君は泡沫にならない


   7

 窓がガタガタと揺れる不穏な音と、外から聞こえてくる強い雨風の音が、穏やかな夜の静寂を妨げていた。
 終業式が終わるのを待ち受けていたかのように、台風が到来した。仮に学校があったとしても休みになっていたかもしれないが、休校になるのか否かとやきもきしながら家にいるよりは、これはもう引きこもるしかないと決めてのんびりと過ごせる方が、気分的にいくらかマシな気がした。もっとも、台風が来ようが来まいが、端から特に誰かと遊ぶような予定もないのだが。
 夕食も風呂も済ませ、自室でベッドに腰掛けながらぽちぽちとスマートフォンのゲームに興じていた綾人は、それが一段落したところでふと時刻を確認した。そろそろ夜の十一時になろうかというところだが、寝るにはまだ早い。
 動画でも見るかと、アプリを立ち上げる。さして熱心に追っているわけでもないが、たまに動画が上がったときに見ている配信者が、新しいゲーム実況を上げたとおすすめに出てきた。
 再生しようと画面をタップしかけたところで、窓の外で大きな音が鳴った。風でなにかが飛んできたのだろうか、と一旦ベッドから腰を上げて、窓へと歩み寄る。暗闇の中に目を凝らしてみるが、よく見えない。
 とりあえず朝にならなければ外は確認出来ないだろう、と早々に諦めをつけ、窓から離れる。外が騒がしいのでイヤホンにしようと思い、ローテーブルの上に置いてある充電ケースに手を伸ばそうとした。
 その時だった。
 プルルルル──と階下から電話の音が鳴り響いた。瞬間。嫌な予感が、背筋をぞわりと這い上がる。理屈では説明出来ない。ただ「予感」と表現するしかなかった。ともかく、その着信音が耳に入った瞬間に、綾人はテーブルに伸ばしていた手を止め、全ての神経をその電子音に集中させ、息をひそめた。
 こんな時間に、一体誰が、なんの用で。
 電話の音は、まもなく途切れた。父親か母親が取ったのだろう。かすかに聞こえてくる話し声に、耳を傾ける。どうやら母親が出たようだ。少しの間、電話の向こうの相手と会話を交わす声が聞こえてくる。
 しかしそのうち、様子を伺いに父親もやってきたようだった。電話の相手と話している母親になにかを尋ねているのか、ぼそぼそと父親の声が漏れ聞こえてくる。
 そこでようやく、綾人は動いた。父親まで加わったということは、不審な電話でもかかってきたのか、あるいは珍しい相手から連絡があったのか、あるいは……何か、とても重要なことを知らせるための着信なのか。
 手にしたままだったスマートフォンをテーブルの上に置くと、自室のドアを開け、廊下に出る。先程自分の中で挙げた候補のうちの三つ目ではないことを、心の中で無意識に祈っていた。どく、どく、と鼓動が嫌に大きく脈打ち、踏み出す足は変に緊張していた。
 階段をいくつか下りると、玄関から続く廊下にある電話が見える。そしてそこに、父母の姿があった。ちょうど母親が受話器を置いたところだった。
「……なんの、電話?」
 綾人の問いに、母親が振り返る。その顔からは、血の気が引いていた。彼女の背を支えるようにして隣に立つ、父親の顔からも。
 それを見て、「三つ目」であることを直感的に悟ってしまった。指先が冷たくなっていくのがわかる。
「病院から、連絡があって」
 階段の途中で、綾人はその報告を聞いていた。小さく震え始めた手が強く手すりを握りしめたのは、その震えを抑えるためか、あるいは自分の身体をしっかりと支えようとするためか。
「光希が……」
 想像していた通りの名前が、母親の口から呟かれる。
「容態が、急変したって。心拍数が下がらなくて……ICUに移動したらしいんだけど、万が一のこともあるからって……」
 万が一のこと。その言葉が、頭の中で繰り返される。
 それは、つまり。
「父さんが車を出す。準備をしてきなさい」
 母親と同じく青い顔をしつつも、いささか冷静さを保って父親が言う。母親の背中を支えたまま、綾人に目を向けて病院へ向かう準備をするよう促す彼に、声なく頷き返すことしか出来なかった。
 踵を返し、下りたばかりの数段を上る。部屋のドアノブに手をかけた時、こらえきれずにすすり泣くような母親の声と、「回復の見込みがないわけじゃないだろ」と励ます父親の声が聞こえてきた。
 ドアを閉じて自室にひとりきりになる。先程まであんなにうるさく感じていた外の嵐が、不思議と全く気にならなくなっていた。
 準備をしないと。準備って、何すればいいんだ?
