秋の残暑も落ち着いて、気温もちょうどいいような、やっぱり少し肌寒いような。そんな季節になった。
「今日も先輩のとこ?」
「うん。今日は、月に一回の休憩デーなの」
あの夏まつり以降、一か月に一回、放課後は勉強から離れる日を作ったらしい。その方が勉強の効率も上がるからと、先輩は言っていた。
「本田先輩! お待たせしました」
図書室じゃなくて、正門で待ち合わせ。まだ新鮮でドキドキしてしまう。だって放課後デートみたいだもん。
先輩は、友達も受験生だから私を誘ってくれているってわかっているから、絶対口には出さないけど。
「桃香ちゃん。どこ行きたいか決めた?」
「はい。映画とかどうですか?」
「いいね。今なにが公開してるんだろ」
今公開している映画を調べながら、ショッピングモールへ向かう。
先月は、先輩の希望で水族館へ行った。先輩はシャチが好きらしい。三十分ずっと、シャチのいる大きな水槽の前に立っていた。クラゲも、幻想的でかわいかった。
でもなにより、クラゲに夢中になっていた先輩の耳にシャチのショーをやるとい放送が入ったときの切り替えの早さが面白くて、つい笑ってしまった。そんな私に照れたみたいに笑う先輩の顔がいつもより柔らかくて、ずっと瞼の裏に張り付いている。
映画館に着いて、券売機で映画のチケットを買う。
食べ物も買おうと、大きなタッチパネルの前に立って表示されるものに目を通す。
「ポップコーン、なに味が好きですか?」
「キャラメルかな。桃香ちゃんは?」
「私もキャラメルです。いっぱいまとわりついてるのがおいしいですよね」
「じゃあ、大きいのにする?」
「いいですね! 大きいの食べたことないです」
そんなこんなでいちばん大きいポップコーンバケツを買って、ドリンクは先輩がコーラ、私は先輩に勧められた白桃ソーダにした。
炭酸は嫌いなはずなのに、気づいたときには自分からカゴに入れていた。
席に座って、真ん中にポップコーンバケツを置く。山盛りのポップコーンは周りの人が運んでいる姿しか見たことなくて、こんなに近くに大量にあると思うと変に楽しくなってくる。
たくさんの広告が大画面で流れたのち、映画は始まった。
人気ドラマが映画化したもので、有能な医者が困難に立ち向かいながら人の命を次々に救っていくもの。
夢中になって観ていたら、いつしか嫌いなはずの炭酸は底をつき、ポップコーンもあんなにあったのにカスしか残っていなかった。
「いやー、感動したね」
ショッピングモール内のフードコートでハンバーガーを片手に、映画の感想を言い合う。
あのときはもうだめかと思った。とか、自分も怪我をしているのに協力している人がすごく尊敬できたとか。
ポテトが冷め切っておいしさのピークなんてとうに過ぎても、ふたりしてべらべら話し続けた。
そろそろばいばいかな、という雰囲気になったとき、ゲームセンターを見つけた先輩は、少年がカブトムシを見つけたときのようにわくわくした表情になった。
「ゲーセン寄らない?」
「寄ります!」
まだ先輩と一緒にいられることがうれしくて、食い気味に返答してしまった。
はずかしい。
最近は好きだって気持ちがばれないように必死になっている。
ばれたら、もしかしたらこうして同じ時間を過ごせなくなるかもしれないから。
何度考えてもそんなの絶対に嫌。気持ちを伝えるとしたら、まだ少し先だろう。
「お、あれ桃香ちゃんに似てる」
そう指さしたのは、真っ白なうさぎのぬいぐるみ。
「うそ、似てます?」
「似てる似てる。ほら、ほっぺが桃色。あと首のリボンがピンク」
それ、名前と色が同じってだけでは? と思ったけど、先輩の目に私があんなにかわいく見えているのだとしたら、それははちゃめちゃにうれしい。
「先輩にまかせなさい。取ってあげるから」
そう、百円玉を機械の中に滑り込ませる。
UFOキャッチャーのアームを真剣な顔で動かして、うさぎが持ち上がった。
「わ! すごいすごいっ!」
そう手を叩いた直後。ボトン、と音がしそうな勢いで、さっきの位置に着地した。
「やっぱ一回じゃ無理か。かっこいい先輩だぞ! って見せびらかしてやろうと思ったのに」
そんなことしなくても、先輩はかっこいいですよ。
なんてもちろん言えなくて。
私の視線に全く気付く様子もなく、アームとうさぎに本気で向き合っていた。
「お! 取れたー!」
え、いつの間に。四回目でもう取れたんだ。
「すごいです! 取れるものなんですね」
「まあ、十回以上やったけどね」
え、そんなに? そんなに時間たってた?
