君のシャッターが俺の終わりを止めるまで

昨日連絡先を交換したあかりから、メッセージが届くことはなかったが、送られてきても困るのでむしろ助かった。昨日の様子から、文化祭の作品展の撮影に必死なのだろう。
 そのまま俺のことは忘れてくれればいいなと思っていた。
 学校に到着すると昇降口で靴と上履きを入れ替えている健吾と会った。
「おはよう」健吾が左の肩を勢いよく叩いてきた。
 正直野球部の連中には会いたくなかった、俺の惨劇を目の前で目撃していたからだ。
あんな無様な姿をさらして、どんな顔をすればいいかわからないし、相手もこちらに憐みの目を向けてくるから、余計に居心地が悪い。
 健吾も例外ではない。できる限り普通に接しようと努力してくれてるのはわかるが、その目はやはり〈かわいそうなおれ〉を見る目だった。
「おはよ。いてーよ」叩かれた左肩を抑えながら鋭い眼光を向ける。
 俺は低血糖体質だから、基本的には朝は機嫌が悪い。そんなことを知っていながら、わざわざ苛立たせる行動をとってくるのは健吾くらいだった。
「おはよー」
 バシッと右肩にも衝撃を感じた。びくっとしながら右側を見てみると、あかりがいた。
「お、おはよ、いてーよ」
 同じように突っ込みをすると健吾が焦った顔をしながら間に入ってきた。
「おい、右側はだめだよ。ケガしてるんだから」
不思議ちゃんの突然の乱入に健吾はかなり動揺していたが、
「もう大丈夫だよ。野球やらないし」というと、今度は俺の顔を見て動揺していた。
思いのほか冷たい言い方になってしまったと思い、健吾の顔を見てみると、案の定口をぽかんと開けていた。
「なんかごめん。じゃあまた放課後ね」
 あかりは手を振りながら廊下を駆け足で去っていった。空気が読めないというよりは、空気を悪くする才能があるんだと思った。
「いろいろ聞きたいんだけど」
 痛みのない左の腕をつかまれ、無言で引っ張られる。ああ、めんどくさいな。と思いつつも文句も言わずについていくと二階の渡り廊下まで健吾に連れてこられた。
各教室がある教室棟と、特別教室がある教室棟を結ぶ渡り廊下は、左右から天井にかけてガラスでできており、この時期はまだ少し暑いと思えるくらいに太陽の光が差し込んできていた。
「野球やらないって、なんで?」
「俺は野球しかやってこなかった。今の俺はバットすら満足に振れない落ちこぼれだ。監督とか、先輩とか、もちろんお前の気持ちもすごい伝わってくる。ありがとう。でも、いっそ野球から離れた方が、俺の心が救われる気がするんだ」
「でも、できることもあるだろう?」
 俺の両肩をもって揺さぶるように語りかけてきた。確かにそうだ。でも、こいつはわかってない。
「野球でケガして野球ができなくなったんだ。俺は人一倍悔しい思いをしていると思う。そんな俺が、みんなが懸命に練習している所を見れると思うか?みんなの成長を喜べると思うか?残念ながら俺はそこまで大人じゃない。無理なんだよ。放課後に聞こえてくる金属音。お前らのランニングの声出しとか、聞こえるだけでぐっと心締め付けられるんだ。だから、俺は野球をやめる。それに監督も桜井先輩も、ほかの先輩だってチームメイトだって、俺が残ることを望んでないだろ」
「そんなこと・・・」
「態度見ればわかるさ」
 健吾はあきらめの悪い性格なのはよく知っている。はっきりと断らないと毎日俺に付きまとってくるだろう。ありがたいが、迷惑だ。だから、できるだけ丁寧にやめることを伝えた。淡々と話す俺の目をずっと見ていた健吾は、しばらくの沈黙の後ため息をついた。
「みんなはそんな風には思ってない。でもお前が辛いなら無理には誘わないよ」
