大切な人を傷つける、温かい春景色

 私は少女マンガが好きだ。
 少女マンガの世界は、必ず王子様が現れて、ヒロインはすごくすごく幸せになれるから。
 だから私は、少女マンガみたいな恋をしたい、と思って何年も生きてきた。
 大好きになった人のヒロインになれる人生を歩みたいと。
「そーんなの、少女マンガの世界だけじゃない?」
 帰り道。私が夏実に理想の恋を話していると、彼女はストローでオレンジジュースの中に入っている氷をカラカラ鳴らしながら言った。
「えー、そんなことないでしょ」
「いやいや。だって実際、うちのクラスにいるカップルだって、この前付き合ったかと思ったら一か月もしないうちに別れて、また一か月もしないうちに新しい恋人作ってるじゃん」
「……たしかに」
 どうしていつにも増して理想の恋のことを考えてしまうのか。
 それはきっと、詩織がパソコンを眺めながら、いつもの一言をボソッと零したからだ。
「ねえ、夏実」
「なに?」
「青春って、なんなんだろうね」
「それは……。なんなんだろうね」
 私が質問したはずなのに、夏実まで首をかしげてしまった。
「やっぱり恋すること? ほかにも答えってあるの?」
「ちゃんとした正解があるかはわからないけど、でも、まだまだ高校生活を気楽に過ごせる時間はあるし、桃香なりの答えは見つかるんじゃないかな。知らんけど」
 最後の一言を聞いて、思わずプッと吹き出した。あまりにも興味がなさそうだったから。
「夏実はどんな恋が理想なの?」
 ふと気になって、ドーナツを持つ手を止めて夏実を見た。
 夏実は「んー……」と少し考えるように首を左に傾けて、口を開いた。
「あたしは恋には興味ないな」
「えっ、なんで?」
「なんとなく。他人と休みの日に会うとか疲れちゃうもん。桃香は親友だから、毎日会っても会い足りないけどさ」
「えー、なにそれ。そんなこと言われたら照れちゃうよぉ」
 つい、えへへ、と照れ隠しのように笑いながら、そのあとはなんでもない話をした。
 明日から文化祭の準備が始まること。今日の授業のこと。新作のドーナツの味が好みかどうか。
 そんな明日には忘れているようなどうでもいい話を一時間ほどして、私たちはお互い帰路についた。