キュンキュンしてよ


 頭の上でセミが鳴いてる。

 ぼくは木の下で腕を組みながら悩んでた。
 
 (玲衣くん最近絶対食欲落ちてる)

 玲衣くんは実習とテスト前が重なって忙しそうにしてる。
 玲衣くんはそうなるとご飯を抜きがちになる。
 でも。

 (いぶきと一緒ならたべてくれる)

 だから今は普段以上に玲衣くんにくっついてる。

 夜もなるべく消化のいいものをと思うけど……。
 この3日間玲衣くんはお昼にざるそばしか食べてない。

 しかも……。

 (半分は残してる)

 今日のお昼もそうだった。

 今の玲衣くんは絶対見張ってないとご飯を食べなくなる。
 ご飯を食べるよりも勉強や課題を優先したい玲衣くん。

 でも、ぼくは玲衣くんの体が心配。
 冷たいものばっかり食べても胃が冷えるし夏バテしちゃう。

 夏はまだまだ続くのに。

 玲衣くんが来るのを待ってる間に夕飯のメニューをうんうん悩む。

 セミもミンミン鳴いてる。
 
 (いぶきとセミ一緒に悩んでるみたい)

 そう思ったら面白くなって笑みが溢れる。

 あっさりしてさっぱりしたもの。
 でもそればっかりだと飽きるよね。

 栄養あって食べやすいもの。

 (そうだ!)

 いいことを思いついてにんまりする。

 セミの声も聞こえなくなった。

「伊吹ごめんね。待たせたね」
 そうやって歩いてくる玲衣くん。

「ううん。いぶきはセミさんと遊んでたから楽しかったよ」
 笑いながら玲衣くんにそう言ってみる。

「伊吹らしいね」
 玲衣くんはそう言って笑ってくれた。

 2人で並んでマンションに帰る道を歩く。

「玲衣くん今日はいぶき、お部屋でご飯作るからその間お勉強しててね」
 隣の玲衣くんにそう声をかける。

「ぼくの部屋で作らないの?手伝うよ」
 そう言ってくれる玲衣くんに首を横に振る。

「ううん。今日はいぶきのお部屋なの!出来上がったら呼ぶから来てね」
 ぼくがそう言ったら玲衣くんは頷いた。

「ありがとう。伊吹」
 そうも言ってくれた。


 普段なら玲衣くんの部屋に一緒に帰る。でも今日は玄関前で一旦別れた。
 ぼくは自分の部屋に入ってカバンを机に置いてそのままキッチンに向かう。

 戸棚をゴソゴソして土鍋を見つけ出す。

 (よし!これで今日は水炊きにしよう)

 優しいお出汁にして、お野菜たくさん入れよう。

 冷凍庫をゴソゴソする。

 鶏のミンチを取り出す。冷蔵庫からお豆腐を取り出す。
 これで鶏団子を作ろう。

 玲衣くんが少しでも食べれる味にして、余ったら明日うどんを入れてもいいし、雑炊にしてもいい。
 玲衣くん夏にお鍋は驚くだろうな。

 部屋に入ってきた時にカセットコンロをみて驚く玲衣くんを想像する。
 作りながら玲衣くんの顔を想像するだけで早く食べてもらいたくなる。

「よし!できたぁ」

 コンロの上にある、グツグツと言ってるお鍋の具材たち。

 スプーンで、汁を少しだけすくって味を見る。

「うん。美味しい」
 いつもよりも優しくそしてさっぱり食べれる味。

 火を止めて土鍋に蓋をする。

 エプロンを外して、玲衣くんを呼びに行くために玄関を出た。

「玲衣く——ん!ご飯食べよう——」
 玲衣くんにそう声をかける。

 テーブルに座って勉強してた玲衣くんは顔を上げて立ち上がった。

「伊吹ありがとう。手伝えなくてごめん」
 申し訳なさそうに謝る玲衣くん。

「違う!玲衣くんは今お勉強頑張る時!伊吹が忙しい時はお願いするからね」
 ぼくが手を引きながらそういう時と玲衣くんは笑って頷いてくれた。

 2人でぼくの部屋に入る。

 リビングのテーブルに置いてあるガスコンロをみて、足を止める玲衣くん。
 隣のぼくをみてカセットコンロを指差す。

「伊吹これは?」

 (やった!玲衣くんの驚いた顔だ!)

 予想通りの顔が見れてにんまりするぼく。

「玲衣くんは座ってて。いぶき準備するから」
 玲衣くんを椅子に座らせてそのままキッチに行く。

 お鍋を持ってまたリビングに戻る。

 玲衣くんは、ぼくの手の中にある土鍋をみて、さらに目を大きくしてる。

「お鍋?」
「そう!今日はね!鶏団子のお鍋にしました!」

 土鍋の蓋を開けて玲衣くんに見せる。

 ほかほかの湯気がたちのぼる。

 冷房の風に当てられて湯気がゆらゆら揺れる。

 そっと土鍋を覗き込む玲衣くん。

「美味しそう。お腹空いてきた」
 玲衣くんがそう呟いた。

 (やった!玲衣くんに食欲が出てきてる)

 嬉しくて小さく手を握ってガッツポーズする。

「さっ!玲衣くん食べよ——」
 お箸と取り皿をテーブルの上に置いてぼくも座る。

 2人で一緒にいただきますをする。

 玲衣くんは取り皿にお出汁を入れて一口飲んだ。

「あっさりしてて美味しい」
 ぼくの顔を見てそう言ってくれた。

「よかった。ね!鶏団子も食べてみて!」
 土鍋の中から鶏団子をすくって玲衣くんの取り皿に入れる。

 鶏団子をそのまま一口で食べる玲衣くん。

 もぐもぐして、ゆっくり飲み込む。

「うん。これも食べやすい。美味しい」
 玲衣くんに笑顔が出た。

 ぼくも取り皿に鶏団子と野菜を入れて食べてみる。

「うん。お出汁が野菜にも鶏団子にもしみてて美味しい」
 玲衣くんにそう話しかける。

「うん。美味しい。これならぼくも食べれそう」

 そう言って玲衣くんはおかわりをしてくれた。

 (良かった。玲衣くんが食べてる)

 玲衣くんが食べてる姿を見れて安心した。

 お箸を静かに置く玲衣くん。

「伊吹ありがとう。この忙しさが落ち着いたら、ぼくが作るから」
 そう言ってぼくをまっすぐ見つめてれる玲衣くん。

「ありがとう。落ち着いたら玲衣くんと行きたいお店があるの」
 ぼくは玲衣くんにそう伝えた。

「どこ?伊吹が行きたいところならどこでも行くよ」
「えっとね。新しくできたケーキ屋さん!そしてクレープ屋さん!あとね、ハンバーグ屋さん!」

 指を折りながら行きたい場所を次々と伝えていく。

 玲衣くんが声を上げて笑ってくれた。

「伊吹全部食べたいものだね」
「うんっ!玲衣くんと美味しいものたくさん食べたいから」

 ぼくがそう言ったら玲衣くんは頷いた。

「うん。終わったら全部行こう。楽しみ」

 そう言って玲衣くんは土鍋からまたお野菜と鶏団子を取り皿に入れた。