 両肩をつかんでいた健吾の手が下に落ちた。
 ごめん。ともう一度つぶやくと、
「謝るのは俺の方だ。動揺してすまない。お前の気持ちを置き去りにしてしまっていたのかもしれない。でも、親友ではいてくれよ?野球は辞めても俺の親友は辞めないでくれよ?」
「ああ、かんがえとくよ」
「おい」泣きそうになっている健吾をいじるほどの元気が俺にもあったんだなと少し自分に驚いた。
「じゃあこの話はもうやめようそれより・・・」
といったところで、予冷のチャイムが鳴り響いた。
「お前あの子といつ仲良くなったんだよ。昨日の事といい、今日なんて、なんかラブラブだったぞ?」
教室に向けて廊下を歩きながら先ほどの事情聴取が始まった。
「ラブラブとかじゃない。知り合いになった程度だよ」
「どんな関係なの?」
「うーん。あんまり言いたくないかな。お前が思ってるような展開はないから安心して」
 俺とあかりの関係は、なんて言っていいのかわからなかったが、何となく人には話したくなかった。
 朝の会が始まると、昨日同様担任が文化祭のことをぐちぐちと言っていた。クラスで何をやるのか全く決まらないのでこのままでは、放課後残ってもらうぞなんて言うもんだから、運動部を筆頭に円滑な話し合いが開催された。うちのクラスは約8割が運動部に所属しているので、あまり準備に時間をかけなくてもいい休憩室を作ろうということになったらしい。放課後はみんな部活動を優先したいんだろうな。俺自身は放課後にたっぷりと時間があるし、文化祭準備を言い訳にあかりと会わなくても済むなら喜ばしいことだが、そんなことを意見する気力はなかった。
 授業中にあかりからメッセージが届いた。
「今日の放課後あけておいてくれるかい?」
「いま授業中だぞ?」
「そんなことわかってるよ?君だって返信しているじゃないか」
「まあ、そうだけど」
あかりは授業を集中して聞かないのだそうだ。
聞かなくても教科書読めば大体わかると、さらっとすごいことを言ってきた。俺が野球部だったころは、授業をさぼろうもんなら顧問の北島先生に報告が上がるため、それを避けるために、まじめに授業を受けているふりをしていたが、今となってはふりもする必要がなかったので、スマホをいじったりして過ごしていた。
「どこかにいくのか?」
「どこかにはいくけどそれは内緒だね」
 あかりの返信にいちいちイライラしていると続けて返信が来た。
「デートする気分でいてくれればいいんだよ」
「俺の事撮るのか?」
「いいや、今日はね風景をとるよ」
 そのメッセージは既読無視をし、スマホをポケットにしまった。
 被写体と言われたから、てっきりモデルみたいなことでもやらされるのかと思ったが、
安心した。

 放課後になると、教室にあかりが迎えに来た。有名人である彼女がわざわざ俺を迎えに来るもんだから、教室内は少しざわついた。
「変な噂が立たないといいな」と健吾にささやかれたのを無視して、
彼女のもとへ行った。
「わざわざ迎えに来なくても、待ち合せればいいだろう?」
「私はまだ晴馬君の事信用してないよ?逃げられたら探すの大変じゃない」
 俺って信用されていないんだと少しがっかりしたが、そんな俺の事などまるで無視をして、あかりが俺の右手を引っ張り始めた。
「さあ、いこうか」
「ごめん、あの。右手は引っ張らないで、怪我してるんだ」
「やだやだ。晴馬君の怪我はもう治ってるんだから、ほら。痛くないでしょ」
 確かに引っ張られても痛くはない。俺はケガをしたあの試合の日以降、無意識に右手をかばう癖がついていた。
 実際はあかりの言う通り痛みはもうない。でも、なんでこいつケガの事知ってるんだ?