 あまり回っていない頭で、のろのろと動く。ひとまずスマートフォンを手に取ろうとして、ああ、先に着替えなければ、と思いつく。寝巻き代わりにしているよれたTシャツとジャージを脱ぎ捨て、外出用の服へと着替える。とはいえ、外出用のそれも着慣れたTシャツとジーンズなので、大して違いはない。
 そうして、再びスマートフォンへと手を伸ばした時、ふとローテーブルの隅に置いていたあるものへと視線が吸い寄せられた。
 自転車の鍵だった。母親が友人たちとどこかへ旅行に出かけた際、お土産として買ってきた小さな石のお守りを適当にくくりつけた、鈍く銀色に光る、小さな鍵。通学や外出のときに、綾人の足として利用している、乗り慣れた自転車の鍵。
 何故か、スマートフォンではなくその鍵を手に取っていた。
 脳裏を、いくつかの記憶が断片的に駆け巡る。それは自転車を漕いで光希の入院する病院へ通った記憶から始まり、病院への道中に茉白と出会った記憶をたどり、そして最終的に行き着いたのは、図書室での彼女との会話の記憶だった。
 ──人に生命力を与えることができるの
 その言葉が脳裏に蘇るのと、スマートフォンも持たずに衝動的に部屋から飛び出すのは、ほとんど同時だった。
 階段を駆け下りてきた綾人に、車の鍵を手にして居間から出てきた父親は、驚いた顔を向けた。彼がなにかを言う前に、ほとんど叫ぶような声で、
「ふたりは先に病院行っててくれ! 俺も後から行く!」
 と告げる。
「後からってお前、どうやって……おい!」
 父親の言葉を最後まで聞くより早く、引っ掛けるようにしてスニーカーを履き、玄関の扉を横に開いた。
 途端、家の中にいても耳に入っていた強風の音が、段違いに大きくなる。「この嵐だぞ!」と張り上げられた父親の声が背中に届いたが、遮るように玄関を閉めた。
 軒下から一歩踏み出しただけで、容赦なく襲い来る大粒の雨によって身体が濡れる。そんな中を、庭にある車庫へと向かって綾人は走り出した。
 そこに置いてある自転車に、唯一手にした鍵を差し込む。カシャン、と軽い音を立てて鍵が解錠される。飛び乗るようにしてまたがると、風と雨が凶暴に降りかかる空の下へ、自転車を漕ぎ出した。
 綾人を止めようとしているのだろう、玄関を開けた父親が何事かを大声で言っているのが、横目に見えた。
「必ず行くから!」
 雨風の音に負けないように叫んだその声は、果たして彼に届いたのだろうか。
 それを確かめる余裕もないままに、綾人は自転車を漕ぐ脚に力を込めた。

 光希と一緒に遊んだ思い出といえば、その多くが家の中でのものだった。
 今よりももっと運動が制限されていた光希と、テレビゲームやカードゲーム、それからふたりで考えたオリジナルの遊びなどでたくさんの時間をともに過ごした。
 その中でもよく覚えているのが、家の中に秘密基地を作った時のことだ。
 普段の生活ではあまり使用することがない仏間に、ダンボールや座布団などでふたりだけの小さな基地を完成させた。その中にトランプやおもちゃを持ち込んで、よくその中で遊んでいた。両親ももちろんその秘密基地の存在には気付いていただろうが、勝手に片付けるようなこともせず、そのままにしておいてくれた。
 最初はダンボールふたつ分ほどの、身を寄せ合って中に入ればぎゅうぎゅうになってしまうほどの小さな小さな基地だったが、光希とふたりで少しずつアップデートしていったそれは、徐々に立派なものへと変わっていった。
「ぼくたち、家づくりのセンスあるよ」
 いつだったか、光希が得意げにそう言ったのがおかしかったのを覚えている。秘密基地にはちゃんと開閉式になっている窓やドアが付けられ、最初は開いたダンボールを被せただけの平坦だった屋根もちゃんと三角に仕上げた。流石に二階建てとまではいかなかったが、立ち上がれるほどの高さになると、外側に特に用途のない階段をつけたりもした。
