最近伊吹の様子がおかしい。
伊吹から友達と買い物に行くから先に帰ってと連絡が入った。
スマホを机に置いた。
そのまま。
腕を組む。
朝伊吹がぼくの部屋に来て、一緒に朝ごはんを食べそのまま大学にいく。
それが当たり前の日常だった。
お昼も食堂で一緒に食べ、午後からはお互いの講義が終わるのを待って一緒に帰ってた。
それが少しずつ崩れてる。
ここ数日伊吹から、お昼は準備があるとかみんなで練習しながら食べる。そんな連絡が途中で入ってくる。
そのメールを見るたびに、目の前が暗くなる。
帰りも片付けに時間がかかる。とかみんなで道具買いに行くからと連絡がくる。
夜は、交代で作ってるからまだ一緒にいられてる。
(でも……これも時間に問題なのかも……)
夜ご飯を食べながら、普段はその日学んだことや友達のことを楽しそうに話してくれる。
でも今は……、あえてその話題を避けて話をしてるのがわかる。
伊吹の中で何かが起きてる。
(まさか……ぼくから離れようとしてる?)
頭にその考えが浮かんできた時、胸が嫌な音を立てた。
(そんなの……)
冷静になろう。そう思って、深く息を吐く。
今はまだ、家では普通だ。
一緒に過ごせてる。
異変がある……としたら、学内でだ。
そうなればもう原因は一つしかない。
櫂くんだ。
櫂くんは、パワフルで周りを巻き込む力とパワーはすごいと思う。
同級生としては、別に嫌いじゃない。
ただ、伊吹と一緒にいる時は勘弁してくれと思う。
(手は打ったんだけど……遅かったか)
櫂くんには、伊吹と2人の時に絶対近付かないように話はした。だからもう安心だと思ってた。
これは完全にぼくの読みの甘さだ。
伊吹より優先するべきものなんてぼくにはないのに。
深いため息を吐く。
(最近こればっかりだな)
「れいー。今日帰りにどっかよろうぜ」
櫂くんと夏輝と晴翔がぼくの周りに集まってくる。
「いや。やめとく3人で行ってきて」
「れい毎回付き合い悪いけど、あの幼なじみ?の子と一緒に帰るの?」
「まぁそんなとこ。3人とも圧があるから絶対近寄らないで」
それだけ言うと立ち上がって鞄を肩にかける。
背中越しに「あの子の名前も教えてくれないし、あの子の話題になると目つき変わってこぇーんだよ」とか言ってる櫂くんの声が聞こえた。
誰のせいでこうなったと思ってるんだよの気持ちを飲み込む。
何度目かのため息をつく。
講義室から、そのまま階段を降り外に出た。
太陽の眩しさに思わず顔を顰める。
「おぉ。不機嫌丸出して歩いてる綺麗なお兄さんがいるね」
声がする方を見たら正面から歩いてきてる颯。
「なに?何がいいたい?」
普段以上に冷たい声が出る。
「今日はまた一段と機嫌悪いね。なに?伊吹から距離でもおかれてんの?」
颯は観察力が高い。
ぼくが1番触れてほしくないところに簡単に触れてくる。
無言で颯を睨みつける。
「おっ。今日は本当に余裕がなさそうだね。玲衣にしては珍しい。普段ぼくにも取り繕えるのに」
颯はぼくの前に来て足を止め、ぼくに向き合った。
真面目な顔つきに変わった颯。
「なに?ぼくもう帰るから颯と話してる暇なんてないんだけど」
低い声がでる。
「ぼくも帰るから一緒に行こうよ。どうせ同じ場所に帰るんだし」
颯はぼくの隣に肩を並べてくる。
帰る場所は一緒だしまあいいかと、歩き始めた。
颯が隣から話しかけてくる。
「それで伊吹は?」
「今日は、友達と買い物に行くって」
また低い声が出る。
「今日は、ってことは他の日もあったんだ?」
無言で颯を見て、口を開いた。
「昨日は、実習長引くし、待たせるの悪いからだった」
目を見開く颯。
「本格的にまずいね。原因は?櫂くん?彼はパワフルだもんね」
なるほど。と言いながら隣で頷いてる。
(颯でさえ、原因がわかってる……)
颯は中学から一緒。
ただ特段交流があったわけじゃなかった。
生徒会で一緒になった時、颯から声をかけられた。
「伊吹くんが君にくっついてると思ってたけど、逆なんだ。君が伊吹くんを手放せないんだね」
好奇心旺盛な目でぼくにそう話しかけてきた。
「君たち2人の関係面白そう。ぼくも混ぜてよ」
楽しいものをみつけた。そんな顔をしてた颯。
「イヤだよ。なんで君を混ぜないといけないの」
突き放すように答えた。
「だってあんな可愛い伊吹くんが玲衣くんとずっと子犬みたいにくっついてる姿見てたら興味湧くじゃん。しかも相手は誰にでも優しく平等とか言われてる君だし。君誰にでも分け隔てなく接してるけど実際誰にでも一線引いて接してるもんね。それなのに伊吹くんにだけは君それがないから。そしたら、あれ?これ?実は君の方が伊吹くんが隣にいないとダメだなんだと気がついたらもう俄然2人をもっと間近で観察したくなったよね」
本質を突いた颯に一瞬言葉が詰まった。
「ぼくたち2人は見せ物じゃないから。君の興味なんて知らないよ」
「まぁいいじゃん。2人の中を邪魔するつもりはないからさ」
結果的に、颯は適度な距離感でぼくたち2人の仲に入ってきた。
伊吹は、はーくんと呼んで信頼してる。
颯は人をよく見てるし適度な距離感で接してくれるからぼくも信頼はしてる。
ただ……今は会いたくなかった。
「まさか伊吹がこんな行動に出るとは思ってなかった」
ポツリとそう漏らす。
(颯にこんなこと言うなんて、ぼくも弱ってるのかもない)
「ぼくが伊吹にそれとなく話聞こうか?」
心配してる声の颯。
颯からそんな心配をされるぐらいの雰囲気を出してるんだろう。
「いや。ぼくが解決する。ぼくは伊吹の側を離れる気も離す気もないからね」
立ち止まって颯の顔を見てしっかりと宣言する。
一緒に立ち止まった颯がぼくの顔をみた。
じっとぼくを見たあとに、一瞬目を見開いて、大爆笑をし始める。
「やっぱり玲衣はぶれないね。さすがだよ。さっさと伊吹の不安を解消してきなよ」
笑いながらぼくの肩を叩いてくれる。
颯なりのエールなんだろう。
「もちろんそうするよ」
伊吹の気配が足りない。
このままだと、ぼくが限界になる。
そろそろ、きちんと話をしようと思ってた。
「まぁ颯に話を聞いてくれて助かったよ」
颯にそう言うと「珍しいこともあるもんだね」とまた笑い始めた。
颯に帰り道に会えたのは良かったのかもしれない。
ぼくのやるべきことがクリアになった。
(伊吹ときちんと話をしよう)