「うん。大丈夫だ」少し疑問をもちながらも、あかりの引かれるがままについて行った。
 校門を出ると、駅の方角に歩き出した。同じように駅に向かう生徒に交じりながら歩く
「今日はあったかいね」
「そうだな。どこ行くんだ?」
「デートだよ」
「場所を聞いてるんだよ」
「内緒かな。楽しみにしていなよ」
高校から歩くこと十分ほどで最寄りの駅に到着した。そこそこ栄えてる駅で、放課後
駅周辺で遊んでから帰る生徒はたくさんいた。
駅自体は5階建ての駅ビルになっており、様々なテナントが入っている。そのほとんどがアパレル関係のお店やおしゃれなカフェなどなので、俺は一度も買い物をしたことは
なかった。
 南口には、様々なお店やアミューズメントパーク、ゲーセンやモールなど、若者向けの街となっている。放課後の学生たちにはまさに楽園といえるほどの栄えた地域だ。そんな南口から駅に入り込み、ちょこちょこ歩く彼女の後を追っていくと、そのまま北口の方に進み駅を出た。
 北口には大きなバスターミナルがあるくらいで、南口の栄え具合から見ると、一気に田舎のような印象を受ける。
部活をしていた時は、バスをよく利用していた。週末の練習試合などでだ。バスターミナルに止まっているバスを見ると、あのバスであそこにいったなと嫌でも思い出が頭の中で再生されて、少し気持ちが重くなった。
バスターミナルを抜け、さらに進んでいくと、古くからあるであろう商店街が見えてきた。アーケードがあるおかげで、天候にかかわらず、特に主婦に人気のある通りだった。              
夕方のこの時間は、ちょうど夕焼けの光がアーケードに差し込み、古臭い商店街がより一層古臭く見える時間だった。
 駅で買い物でもするのかと思っていたが、どうやら目的は違うようだ。
 商店街に入ると、精肉店や鮮魚店、八百屋や薬局など、およそ個人経営であろう店舗が右に左にとつらづらと並んでいた。
 精肉店から香ばしい揚げ物のにおいがする。俺らと同じくらいの年齢のやつらもそこそこ見かけていた。学生にも多少は人気があるようだ。
 そんなお店には目もくれず、彼女はちょこちょこと歩き続けている。
 しばらく歩くと、商店街の丁度中央にあたる場所にきた。前後左右どこを見ても店がずらりと並ぶ十字路の中心で彼女はいきなり足を止めた。
「エモくね?」
「うん。エモい」
 アーケードを通して夕陽が商店街を照らしており、各店々の活気も相まって、昭和の時代にタイムスリップでもしたのかと錯覚してしまうほど、エモかった。
「ちょっと待ってて」
ここに来るまでずっと握られていた俺の右の袖がようやく解放された。
 彼女はおもむろにカバンから一眼レフを取り出し、エモさがにじみ出ている商店街を撮影し始めた。何枚か撮り、液晶で確認し、また何枚か撮りをくりかえし続けている。
 商店街はちょうどかき入れ時なんだろう。
 あちこちで客を呼び込む声が聞こえるし、それに伴ってお客さんがあっちに行ったりこっちにいったりとせわしなく動いてた。
 あかりはそんなことも気にせず、商店街を撮影し続ける。
 通路にカメラを向けたり、お店に向けたりときにはアーケードに向けたり。
 ちょこちょこと周りを確認しながら、位置も変えて、夢中になって写真を撮っていた。
 俺まで通路の真ん中で突っ立っているとさすがに邪魔だろうと思い、角にある店舗の端っこまで移動し、商店街をせわしなく動き続けるあかりと、せわしなく動き続ける主婦たちをぼーっと見つめていた。
「やあ兄ちゃん」
 俺が突っ立ってた鮮魚店の店主だろうか?ねじったタオルを頭に巻き付けた、大柄の男性、青いポロシャツに胸から下に広がるテカテカのエプロンをつけていてた。
「あ、すいません。じゃまですか?」
「いやいや、大丈夫だよ」
店主がニコニコしながら答えた。
「また写真撮ってるんだね」
「彼女の事知ってるんですか?」
「ああ、赤ん坊のころから知っているさ」
 家が近くにあるのだろうか?店主はあかりの事を微笑ましく見ていた。
「君は彼氏かい?」
「いえいえ、付き合わされてるだけっす」