「モンスターがおそってきた時のためにすっごくかたいかべを作ろう」
 と光希が言い出した時は、ふたりして近所の廃材置き場に良さそうな素材がないか探しに行ってみたが、子どもでも扱えるような手頃なものは見つからなかった。前提の話として、本当に廃材を家の中に持ち込もうものなら流石の両親も怒るだろうという結論になり、防御壁作りは断念した。
「てか、モンスターなんてこねぇよ」
 廃材置き場からの帰り道、そもそもの話として光希にそう伝えたところ、彼は廃材の代わりに適当に拾ってきた長い木の枝をぷらぷらと手で揺らしながら、小さく頬を膨らませた。
「くるかもしれないよ。しずかちゃんにかりたマンガには出てきた」
「あいつはまたそういう……」
「手首から先をもっていくモンスターなんだよ」
 碌でもない内容だな、と思いながらも、漫画の内容を説明する光希は楽しそうな様子だったので、話すままにさせておいた。
 学校から帰宅してすぐに家を出たが、すっかり日は沈みかけており、眩い夕日がふたりの長い影を道に落としていた。通り過ぎる民家から、時折良い匂いが漂ってくる。我が家も、帰ればすぐに夕飯だろう。今日のご飯はなんだろうか。
 そんなことを考えていると、隣でぺらぺらと漫画の内容を語っていた光希の話は、いつの間にか秘密基地へと戻ってきていた。
「かべが作れないのざんねんだな。かわりにいっぱいぶきを作ろう」
 武器か、それなら色々作れそうだ。と頭の中で構想を巡らす。ダンボールで銃を作って、そうだ、通信機なんかもあれば雰囲気が出るかもしれない。
 先ほど、モンスターなんか来ないと光希の懸念をあしらったばかりではあったが、すでに次の制作物のことを考えて綾人の心はわくわくと弾み始めていた。
「何かあったら、ぼくがぶきで兄ちゃんをまもるから」
 そんなことを言い出した光希に、綾人は笑いながら「えぇ?」と返す。
「逆だろ」
「ぎゃくじゃないよ! ぼくだって兄ちゃんをまもれる!」
 小さな眉間に皺を寄せて、光希は手にした枝をぶんぶんと振り回した。
「はは、ありがとな」
 笑って頭を撫でてやると、弟は気合いを入れるように、ふんと鼻を鳴らす。
「兄ちゃんよりでっかくなって強くなるから!」
「はいはい」
 流石に自分よりは大きくならないだろう、と思いながらも、綾人はあの時、彼のその言葉を信じてみたくなった。
 その頃から体調を崩すことが多く、学校を休んで家で一日中寝ていたり、入院を余儀なくされたりすることがよくあった光希。そんな彼が、大きくなって丈夫な体を手に入れて、元気に過ごす姿を、見られればいいと思った。

 それは、彼が語るモンスターの襲来よりはずっと現実的で、あり得る未来だという気がしていた。
 なのに。

「はぁっ、はぁ……っ」
 どんなにペダルを動かす脚を速く回しても、どんなに力を込めて漕いでも、目的地は果てしなく遠かった。
 海に飛び込んだようにずぶ濡れになった体を、容赦ない風がさらに重くする。冷酷にも正面から吹き付ける強風は、綾人の進行を阻害しようと、意思を持っているようにすら感じられた。
 荒い息を吐き続ける喉から、ゲホ、と濁った音が出る。体力が限界を訴え、肺が悲鳴をあげているが、知ったこっちゃない。
 きっと今、この瞬間にも、光希はもっと苦しい思いをしている。そんな弟のために、綾人が今できるのは、一刻も早く「彼女」のもとへ辿り着くことだった。
 目に入り込んできた雨粒で視界が不明瞭になる中、何度か瞬きをしてとらえた遠方に、それを見た。
 階段上に連なった土地の、一番上。家屋から漏れる温かな光が、ぼんやりと滲んで映る。