半信半疑でスマホを見ると、ここに来たであろう時間から、もう一時間以上経っていた。
「はい、これ桃香ちゃんにあげる」
大きな白うさぎのぬいぐるみを渡されて、思わず受け取る。
「うん、やっぱり似てる。目がくりくりしてるとことかそっくり」
納得したように何度か私とうさぎを交互に見て、満足げに頷いた。
「今日も先輩のとこ?」
「うん。今日は、月に一回の休憩デーなの」
あの夏まつり以降、一か月に一回、放課後は勉強から離れる日を作ったらしい。その方が勉強の効率も上がるからと、先輩は言っていた。
「本田先輩! お待たせしました」
図書室じゃなくて、正門で待ち合わせ。まだ新鮮でドキドキしてしまう。だって放課後デートみたいだもん。
先輩は、友達も受験生だから私を誘ってくれているってわかっているから、絶対口には出さないけど。
「桃香ちゃん。どこ行きたいか決めた?」
「はい。映画とかどうですか?」
「いいね。今なにが公開してるんだろ」
今公開している映画を調べながら、ショッピングモールへ向かう。
先月は、先輩の希望で水族館へ行った。先輩はシャチが好きらしい。三十分ずっと、シャチのいる大きな水槽の前に立っていた。クラゲも、幻想的でかわいかった。
でもなにより、クラゲに夢中になっていた先輩の耳にシャチのショーをやるとい放送が入ったときの切り替えの早さが面白くて、つい笑ってしまった。そんな私に照れたみたいに笑う先輩の顔がいつもより柔らかくて、ずっと瞼の裏に張り付いている。
映画館に着いて、券売機で映画のチケットを買う。
食べ物も買おうと、大きなタッチパネルの前に立って表示されるものに目を通す。
「ポップコーン、なに味が好きですか?」
「キャラメルかな。桃香ちゃんは?」
「私もキャラメルです。いっぱいまとわりついてるのがおいしいですよね」
「じゃあ、大きいのにする?」
「いいですね! 大きいの食べたことないです」
そんなこんなでいちばん大きいポップコーンバケツを買って、ドリンクは先輩がコーラ、私は先輩に勧められた白桃ソーダにした。
炭酸は嫌いなはずなのに、気づいたときには自分からカゴに入れていた。
席に座って、真ん中にポップコーンバケツを置く。山盛りのポップコーンは周りの人が運んでいる姿しか見たことなくて、こんなに近くに大量にあると思うと変に楽しくなってくる。
たくさんの広告が大画面で流れたのち、映画は始まった。
人気ドラマが映画化したもので、有能な医者が困難に立ち向かいながら人の命を次々に救っていくもの。
夢中になって観ていたら、いつしか嫌いなはずの炭酸は底をつき、ポップコーンもあんなにあったのにカスしか残っていなかった。
「いやー、感動したね」
ショッピングモール内のフードコートでハンバーガーを片手に、映画の感想を言い合う。
あのときはもうだめかと思った。とか、自分も怪我をしているのに協力している人がすごく尊敬できたとか。
ポテトが冷め切っておいしさのピークなんてとうに過ぎても、ふたりしてべらべら話し続けた。
そろそろばいばいかな、という雰囲気になったとき、ゲームセンターを見つけた先輩は、少年がカブトムシを見つけたときのようにわくわくした表情になった。
「ゲーセン寄らない?」
「寄ります!」
まだ先輩と一緒にいられることがうれしくて、食い気味に返答してしまった。
はずかしい。
最近は好きだって気持ちがばれないように必死になっている。
ばれたら、もしかしたらこうして同じ時間を過ごせなくなるかもしれないから。
何度考えてもそんなの絶対に嫌。気持ちを伝えるとしたら、まだ少し先だろう。
「お、あれ桃香ちゃんに似てる」
そう指さしたのは、真っ白なうさぎのぬいぐるみ。
「うそ、似てます?」
「似てる似てる。ほら、ほっぺが桃色。あと首のリボンがピンク」
それ、名前と色が同じってだけでは? と思ったけど、先輩の目に私があんなにかわいく見えているのだとしたら、それははちゃめちゃにうれしい。
「先輩にまかせなさい。取ってあげるから」
そう、百円玉を機械の中に滑り込ませる。
UFOキャッチャーのアームを真剣な顔で動かして、うさぎが持ち上がった。
「わ! すごいすごいっ!」
そう手を叩いた直後。ボトン、と音がしそうな勢いで、さっきの位置に着地した。
「やっぱ一回じゃ無理か。かっこいい先輩だぞ! って見せびらかしてやろうと思ったのに」
そんなことしなくても、先輩はかっこいいですよ。
なんてもちろん言えなくて。
私の視線に全く気付く様子もなく、アームとうさぎに本気で向き合っていた。
「お! 取れたー!」
え、いつの間に。四回目でもう取れたんだ。
「すごいです! 取れるものなんですね」
「まあ、十回以上やったけどね」
え、そんなに? そんなに時間たってた?
半信半疑でスマホを見ると、ここに来たであろう時間から、もう一時間以上経っていた。
「はい、これ桃香ちゃんにあげる」
大きな白うさぎのぬいぐるみを渡されて、思わず受け取る。
「うん、やっぱり似てる。目がくりくりしてるとことかそっくり」
納得したように何度か私とうさぎを交互に見て、満足げに頷いた。