「そうか、一時期悩んでいたんだよ。風景がしゃべらないって。あの子はこの商店街が好きでね。よく写真を撮りに来ていたから、この商店街では有名人だよ。かなり心配していたんだけど、また写真を撮れるようになってよかったよ」
「いつもここで撮影をしてるんですか?」
 あかりを指さし店主に聞いてみると。
「ああ、そうだね。それこそ小学生のまだ小さいころから、この商店街を撮っていたね。最近は来てなかったけどね」
「そんなにも前から・・・。」
「さっきも言ったけど、ここ最近はすごく落ち込んでいてね。撮るものがないけど期限もないってね」
 期限・・・。文化祭のことだろうか?作品展に出すって言ってたけど、そんなにたくさんの写真が必要なのか。
 もう三十分は立っただろうか、そろそろ暇になってきたなと思っていたころ、あかりはにこにこしながらこちらに向かってきた。
「いいの。撮れたよ」
「俺って被写体じゃないの?」
「晴馬君はまだ撮らないよ。まだその時期じゃないもの」
「じゃあなんで俺を連れてきたんだ?」
「目的地はここじゃないよ?さあいこうか」
 再び俺の右の裾をつかみ、商店街を闊歩しだした。時間はさらに老け込み、商店街はかなりの人混みとなっていた。
「写真ってたくさん必要なの?」
「先生はね、過去の写真でもいいって言ってるんだけど、私のわがままでね」
「わがまま?」
「過去の私じゃなくて、今の私を見てほしいなって。だからいま頑張って撮ってるの」
 過去の自分より・・・か。今の俺にはそんなことできないだろうな。
 
しばらく歩くと目の前には、古びた写真館があった。
 飯島写真館。偶然なのかあかりの苗字と一緒だった。
「はいってはいって」
 くるりと俺の後ろ側に回り込み背中を押し込み無理やり店内へと入れられた。
 入るとすぐに受付のような台があり、その向かいには二人掛けソファーがテーブルをはさんで向かい合って置かれていた。
 奥には写真を撮るところだろうか、きれいな壁紙をバックにおしゃれな椅子が一つだけポツンと置かれていた。
 壁にはこれまでに撮った写真だろうか、家族が笑顔でこちらを向いている写真や、子供が着物を着てにこにこしている写真などが何枚か飾られていた。
「こんにち・・・。ああ、あかりか。おかえりなさい」店の奥ののれんから、気優しいそうなおじさんがこちらに向かってきた。白髪の頭はきちんと七三に分けられており、チェックの上着を羽織っている。清潔感のあるおじさん。目元があかりにそっくりだった。
「ただいま。この人被写体」
 俺の方を親指で指さしながら説明していた。訳も分からずおじさんに対して軽く会釈する。
「この人私のお父さん、師匠」
 今度はおじさんの方に指さしながら言った。
「あかり、失礼だろ。ちゃんと紹介しなさい」
 こちらに向かって軽く会釈を返した後、あかりに対して叱責を始めた。会話と見た目、それだけでこのおじさんがあかりの父親であることが分かった。
「ここね。私の家なの」
「え?なんで?」
「とりあえずあがってよ」 
 なんで連れてこられたのか聞きたいのに、あかりは俺の背中を押し続けていた。
のれんで遮られた場所から中に入ると玄関のようなスペースがあり、靴を脱ぐ。
 玄関を抜けるとすぐわきに階段があった。
「二階が私の部屋なんだけど、このままいくと私のパンツ見えちゃうから先に行ってて」
 お父さんがすぐ近くにいるのになんてことを言いだすんだ。と一睨みして、指示通り二階へとのぼった。
 階段を登りきると、扉が一つだけあった。
おかげで迷わずあかりの部屋に到着した。
 部屋に入ると、かなり薄暗かったので、白いカーテンを開けると、夕焼けが程よく入り込んで、中々にエモい空間となった。
 普段は不思議ちゃんなんて言われている彼女の部屋は、壁一面に様々な写真が貼ってあった。風景が好きなんだろうか四季折々の風景が飾られている。
 水色に統一されたベッドの上には、かわいいぬいぐるみが所狭しと置かれており、こんな女々しい一面もあるんだなと感心した。
 勉強机には、きちんと勉強してますと言わんばかりの、問題集や教科書などがきれいに整理整頓されていた。
