「なんで私、こんなに強欲になっちゃったんだろう……」
ショッピングモールのカフェでアイスティーをストローで吸い上げながら夏実に話をぶつける。この寒い日にアイスティーを飲むのは、身体の芯から頭を冷やすためだ。
「そりゃあ、今までなかったものが当たり前に日常に入り込んだら、それに慣れて普通の日常になっていくんだもん。もっともっとって特別を求める生き物でしょ、人間って」
「そういうもん?」
「そういうもん。例えばよ。カップ麺なんて便利におなかを満たせるものがあるでしょ。それを知らなかったとして。はじめてカップ麵に出会ったその瞬間はきっと感動ものだよ? お湯入れて数分間待つだけで食事が出来上がるんだもん」
「たしかに」
「でも、カップ麺という存在に慣れてしまったら、やる気がないときはカップ麵。これといって食べたいものがないときにカップ麵。なんなら一日三食違う味のカップ麺で一日を終えたりすることもあるかもしれないでしょ?」
「人によっては、あるかも」
「そうなったら今度は、栄養満タンのカップ麺が欲しいだの、キャベツだけじゃ物足りないだの、そういう気持ちが出てくるわけよ」
「私の気持ちはレベルの違うカップ麺を求めてるのと同じってこと?」
それはちょっと、普通に嫌なんだけど。私ってカップ麵理論と同じ状態なんだ……。
「まあ、そういうことかな。人間誰しも、そういうものだよ。恋もそうだよ」
「なんか、恋したことあるみたいな言い方―」
「えっ……。えっ、え、いや、違う、違う違う! ないよ、ないない。一般論ってだけ」
そんなに焦らなくてもいいのに。
夏実は誰にも言いたくないような恋をしたことがあるのかな。だから、恋愛には興味がないのかもしれない。
でもそこを深堀りしたところで、夏実に嫌なことを思い出させるだけかもしれないから、特になにか言うこともなく、この話はここで終わった。
「そういえば、最近石田先輩来ないよね?」
「受験勉強で忙しいんだよ。翠くんは教師になりたいんだって」
「え、すごいね」
「うん。まあ、ほとんど毎日夜ご飯はごちそうになってるんだけどね」
石田先輩は、夏実に告白しないのかな。絶対、夏実のこと、好きなのに。
……私と同じか。
だって振られたら、一緒にいられる理由がなくなっちゃう。
今まで築き上げた関係には絶対に戻れない。
恋って、楽しいだけじゃない。幸せなだけじゃない。
黒くてドロドロしたカップ麵理論が、私を飲み込んでいく。
「私ってかわいくないな」
「は?」
「だってカップ麵だもん」
振られたら今までの関係には戻れないのに。アイスティーで身体ごと頭を冷やしているはずなのに。
告白したら意識してもらえるのかな? とか、先輩の受験のことなんてどこかに追いやって、この期に及んでそんなことを考えてしまうんだから。
「あたしは、桃香は恋して、もっとかわいくなったと思うけどな。毎日笑顔だし。キラキラしてる」
「それ、夏実といても一緒でしょ?」
「違うよ。あたしといるときよりもっと、女の子って感じがする。あたしは今の桃香のが好きだな。本田先輩が羨ましいくらい」
そんなに違うのかな。自分ではあんまりよくわかんない。
ただ、先輩のことになるとちょっと積極的になれる。
嫌なことは忘れて、心がぽかぽかする。
先輩もそうだったらいいのにな、と思う。
「やっぱ、イブはなしでいいよ。しっかり休んで、デートに備えな」
「え、いいよ。お出かけしようよ」
「ううん、いいの。翠くんからクリスマスパーティーするって連絡来たから。おばさんのケーキ、お店のよりおいしいから。だからなしにしよ」
スマホを見てちっともうれしくなさそうに言う。むしろどこか辛そうで、でもその理由はなんとなく聞かない方がいいような気がした。
「……わかった」
「……うん。連絡が来るのが服買う前でよかったね」
