大切な人を傷つける、温かい春景色

 放課後を中心に、一か月間の文化祭準備期間が始まった。
 私のクラスは縁日。ヨーヨー釣り、スーパーボールすくい、射的に輪投げ。
 子どものころにやっていたものをもう一度全力でやりたい! と、うちのクラスの実行委員の人が熱弁していた。
 私もやりたい。射的なんて人生で一度もやったことがないし、ヨーヨー釣りもお母さん曰く十個とか釣り上げた経験があるらしいから、十数年越しの腕試しをしたいと思っている。
 まあ、私はやる側じゃなくて迎え入れる側だから、縁のない話だ。
「一之瀬さーん! そっちに赤色あるー?」
 同じ作業をしている女の子に声をかけられて、周りを見渡す。
「あ! あるよ!」
 そう、赤色の折り紙を手渡す。
 私は装飾のチームに分類されて、今は折り紙で提灯を作っている。
 縁日と言ったら夜だから、主に赤とオレンジを使って教室中に飾る提灯を作っていく。
「赤だけとか、オレンジだけとかの折り紙も売ってるんだね」
「ね、知らなかった」
 夏実も隣でオレンジの提灯を折っている。ここをこうすると綺麗に折れるとか、紙が破れたとか報告しあいながら折り紙を続けていると、教室の前扉から夏実の幼馴染の先輩が手を振っていた。
「おーい、夏実! なにしてんの?」
「あ、翠くん。ヒマなの?」
 そう言いながら手を止めて、彼のところに歩いていく。
 私は、わかる。石田先輩は、夏実のことが好きなんじゃないか、と。
「ヒマじゃねーよ! 今日、おばさん早く帰ってくる?」
「ううん。クローズまでだから、いつも通り」
「じゃあ、うちで夕飯食ってけよ。母さん、致死量のカレー作ったらしいからさ」
 そう、夏実を誘うとき、石田先輩はいつもどこか緊張した面持ちになる。
「え! いいの? あたし、おばさんのカレー好きだから行く」
「よしっ。じゃあ、待ってるわ」
 そう、大型犬が尻尾を振って喜んでいるかのように笑って、「またな」と教室を離れていく。
「おかえりーっ」
「ただいま。今日の夜ご飯、カレーになった」
 そう笑う夏実も、どこか嬉しそうに見える。
「いいな、カレー」
「桃香の家の夜ご飯は? 今日もお姉さん?」
「んー、どうかな。お姉ちゃん、今日は仕事だからなー」
 食べ物の話をしていると、おなかがすいてくる。私はカバンから青い箱のクッキーを取り出して、中の二袋を夏実にあげた。
「これ美味しいよね」
「しっとりサクサクなのがいいよね」
 そう、どうでもいい話をしながら、そのあともひたすら色紙を折り続けた。