 本来は本の居場所であろう棚には、おそらく写真がたくさん入っているだろうアルバムがたくさん入っていた。
 野球一筋だった俺は、女の子に対しての免疫が少ない。二人っきりで異性の部屋に入るなんてもちろん初めてだ。
 どこに座ればいいかわからずあたふたしていると、あかりが部屋に入ってきた。
「はいこれ、麦茶」
 両手にコップを握りしめて、その片方を俺に進めてきた。
「適当に座ってればいいのに」
「いや、ごめん俺。女の部屋とか入るの初めてで」
「へー。以外にうぶなんだねー」
 馬鹿にされている気がして虫の悪い顔をしていると、
「でも、私だって男の子部屋に入れたの初めてだよ」と耳を赤くしながら答えるあかりを見て、こちらまで恥ずかしくなった。
 しばらく沈黙が続いたが、耐えられなくなり俺が口を開いた。
「なんで今日俺が必要だったんだ?」
「うん、あのね。晴馬君に私の写真見てほしかったの」
先ほどの本棚から一冊のアルバムを取り出して、俺に差し出してきた。
 アルバムをめくると、そこには壁に貼り付けられている写真と同様の風景が切り取られた写真が何枚も入っていた。桜の花びらが舞い散っている空の写真。
 窓ガラス越しに写るアジサイと雨。力強く太陽に花を向けろひまわりと晴天。
 このアルバムは今年撮ったものなのだろうか、夏までの写真しか納まっていなかった。まさにその瞬間を切り取られている写真はいまにも動き出しそうなほど、生き生きとした表情をみせてくれていた。一通り見終わると、アルバムをあかりに返した。
「悪いが、おれは芸術はさっぱりわかんないぞ?お前の写真は評価されてるらしいが、それを見てもおれにはなんにもわからん」
「うんうん。わかってるよ。野球一筋だったわけだからね。知らない世界だよ。当然だよね」
「だから、一体何なんだよ」
「そんなに怒んないでよ。こわーい」
 リズムを狂わされてばっかりで少し疲れてきた。
「晴馬君にはね。たくさんの世界を感じてほしいの。だから私はあなたにいろいろな世界を教える。そうすれば、私は晴馬君を被写体にした最高の写真を撮れる気がするんだ」
「結局写真のためかよ」
「あれれー?俺のためにって言ってほしかったのかな?」
 たぶんそうだ。どこまでも面倒くさいんだ俺は。たくさん心配も迷惑もかけておきながら、まだ俺のためにと考えてしまっている。
「私と行動して、私の写真を見れば、きっと感想がかわってくるよ。楽しみだね」
「つまり改めて、被写体になることの念押しで、わざわざここに連れてきたってこと?」
「半分、いや三割正解ってとこかな?」
「違うのかよ?」
「普通に友達として、仲良くしようよっていうのが残りの七割だよ?」
 あかりは少し眉間にしわを寄せながら答えた。
「私がみんなから不思議ちゃんなんて呼ばれているから、晴馬君はいろいろと警戒してるんでしょ?でも、私だって普通の女の子。の部分もある。だからさ、仲良くしてよー」
 またまた勘が鋭いな、俺は彼女の事をかなり警戒していた。破天荒な噂をたくさん聞いているのはもちろんのこと。これまでの俺に対しての行動もかなりおかしかったからだ。
 でもいま目の前にいる彼女は純粋にお友達が欲しいといったまなざしで俺を見つめている。こいつといると本当に飽きないなと思い
「ああ、こちらこそなかよくしてくれ」と気づけば彼女のお願いを了承していた。
「そういえば、魚屋さんのおじさんが、久々に写真撮ってるって言ってたけど、そうなの?」
「あー。まあね。ちょっとしばらくとってなかったんだよね。スランプって感じ?」
「へえー。そのスランプは脱したの?」
「いまはリハビリ中って感じ、何撮っていいかわからなくて、写真の意欲もなくなってきて、それで旧校舎にたむろして夕日をみてたら、晴馬君が現れた。」
テーブルの上にあった麦茶を一気に飲み干すと、コトンとからになったグラスを置く。
「君が現れたときに思った。この人を撮りたいって。久々に意欲がわいたんだよ」
「だからそんなに執着してんのか、俺に」
「私の写真見たでしょ?壁に貼ってある写真も見えてるでしょ?私は人をカメラで撮ることはしなかったの」
