「桃、おかえりー」
靴を脱いでリビングの戸を開けると、姉の詩織がハンバーグをひっくり返しながら私を迎え入れた。
「お姉ちゃん、おなかすいたー」
「うん。もうすぐできるから、着替えておいで」
詩織は社会人だ。住宅メーカーの受付の仕事をしている。正社員ではなく、契約社員。
この働き方を選んだのは、仕事と夢を追いかけることを両立したかったからだそうだ。
「あれ、ていうか、今日お母さんは?」
「遅くなるって。教室の装飾、梅雨仕様に変えるんだって」
「へぇ、そっかー。幼稚園からしたら、梅雨もイベントなんだ」
ふーん、と興味がないのを隠すのも忘れて適当に返事をする。
「物語の中でも、梅雨ってイベントなんだよ。あーあ、相合傘できる相手、ほしかったな」
詩織は最近、恋愛願望が強いらしい。よく「結婚したい」とつぶやいているのを耳にする。
まだ詩織は二十二歳で、周りの人が次々に結婚する、という人間が結婚に焦るイベントはまだ一度も発生していないのに。なんでそう思うのか、聞いたことはないからわからないけど。
二階の自分の部屋で制服から部屋着という名のパジャマに着替えてリビングに戻る。
詩織はもう、私の分の食事もダイニングテーブルに並べて、いつもの定位置に座ってスマホを触っていた。
「おまたせ」
「いいよー。お父さんも、今日残業だって。さっき連絡きた」
「ふーん。そっか。わかった」
お父さんは、家具メーカーの営業の仕事をしている。大学卒業と同時に就職した会社で終身雇用を目指しているらしい。そんなお父さんは、少しかっこいいと思う。
誰にも言わないけど、尊敬している。
「いただきまーす」
フォークとナイフを持って、ハンバーグを口に運ぶ。肉汁がジュワッと出てくる。詩織のハンバーグは、そこらへんのお店よりもおいしいと思う。
「おいひい」
「よかった。明日のお弁当の分もあるからね」
詩織はお母さんよりも母親みたいだと思う瞬間がある。学生のうちに青春したほうがいい、とか。明日の準備は終わってる? とか。
ちょっと世話焼きなところとか、私の話を聞く姿とか。姉というより、母だ。
「そういえば、もうすぐ文化祭だっけ」
「もうすぐって、まだ準備も始まってないよ」
「あれ? あ、まだ五月終わってなかったか」
シフト制の職場で働いているせいか、たまに曜日感覚がおかしくなっている。
たまに曜日だけじゃなくて、月まで飛んでしまうから、タイムトラベラーみたいだと思ってしまう。
「そうだよー。この前ゴールデンウイーク終わったばっかりだからね?」
「にしても早いよね。だってこの前年明けたばっかじゃなかった? もう半袖とか早すぎてビビるんだけど」
詩織の言葉はやはり親というか。年齢が上がった人みたいな感覚と同じように感じて、私はケラケラ笑いながら、食事を終えた。
靴を脱いでリビングの戸を開けると、姉の詩織がハンバーグをひっくり返しながら私を迎え入れた。
「お姉ちゃん、おなかすいたー」
「うん。もうすぐできるから、着替えておいで」
詩織は社会人だ。住宅メーカーの受付の仕事をしている。正社員ではなく、契約社員。
この働き方を選んだのは、仕事と夢を追いかけることを両立したかったからだそうだ。
「あれ、ていうか、今日お母さんは?」
「遅くなるって。教室の装飾、梅雨仕様に変えるんだって」
「へぇ、そっかー。幼稚園からしたら、梅雨もイベントなんだ」
ふーん、と興味がないのを隠すのも忘れて適当に返事をする。
「物語の中でも、梅雨ってイベントなんだよ。あーあ、相合傘できる相手、ほしかったな」
詩織は最近、恋愛願望が強いらしい。よく「結婚したい」とつぶやいているのを耳にする。
まだ詩織は二十二歳で、周りの人が次々に結婚する、という人間が結婚に焦るイベントはまだ一度も発生していないのに。なんでそう思うのか、聞いたことはないからわからないけど。
二階の自分の部屋で制服から部屋着という名のパジャマに着替えてリビングに戻る。
詩織はもう、私の分の食事もダイニングテーブルに並べて、いつもの定位置に座ってスマホを触っていた。
「おまたせ」
「いいよー。お父さんも、今日残業だって。さっき連絡きた」
「ふーん。そっか。わかった」
お父さんは、家具メーカーの営業の仕事をしている。大学卒業と同時に就職した会社で終身雇用を目指しているらしい。そんなお父さんは、少しかっこいいと思う。
誰にも言わないけど、尊敬している。
「いただきまーす」
フォークとナイフを持って、ハンバーグを口に運ぶ。肉汁がジュワッと出てくる。詩織のハンバーグは、そこらへんのお店よりもおいしいと思う。
「おいひい」
「よかった。明日のお弁当の分もあるからね」
詩織はお母さんよりも母親みたいだと思う瞬間がある。学生のうちに青春したほうがいい、とか。明日の準備は終わってる? とか。
ちょっと世話焼きなところとか、私の話を聞く姿とか。姉というより、母だ。
「そういえば、もうすぐ文化祭だっけ」
「もうすぐって、まだ準備も始まってないよ」
「あれ? あ、まだ五月終わってなかったか」
シフト制の職場で働いているせいか、たまに曜日感覚がおかしくなっている。
たまに曜日だけじゃなくて、月まで飛んでしまうから、タイムトラベラーみたいだと思ってしまう。
「そうだよー。この前ゴールデンウイーク終わったばっかりだからね?」
「にしても早いよね。だってこの前年明けたばっかじゃなかった? もう半袖とか早すぎてビビるんだけど」
詩織の言葉はやはり親というか。年齢が上がった人みたいな感覚と同じように感じて、私はケラケラ笑いながら、食事を終えた。


