大切な人を傷つける、温かい春景色

 今日から三日間も先輩に会えないなんて、地獄ですか……?
 新幹線の窓から流れる景色をぼーっと見つめる。
「そんな顔しないでよ。いい天気じゃん。修学旅行日和でしょ?」
 私の隣に座る夏実は、いつもの何倍も楽しそうにお菓子をつまんでいる。
 そう、今日から二泊三日の修学旅行。広島に行くのだ。
「最近の恋バナ聞かせてよ。移動も長いし、夜も長いし?」
 スティック状のお菓子をきりんみたいにむさぼりながら、まっすぐ私の目を見てくる。
「変わんないよ。いつも通り」
「いつも通りって、最近恋バナ全然聞かないんですけどー」
 ぷくっと頬を膨らませて、怒っているように見せかける。やっぱり夏実はかわいい。
 私も夏実みたいにかわいければよかったのにな。
「夜話すから、今はやだ。人多いもん」
「やった! 約束だからね?」
 そんな話をして二人して寝落ちして、気付いたら広島の地に到着していた。
「すごーい! 海だー!」から始まり、宮島に降り立つと「やばい鹿! めっちゃいる! かわいいー!」と鹿を愛で、クラス単位で順番に厳島神社を参拝した。
「お守り買うの?」
「うん。先輩の合格祈願」
「いいじゃん」
 厳島神社を出てから、自分のお守りを受け忘れたことを思い出したけど、先輩のお土産は買えたしまあいいか。
 いくつものもみじまんじゅうを食べて、おなかがいっぱいになっては、おいしかったからと先輩にお土産として買っていこうと購入する。
 宮島の次は原爆ドーム。その次は広島散策。
「平和って、幸せだね」
 広島焼きを食べながら、見たものの衝撃を思い出しながら今の平和に感謝した。
 好きな人と出かけられること。争いのない日々。夢を追いかけられる時間。
 当たり前が当たり前じゃなかった時間が存在するのだと、強く感じた。
「早く世界が平和になるといいな」
 つい、そうつぶやいてしまう。
 でも、夏実は笑わずに「そうだね」と頷いてくれた。
 そしてとうとう、夜がやってくる。
 とりあえずお風呂に入って、髪を乾かす。私より少し先に明日の準備を終えた夏実は、もう聞く体制に入っていた。
「さて、聞かせてもらおうじゃない。恋の現状を」
 最近は聞いてほしいのに照れくさいのが勝っていて、夏実にも話していなかった。そのツケが今回って来るとは。
「この前、映画観に行って、ゲーセン寄って、うさぎ取ってくれた」
 月一出かけることになったことは夏実も知っているから、ふたりで出かけたことにはあまり詮索してこない。
「先輩ね、そのうさぎ私に似てるって。目がくりくりしてるとことか、そっくりって」
「ほぇー」
「それってさ、うさぎみたいでかわいいってことだったりするのかな? それはさすがに自意識過剰すぎだよね?」
 話始めると、口からどんどんあふれてくる。
 月に一度のお出かけの相手に私を選んでくれたことが、先輩が頼ってくれているみたいでうれしいこと。
 シャチが好きで水槽から離れないところが子どもみたいでかわいかったこと。
 図書室にいるときは、落ち着いていて大人っぽい先輩が、お出かけになるとテンションが上がること。
 そして、顔を見るたびこの人が好きだと感じること。
 夏実が口をはさんでこないことをいいことに、私は息が上がるほどの勢いで先輩の魅力を語っていた。
「……そろそろ寝よ」
「え?」
「ごめん。聞いたのあたしなのに。でも眠気には勝てそうにない」
 そそくさと布団に潜り込んで、本当にすぐに寝落ちした。
 私は布団に潜ってもしばらく興奮したままで、夏実と同じで旅行疲れしているはずなのに、しばらく眠れなかった。