大切な人を傷つける、温かい春景色

「いい? スキンケアは洗顔、化粧水、美容液、乳液の順番ね。で、そこに朝は最後に日焼け止めを塗るの」
 結局昨日はショッピングモールで買い物をして、二人してまだ観られていなかった、毎年新作が公開される小さい探偵さんの映画を滑り込みで観て。課題は一ミリも進まないまま私は数学のワークを夏実の家に置き去りにして家に帰った。
 そして今日も、こうして未経験のスキンケアを教えてもらっている。
「いつも洗顔したら日焼け止めだけ塗ってた。一気に大人になった気分」
 初めて化粧水を手に出して、スポイトで小瓶の中の美容液を吸い取って、乳白色のとろみのある液体を顔にのせる。
 正直こういうことにはあんまり興味はなかった。でも、いざ手を出すと一つ大人になったみたいでワクワクして、楽しい。
「よーし、ここからがメインだよ。毎日一緒にやってあげるから、夏休み明けまでに完璧にできるようにしよ」
 そう、昨日買ったものを一つずつ紙袋の中から取り出して、開けていく。
「まずは化粧下地。その次にコンシーラーだけど、学校にやっていくならそこまでしっかり隠さなくてもいいかも。そもそも、桃香、肌綺麗だし」
 そう、水色の下地を手の甲に出して、スポンジにつけて私の肌につけていく。コンシーラーとやらは「目の下のクマのところだけちょっとつけるね」と指でとんとん馴染ませていく。
「次にファンデーション……と言いたいところだけど、私はノーファンデ派。制服とかお気に入りの服に色移りするの嫌だもん。だから、コンシーラーの次はフェイスパウダーね」
 だからファンデーションは買わなかったんだ。てっきり忘れているからだと思っていた。まあ、私も買い忘れに気付いたのは寝る直前だったけど。
「そしたらアイブロウで眉毛の足りないところを描き足す……前に、軽く整えよっか」
 そう、電気シェーバーで簡単に形だけ整えて、眉を描いてくれた。
「ナチュラルなアイシャドウ塗って、アイライン描いて……。チークして、リップ塗ったら完成!」
 そう、渡された鏡に映った自分を見ると、まるで生まれ変わったみたいになった。自分で言うのもなんだけど、かわいいと思った。これなら、自信をもってあの人を探せる気がする。
「夏実すごいね。魔法使いみたい!」
「でしょ? もっと褒めてもいいいんだよ?」
「夏実さまーっ! 明日も教えてください!」
「よろしい。一緒にやって進ぜよう」
 次の日から毎日一緒にメイクの練習をして、一緒にランニングをして。たまにダイエットと称してカラオケとかバッティングセンターに行っては二人でギャーギャーはしゃぎながら遊んで。
 気づいたら夏休みは終わり、私の目の前には新学期初日の実力テストが広がっていた。