「それは・・・なんでなの?」
「うーん。プロのカメラマンはね、人を撮るときに自分が撮りたいように被写体を誘導するの。それで最高の一枚を撮るんだけど、私はそれが苦手なの。自然はね、私の要求なんてなにもくみ取ってくれないの、だから待つしかない。でも待てば自然が私に最高のシャッターチャンスをくれるんだよね。だから、人より自然とか風景とかのほうが好きなの」
何を言いたいのかいまいちわからなかったが、わかったふりをしておく。
「前にも言ったけど、今度の文化祭で写真展を開くために、たくさん撮らなきゃなんだけど、自然相手に焦りは禁物でさ、でも、焦らないとっていう気持ちもあって。なんやかんやで撮るの嫌になってたんだよね」
こいつにも焦りとかあるんだなと思っていると、ほっぺを膨らましながらあかりがこちらをにらみつけてきた。
「な、なんだよ」
「いま絶対失礼なこと思ってたでしょ」
本当に勘の鋭いやつだな。
「晴馬君わかりやすい顔してるよ?」
「じゃあ次からは、俺の事撮るの?」
あかりの追及は無視して、話を進めることにした。
「うーん。わかんない。晴馬君次第かな」
「なんだそれ」
結局つかみどころのないあかりに翻弄されてばっかりだ。
だが少なからず、彼女に対して興味がでてきた。部屋に上がらせてもらっている以上、会話がなくなると、気まずい空気が部屋全体を覆っていた。
 「そういえば、風景ってしゃべるの?」
 先ほど魚屋の店主が言っていたことだ。あかりは風景がしゃべらなくなったと言っていたらしい。
「うーん。私の語彙力では説明できないから喋るってことにしてるけど、喋らないよ?でも、感じることはある。今撮って!って念じられるみたいな感じ?私はそれに従って写真を撮ってる。それがなぜか評価されてるって感じ」
 言っていることは何もわからなかったが、それはあかりだからこそ感じ取れる何かなんだろう。
 またも沈黙が訪れてしまった。普段はべらべらしゃべるくせになんで話さないんだ。
 気まずくなるくらいならと、彼女に対して質問攻めをしてみることにした。
「お前って、何組だっけ?」
「一組だよー」
俺の通う高校はおよそ30人のクラスが一学年あたり5クラスほどある。俺のいる五組と一組は正反対に位置するため、学校内で会うことはほぼなかった。あかりは有名人だからもちろん一組にいることは知っていた。
「写真以外の趣味は?」
「お、私に興味を持ってくれてるのかな?」
「写真以外の趣味は?」
「晴馬君はちょくちょく私を無視するね。そうだなー。甘い食べ物が好きで、猫が好き。あとは野球観戦も好きだったりするよ?」
意外な返答だった。甘いものもねこが好きなのもまあわかるが、野球観戦が好きなのは予想外だった。
「お父さんが野球好きでね。小さいころからよくテレビの中継見てたんだよね。その影響で、今でも好きかな」 
「野球すきなの?じゃあうちの試合とかも見てたの?」
「ん?見てないよ?私プロ野球しか見ないから。そういえば晴馬君は野球部だったよね。活躍を私に見てほしかった?」
「そんなんじゃないけど、どうせ撮られるならマウンドの上がよかったなって思っただけだよ」
「そっか、まだ被写体にはなれなそうだね」
「どゆこと?」
「まあまあじっくりと君の再生を待つことにするよ」
何を言っているのかまるで分らなかったが、深堀するのはやめておいた。
 しばらくすると、あかりの母親らしき人物がドアの向こうであかりを呼び出した。時刻は夜の六時を過ぎていた。そろそろ迷惑になるなと思い、カバンを持ち上げ帰る支度をしていると、あかりが部屋に戻ってきた。
「晴馬君って潔癖だったりする?」
「いや、べつに」
「じゃあ、人見知り?」
「なんだよ、別に違うよ」
「それならよかった。一緒にご飯食べよう」
俺が他人が作ったご飯を食べれるかどうか、そして、赤の他人とご飯を食べれるかのかくにんだったらしい。さすがに迷惑だろう・・・。
「それはさすがにいいよ。もう帰るし」
「ダメだよ。お母さんもう晴馬君の分も作ってるから、食べたらかえりなさい」