キュンキュンしてよ


「あっ、颯」

 一般教養を受ける部屋の入り口で玲衣と同じになった。
 玲衣の手にしてるスマホにオレンジのガラス玉が揺れてる。

(あっ、伊吹とお揃いのやつ)
 
「……これ取ってた?」

 ストラップに気を取られて一瞬反応が遅れた。

「普段は田村先生を取ってるけど休講になったから今日だけ」
「なるほどね」

 2人で話しながら講義室に入り隣同士に座る。

「颯と一緒に受けるの変な気分だ」
 隣でカバンから荷物を取り出しながらそう言う玲衣。


 (うん。雰囲気が柔らかくなった)

 玲衣の空気が前よりも少しだけ和らいだ気がする。

「確かに。あっ、この前ありがとう。伊吹の料理美味しかった」
 伊吹が誘ってくれて3人でご飯を食べた。

「うん。伊吹の料理は優しい味だからいくらでも食べれる」

 そう言って微笑む玲衣。
 その笑顔が柔らかい。

 思わずじっと見つめてしまう。

「なに?」
「いや。うん。今の玲衣、ぼくは好きかな」

 そう伝えたら。

 一瞬目を見開いた後に爆笑する玲衣。

「颯からそんな言葉を聞く日が来るとはね」

 そう言った後一瞬黙る玲衣。

「まぁでも颯にも心配かけたね。ありがとう」

 (玲衣からそんな言葉を聞く日がくるとは)

 今度はぼくが大きく目を見開いた。

「玲衣からそんな言葉聞けるなんて。まぁ今後も観察楽しませてもらうよ」
「伊吹には颯も必要な存在だからね」

 そう言って玲衣が笑った。

 (伊吹の威力はすごい)


「玲衣——!」
「櫂くん静かに」
「今日はいつもの講義室じゃないから」

 大声で講義室に入ってきた櫂くんとそれを宥める2人。


「めんどくさい」

 隣の玲衣が呟く。

「また面白い人に捕まってるね」

 そう呟くと玲衣は、「本当だよ」そう言った。

「玲衣!おっ、きみは」

 ドカドカ。

 元気のいい足音を響かせてる櫂くん。
 玲衣の隣に座ってるぼくを見つけて声をかけられる。

「やぁ」

 とりあえず手を挙げた。

「玲衣の友達ならもう俺たち友達だね。名前は?俺は櫂。好きに呼んで」

 本当パワルフな人だ。


「櫂。玲衣の友達でもいきなり話しかけたらびっくりするから」
 そう言って櫂くんを止めてくれる人。

「まぁ。櫂くんだしね」
 そう言って笑っている人。


「颯。こっちが夏輝。でその隣が晴翔」

 玲衣が諦めたようにため息をついてぼくに2人を紹介してくれる。


「よろしく。夏輝です。主に櫂の子守をしてます。笑」
 そう言って手を差し出してくれる彼。
「よろしく。颯です」
 ぼくもその手を握り返す。

 (さっぱりしてそうな人だな)

「よろしく。晴翔です。好きに呼んで」
「よろしく。颯です。ぼくのことも好きに呼んで」
 お互いそう言い合って握手をする。

 (玲衣と少し雰囲気が近いかも)

 そんな風に思った。

「じゃあ颯これからよろしく」
 櫂くんがそう言ってぼくの隣に座ろうとした。

「櫂。ぼくたちは前に座ろうか」
 そう言って夏輝くんが櫂くんを前の席にさりげなく誘導してくれた。

「ごめんね。櫂くんは悪いやつじゃないんだけどね。ちょっとだけ元気がいいんだ」
 そう言って顔の前で手を合わせてそう言う晴翔くん。

「あっ、ぼくは全然、大丈夫」

 (なんかいいなこの人たち)

 玲衣の近くにこんな友達がいるんだ。

 そう思ったら心がなんだかスッとなった。

「玲衣。いい友達だね」
 自然とその言葉が溢れ出た。

「まぁ……。櫂くんがもう少し静かにしてくれたらね」

 一瞬黙ってそう言う玲衣。


「颯くんは、玲衣とはいつから?」
 そう晴翔くんに聞かれた。

「ぼくのことは、颯でいいよ。ぼくは中学から」
 そう伝えたら少しだけ目を大きく見開く晴翔くん。

 その様子を黙って見てる玲衣。

「颯は知ってるから」
 それだけ晴翔くんに伝えた。

「そこ座っていい?」
 晴翔くんがぼくの隣を指差した。

「あっ、うんどうぞ」
 少しだけ体を玲衣側に寄せる。

「じゃあもしかして、幼なじみの」

 前の2人に聞こえないぐらい小さな声で聞いてくる。

 (これはどうしたら?)

 玲衣の顔を見る。

「晴翔は知ってる」

 それだけ呟く玲衣。
 玲衣の言葉を聞いて頷いて口を開いた。

「うん。伊吹とも中学からの友達だよ」

 それだけ伝えた。

 晴翔くんは、みるみる笑顔になった。

「なに?それどんな表情?」
 意外そうな声を出す玲衣。

「いや。玲衣にもいい友達がいたんだなって」
 そういう晴翔くん。

「玲衣聞いた?晴翔くんがいい友達だってよ」
 わざと玲衣の肩をこついてそう言ってみる。

「あっ、ぼくのことも晴翔でいいよ」
 そう伝えてくれる晴翔。

「晴翔。それは間違い。ずっとぼくたちにくっついてきてるだけ」
 少しだけ視線を逸らしてそういう玲衣。

「玲衣の中学時代の話今度教えてよ」
 そういう晴翔。

「いいよ。玲衣がどれだけ伊吹中心か話すよ」
「あっ、それは知りたいな」

 そう言ってぼくたちは笑い合った。


「2人ともぼくたちの話して楽しい?」

 不思議そうな顔をして聞く玲衣。

 ぼくたちは、顔を見合わせた。
 そしてお互い笑った。

「楽しいよ。伊吹が絡んだ玲衣ほど面白いものはないよ」
「うん。楽しい。だってそのいぶきくんの話の時だけ雰囲気変わるからね」

 口々にそう言うぼくたち。

「まぁいいけど」
 それだけ言う玲衣。

「ぼくたち気が合いそうだね」
 晴翔からそう言われた。

「奇遇だね。ぼくもそう思う」
 そう言ってお互い笑い合った。


 (玲衣の周りにいい仲間がいてよかった)