 最後の力を振り絞り、綾人は雨で滑りやすくなったペダルを踏みしめる足の裏に、思い切り体重を乗せた。

 初めて訪れる家のインターフォンのボタンに、緊張を感じている余裕はなかった。
 指先を押し込むのに合わせて、ピン、ポーンと音が鳴る。
 スマートフォンを持たずに出てきたので、時間を確認するすべも無いが、恐らく日付が変わる頃だろう。そんな時間に突然やってきた訪問者を不審がるかのように、家の中から足音が近づいてくるまで、少し間があった。
 全く整わない息をそのままに、綾人はただ家人が出てくるのを待った。
 やがて磨りガラス越しに人影が見えたかと思うと、そろりと玄関のドアが横に開かれた。
 現れたのは、綾人と同じくらいの背丈の男性だった。
 四十代くらいだろうか、口元や目元にシワが刻まれ始めた顔に、訝しげな表情を浮かべ、深夜の来訪者を見定めている。
 恐らく、彼女の父親だろうと思った。
「はい……」
 逸る気持ちのまま用件を告げようとして、しかしヒリついた喉からは思うように声が出てこなかった。
 唾液を一度飲み込み、改めて口を開く。
「夜分にすみません。茉白さん、はいらっしゃいますか」
 その言葉に、家人はじっくりと綾人の全身に目を走らせた。
 服を着たまま海に飛び込んだのかとでもいうような有り様だ。それこそ、あの日のように。
「こんな時間に、何の用だ」
 茉白の父親の厳しい口調と声も、当然のものだった。こんな深夜にいきなりやってきて、娘を出せと言われて、素直に応じる親はそうそういないだろう。
 それをわかっていながら、綾人は食い下がった。
「どうしても、茉白さんにしか頼めないんです。お願いします」
 深く頭を下げて、心から懇願する。
「娘とどういう関係だ! 何の用件で来たのかを言え!」
 家人の声が、さらに荒くなる。綾人は逡巡する。
 人魚の力は家に伝わるものだと言っていたから、茉白の力のことは父親も知っているだろう。
 納得してもらうには、やはりきちんと理由を説明するしかないか……と口を開きかけたところで、家の奥の方から声がした。
「お父さん、待って」
 父親の怒号を聞きつけて来たのだろう、聞き覚えのある声音が耳をくすぐる。
 思わず頭を上げると、家人の向こうに彼女の姿が見えた。
 紺色に白いラインの入った寝間着を身にまとい、髪を低い位置でひとつにまとめた茉白は、一目で就寝前だと言う事がわかる。
 綾人の姿を見て目を見開いた彼女は、サンダルを突っかけて三和土まで下りてくると、
「大丈夫、私の友達」
 と父親に声をかけて、下がらせようとする。 父親は渋る様子を見せたが、茉白が「信用出来る子だから」と重ねると、まだ不審がる様子を残しつつも廊下の奥へと戻っていく。
 その姿を見届けた後、彼女はぱっと綾人を振り返った。
「ずぶ濡れじゃない。待ってて、タオル取ってくる」
 そう言ってすぐさま家の中へと引き返そうとする彼女の腕を取る。
「いい。それより、すぐに来て欲しい」
「行くって……どこに?」
 きょとんとした表情で、茉白は綾人の顔と外の様子に交互に視線を走らせた。こんな時間、こんな天気で出かけようと言われて、すぐに頷いてもらえるはずがないのは百も承知だ。
 それでも綾人には、彼女しかいなかった。他に誰を、何を頼ればいいのか、まるで思い浮かばなかった。
「病院に」
「病院?」
「ああ、光希……弟が」
 そう言いかけたところで、動きが止まった。口が開いた形のまま、静止する。
 光希は今、危険な状態だ。
 そして、茉白の力は……彼女自身の命を、代償として使用する。
 もし。
 もしも茉白が今の光希に力を使ったとしたら。
 ――茉白の命は、どうなる?