そう話す夏実は、全然こっちを見てくれなかった。
ショッピングモールのカフェでアイスティーをストローで吸い上げながら夏実に話をぶつける。この寒い日にアイスティーを飲むのは、身体の芯から頭を冷やすためだ。
「そりゃあ、今までなかったものが当たり前に日常に入り込んだら、それに慣れて普通の日常になっていくんだもん。もっともっとって特別を求める生き物でしょ、人間って」
「そういうもん?」
「そういうもん。例えばよ。カップ麺なんて便利におなかを満たせるものがあるでしょ。それを知らなかったとして。はじめてカップ麵に出会ったその瞬間はきっと感動ものだよ? お湯入れて数分間待つだけで食事が出来上がるんだもん」
「たしかに」
「でも、カップ麺という存在に慣れてしまったら、やる気がないときはカップ麵。これといって食べたいものがないときにカップ麵。なんなら一日三食違う味のカップ麺で一日を終えたりすることもあるかもしれないでしょ?」
「人によっては、あるかも」
「そうなったら今度は、栄養満タンのカップ麺が欲しいだの、キャベツだけじゃ物足りないだの、そういう気持ちが出てくるわけよ」
「私の気持ちはレベルの違うカップ麺を求めてるのと同じってこと?」
それはちょっと、普通に嫌なんだけど。私ってカップ麵理論と同じ状態なんだ……。
「まあ、そういうことかな。人間誰しも、そういうものだよ。恋もそうだよ」
「なんか、恋したことあるみたいな言い方―」
「えっ……。えっ、え、いや、違う、違う違う! ないよ、ないない。一般論ってだけ」
そんなに焦らなくてもいいのに。
夏実は誰にも言いたくないような恋をしたことがあるのかな。だから、恋愛には興味がないのかもしれない。
でもそこを深堀りしたところで、夏実に嫌なことを思い出させるだけかもしれないから、特になにか言うこともなく、この話はここで終わった。
「そういえば、最近石田先輩来ないよね?」
「受験勉強で忙しいんだよ。翠くんは教師になりたいんだって」
「え、すごいね」
「うん。まあ、ほとんど毎日夜ご飯はごちそうになってるんだけどね」
石田先輩は、夏実に告白しないのかな。絶対、夏実のこと、好きなのに。
……私と同じか。
だって振られたら、一緒にいられる理由がなくなっちゃう。
今まで築き上げた関係には絶対に戻れない。
恋って、楽しいだけじゃない。幸せなだけじゃない。
黒くてドロドロしたカップ麵理論が、私を飲み込んでいく。
「私ってかわいくないな」
「は?」
「だってカップ麵だもん」
振られたら今までの関係には戻れないのに。アイスティーで身体ごと頭を冷やしているはずなのに。
告白したら意識してもらえるのかな? とか、先輩の受験のことなんてどこかに追いやって、この期に及んでそんなことを考えてしまうんだから。
「あたしは、桃香は恋して、もっとかわいくなったと思うけどな。毎日笑顔だし。キラキラしてる」
「それ、夏実といても一緒でしょ?」
「違うよ。あたしといるときよりもっと、女の子って感じがする。あたしは今の桃香のが好きだな。本田先輩が羨ましいくらい」
そんなに違うのかな。自分ではあんまりよくわかんない。
ただ、先輩のことになるとちょっと積極的になれる。
嫌なことは忘れて、心がぽかぽかする。
先輩もそうだったらいいのにな、と思う。
「やっぱ、イブはなしでいいよ。しっかり休んで、デートに備えな」
「え、いいよ。お出かけしようよ」
「ううん、いいの。翠くんからクリスマスパーティーするって連絡来たから。おばさんのケーキ、お店のよりおいしいから。だからなしにしよ」
スマホを見てちっともうれしくなさそうに言う。むしろどこか辛そうで、でもその理由はなんとなく聞かない方がいいような気がした。
「……わかった」
「……うん。連絡が来るのが服買う前でよかったね」
そう話す夏実は、全然こっちを見てくれなかった。


