春が来て、夏になり、秋があっという間に通り過ぎたかと思うと、すぐに冬がやって来る。
気持ちが落ち込んでいても季節は巡り、高校を卒業して五年後の春が来た。
私は社会人五年目になった。大学に行ってまでやりたいことをまだ見つけられていないから。働きながらゆっくり自分の未来について考えることにした。
「おはようございます、一之瀬さん」
今年入社したばかりの新人くん。彼は今年、大学を卒業したばかりの二十三歳。私と同い年だ。
「おはよう。ため口でいいんだよ? 同い年なんだし」
私は彼に挨拶をされる度、そう返す。同じ年に生まれて、同じ年で小中高と学校を卒業したのに、大学に行ったか行ってないか。社会に出るのが早かったか遅かったか。それだけで敬語を使うのは世の中ではきっと普通だけど、私はまだまだ未熟で。先輩扱いをされていいほど立派じゃないから。
「いえ。一之瀬さんと同じくらい仕事ができるようになるまでは、先輩扱いさせてください。早く追い付きたいので、たくさん教えてください!」
こんなに素直な人が、この綺麗とは言えない世界にいるんだ。そう思うと、この人にはまっすぐな人のままでいてほしいと思う。
「そういえば、今日の飲み会、一之瀬さんは来るんですか?」
そうだ。今日だった。忘れていた。
「行くよ。だって今日は新人さんたちの歓迎会だもん」
ここで行きませんなんて、さすがにできない。それに、入社してすぐの歓迎会はお酒が飲めなかったから色々ついていけない部分もあったけど、二十歳を過ぎてからはたまに飲むとリラックスできるから割と好きだ。
彼はもう飲める年齢だから、きっと楽しめるだろう。
「そういえば、もうすぐ初任給が入るんですけど、一之瀬さんは親になに贈りましたか? 両親に聞いても自分で使えばっかりで答えてくれないんですよ」
初任給か。なつかしい。
えっと、私は、確か……。
「両親にはおそろいのグラスを買って、お姉ちゃんには焼肉をおごったかな」
「え、両親だけじゃないんですね」
心が広いとか、優しいとか、そんな言葉をくれるけど、全然そんなんじゃない。
私は高校を卒業したときの少ない桜を見て、やっと先輩への想いに区切りをつけることができた。
落ち込んで、やさぐれて、焼肉屋さんでは聞いていて聞いていないふりをしていたけど。詩織の言葉でちょっとずつ前を向けたことは紛れもない事実で。
あの日、詩織は、結局ほとんど失敗した焦げた肉を数切れしか食べていなかったことに、先輩への気持ちが思い出に変わっていくにつれて、詩織への申し訳なさがどんどん募っていった。
だから初任給の焼肉は、ちょっとした罪滅ぼしみたいなところがあった。全然、褒められるようなことではない。私の心のもやもやを少しでも晴らすための手段だったから。
「いろいろ迷惑かけてるのは事実だもん。お姉ちゃんも、お母さんみたいなものかな」
「あー、でもわかる気がします。僕も今の彼女と付き合えたの、兄の助言があったからみたいなところありますもん」
やっぱり、みんなそんなものなのかな。家族じゃなくても、目上の存在に絶対助けられて今がある。一人では人間は生きていけない。思い返すほどそれを実感するような日々を過ごしていた。
「僕も、兄にもなにかしようと思います」
「うん。いいと思う。あんまり参考にならない答えでごめんね」
「いえ、めちゃくちゃ参考になりました。一之瀬さんが先輩でマジよかったです」
なんか、今ちょっとだけ先輩って呼ばれることがくすぐったく感じた。ちょっとだけで、きっとまだまだ先輩という面構えにはなれないけど。
誰かに憧れられる生き方をしたい、と思ったのかもしれない。
気持ちが落ち込んでいても季節は巡り、高校を卒業して五年後の春が来た。
私は社会人五年目になった。大学に行ってまでやりたいことをまだ見つけられていないから。働きながらゆっくり自分の未来について考えることにした。
「おはようございます、一之瀬さん」
今年入社したばかりの新人くん。彼は今年、大学を卒業したばかりの二十三歳。私と同い年だ。
「おはよう。ため口でいいんだよ? 同い年なんだし」
私は彼に挨拶をされる度、そう返す。同じ年に生まれて、同じ年で小中高と学校を卒業したのに、大学に行ったか行ってないか。社会に出るのが早かったか遅かったか。それだけで敬語を使うのは世の中ではきっと普通だけど、私はまだまだ未熟で。先輩扱いをされていいほど立派じゃないから。
「いえ。一之瀬さんと同じくらい仕事ができるようになるまでは、先輩扱いさせてください。早く追い付きたいので、たくさん教えてください!」
こんなに素直な人が、この綺麗とは言えない世界にいるんだ。そう思うと、この人にはまっすぐな人のままでいてほしいと思う。
「そういえば、今日の飲み会、一之瀬さんは来るんですか?」
そうだ。今日だった。忘れていた。
「行くよ。だって今日は新人さんたちの歓迎会だもん」
ここで行きませんなんて、さすがにできない。それに、入社してすぐの歓迎会はお酒が飲めなかったから色々ついていけない部分もあったけど、二十歳を過ぎてからはたまに飲むとリラックスできるから割と好きだ。
彼はもう飲める年齢だから、きっと楽しめるだろう。
「そういえば、もうすぐ初任給が入るんですけど、一之瀬さんは親になに贈りましたか? 両親に聞いても自分で使えばっかりで答えてくれないんですよ」
初任給か。なつかしい。
えっと、私は、確か……。
「両親にはおそろいのグラスを買って、お姉ちゃんには焼肉をおごったかな」
「え、両親だけじゃないんですね」
心が広いとか、優しいとか、そんな言葉をくれるけど、全然そんなんじゃない。
私は高校を卒業したときの少ない桜を見て、やっと先輩への想いに区切りをつけることができた。
落ち込んで、やさぐれて、焼肉屋さんでは聞いていて聞いていないふりをしていたけど。詩織の言葉でちょっとずつ前を向けたことは紛れもない事実で。
あの日、詩織は、結局ほとんど失敗した焦げた肉を数切れしか食べていなかったことに、先輩への気持ちが思い出に変わっていくにつれて、詩織への申し訳なさがどんどん募っていった。
だから初任給の焼肉は、ちょっとした罪滅ぼしみたいなところがあった。全然、褒められるようなことではない。私の心のもやもやを少しでも晴らすための手段だったから。
「いろいろ迷惑かけてるのは事実だもん。お姉ちゃんも、お母さんみたいなものかな」
「あー、でもわかる気がします。僕も今の彼女と付き合えたの、兄の助言があったからみたいなところありますもん」
やっぱり、みんなそんなものなのかな。家族じゃなくても、目上の存在に絶対助けられて今がある。一人では人間は生きていけない。思い返すほどそれを実感するような日々を過ごしていた。
「僕も、兄にもなにかしようと思います」
「うん。いいと思う。あんまり参考にならない答えでごめんね」
「いえ、めちゃくちゃ参考になりました。一之瀬さんが先輩でマジよかったです」
なんか、今ちょっとだけ先輩って呼ばれることがくすぐったく感じた。ちょっとだけで、きっとまだまだ先輩という面構えにはなれないけど。
誰かに憧れられる生き方をしたい、と思ったのかもしれない。


