
「え? だっれそれ、あれでしょ?」
「あれって、なに?」
「一目惚れ」
……はぇ?
いやいやいやいや。一目惚れなんて、ありえない。……のか?
だって、私はずっと年甲斐もなく少女マンガみたいな恋をしたいと思っていた。
……「いた」。過去形……?
「いやでもだって、名前も知らないし、クラスも学年も知らないし、今まで一回も恋なんてしたことないし……」
なんだか、言葉にすればするほど、一目惚れに対する言い訳を並べているような感じがしてきた。言えば言うほど墓穴を掘っているような、そんな感覚。
なにかのマンガで読んだことがある。
人は言い訳をするとき、饒舌になるらしい。
「めっちゃ早口じゃん」
夏実は楽しそうにケラケラ笑っている。
「うぅー……」
今の私はまさに、自分の言葉で自分を追い込んでいる。
だってしょうがないじゃん。なんだか認めたら負けな気がするんだもん。なにに負けるのかもわからないのに。
でもこんな話をしている今も現に、あの人のことを考えてしまっている。
目の前にいるのは夏実なのに、夏実の横にあの人が見える気がして、胸がときめいている。
「……一目惚れ、しました」
結局、認めざるを得ない。だって、この短時間で夏実に必死に抵抗していたけど、心のどこかでは「一目惚れ」っていうワードがでたとき、自分の中でちゃんとしっくりきていたんだから。
「……うん。素直でよろしい」
そう、私の頭をくしゃくしゃになるまで撫でた。
私の視界が地面でいっぱいになっても、しばらく夏実は私の頭を撫で続けた。