 彼女の腕を掴んでいた手のひらから、力が抜けていく。するりと離れた綾人の手を、茉白は不思議そうに見つめていた。
 強い風が、三和土にいる彼女の前髪にまで雨粒を飛ばした。
 全身を伝う雨水が冷たい。脱力した指先から体の中心に向かって、全身が氷と化していくようだった。
 無理だ。
「……ごめん」
 震える唇をどうにか動かして、ようやく紡げたのはたったの三文字だった。
 呆然とした表情で綾人を見つめている彼女から、一歩、二歩と後ずさる。
 軒先から出た背中側が、再び容赦のない雨に晒される。
 綾人の様子になにか察するものでもあったのか、彼女の眉根が怪訝そうに小さくしかめられたのが見えた。
「ねえ」
 茉白が何かを言おうとする。その呼びかけの次の文字が放たれる前に、綾人は踵を返していた。
 庭先に乗り倒してそのまま雨ざらしになっていた自転車を起こし、サドルにまたがる。
「綾人くん!」
 漕ぎ出した背中に、茉白の声が届いた。
 それがまるで、自分を叱責しているようにも感じられ、逃げ出すように綾人は彼女の家を後にする。身体だけでなく、頭の中もひどく冷えていた。先ほどまでの焦りはどこかへ消え去り、それでも一刻も早く病院に向かわなければという理性に従って、茉白の家の敷地から車道へとつながる石畳の坂道を、ブレーキを利かせることなく一気に下る。
 今この瞬間も生きるために戦っているであろう光希の姿が勝手に脳内に思い浮かび、それはやがて幼い頃の思い出の中の彼へと移り変わった。兄より大きくなって強くなるのだと、鼻息荒く豪語していた光希。しかしその笑顔にかぶさるように、先日の帰り道での茉白の姿が浮かび上がる。素敵なことだよね。そう言って綾人を振り返り、笑った彼女。
 ――無理だ。
 荒い呼吸を吐き出しながらも震える唇を噛み締めた。顔を伝う水が、隙間から口内へと入り込む。もはや、それが雨なのか、汗なのか、それとも何か他のものなのか、自分でもわからなかった。
 どんなに光希を助けたいと思っても、その手段があるとしても。その方法が茉白の命を危うくする可能性があるのなら……綾人には、それを選び取ることは出来ない。それだけは、どうしても出来なかった。
 ごめんな。
 そのつぶやきは、果たして声になっていたのか、それとも脳内だけで言葉にしたものだったのか、綾人自身にもわからなかった。
 やっぱり、何も出来ない。なんの力にもなってやれない。こんな兄で、本当にごめん。
 呼吸が不規則に乱れる。喉が詰まって、不格好な声が漏れていたかもしれない。
 それでも、誰もそれを耳にすることのない嵐の中、綾人は病院に向かって、ただひたすらに自転車を漕ぎ続けた。