大切な人を傷つける、温かい春景色

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「『別に軽音部の部員さんに興味があるわけじゃないといいますかー』って! 素直すぎるでしょ! 目もすごかったよ? なんだこいつ、みたいな。あたし笑いこらえるのに必死だったんだからね」
 その出来事がついさっきのことのようにまたゲラゲラ笑って、涙がちょちょ切れそうになっている。
「ほんっとに最高。桃香ってほんとたまにガチで面白いよね」
「いつもはつまんないみたいじゃんかーっ」
「たまに面白いから、好きなんじゃん」
「あ」
「だって! 毎日面白いと、いつか飽きそうだし! 絶対ないけど!」
 ありがとうを言う前にあせあせと早口でまくし立てて、ぜえぜえと息を切らしている。
「課題やろ。早く終わらせないと、夏まつり行けなくなっちゃう。今年は絶対一緒に行こうね。今年は絶対一緒ね」
「今年だけじゃなくて、来年も一緒に行こうよ」
 夏実の顔がきらっと輝く。大したことを言った覚えはないけど、ものすごくうれしそうに頬をゆるめて、少し照れたようにうつむく。でもすぐに、寂しそうな顔して私を見た。
「……なに言ってんの。来年は受験生だし。お祭りなんていけないかもだし。それに、桃香は例の好きな人と行くかもじゃん?」
「それもそっか。でも私、まだ進路とか決まってないなー」
「あたしもだよ。夢とか、ないし」
 そう考えると、今も夢を追い続けながら働いている詩織はすごいんじゃないかと感じる。
 高校生からずっと小説家を目指して、青春をすべて小説に捧げてきたらしい。失恋もしたらしいけど、失恋の話には興味がなかったからあんまり覚えていない。
「私の目標は、夏休みが明けたらあの人を見つけることかな」
「いいじゃん。今しかできないし!」
 そう、夏実は机に置いていたスマホで人の探し方を検索し始める。夏実はたまに、私の好きな人に対して雑になることがある。
興味は強制することじゃないから、別に気にはならない。それに、ハッキリ思ったことを言うタイプってわかってるから、この話に対して嫌とか聞き飽きたとか、そういうことを言ってこないからそういう私たちの中のノリみたいな感じなんだと思う。
「だめだ。行方不明者の探し方とかしか出てこない。その人の写真持ってないんだよね?」
「ネットで探そうとしないで。写真持ってないし」
 探すのは夏休みが明けるまでお預けだから、他にやれることはないかと考える。そして、ぱっとひらめいた。
「とりあえず、ダイエットとかしようかな? 最近、顔が丸くなってきたような気がしないでもないし」
「そうか? そうでもないとは思うけど……。桃香がやるならあたしも付き合うよ。あと、メイクも教えてあげる」
「ほんと? ありがとう! 夏実さまぁー」
「よーし、ショッピングモール行こ! 課題は明日一緒にやればいいって」
 課題はそのまま置き去りにして、夏実の家を出る。外はサウナ並みに暑くて、照り返しの熱で世界が歪んで見えるほどだ。
「着いたら一旦アイス食べよ。暑すぎ」
「あー、いいねそれ。私、イチゴチーズケーキがいい」
「あたしはアップルシャーベットかなー」
 そんな会話をしながら、ショッピングモールに入る。中の涼しさに感動しながら、アイスを買った。
「あれ、そういえばさっき、ダイエットするとかなんとか言ってなかった?」
「やるよ? でもアイスは食べないと死んじゃうもん。大義名分ってやつ?」
「氷菓がいちばん太らないらしいよ。交換してあげようか」
 そう、スプーンですくった一口目を、私の目の前に持ってくる。思わずぱくりと口に含んだ。
「おいしいでしょ?」
「うん。思ったよりおいしい」
 別に、はじめからおいしくないとは思っていないけど。チョコミントみたいに好みがはっきり分かれる味じゃないし。ただ、あえて選ぶかといわれたら、別に選ばない。そんな脇役みたいなものだと思っていたのに。
 それを夏実にいうと、理解してくれているのかいないのか、よくわからない顔をしながら、私のアイスを一口食べた。