夕ご飯も終わり、テーブルの上には玲衣くんの参考書たちとぼくのネイルセットが置いてある。
ぽとっ。
玲衣くんがペンをノートの上に置いた音が聞こえた。
ネイルを塗ってたぼくは顔をあげて玲衣くんをみた。
ぼくの手元をじっとみてる玲衣くん。
「玲衣くん?どうしたの?」
首を傾げて玲衣くんに聞いてみる。
「ん……。伊吹の爪ってそんな風に作り上げていくんだなと思って」
興味深そうに覗き込んでくる玲衣くん。
今は爪の手入れが終わって、ベースの色を塗って少しだけ乾かしてる時間。
「玲衣くんも興味あるの?」
指をテーブルに置いたまま聞いてみる。
「ん……。興味があるかと言われたら……」
悩む玲衣くん。
(玲衣くんが悩むの珍しい)
目をぱちぱちしながら、玲衣くんの返事を待つ。
「伊吹がしてること、に興味があるかな」
静かにそう口にした玲衣くん。
(ぼく絶対今口元が緩んでる)
玲衣くんのその一言が何よりも嬉しい。
そうだ!と一つ閃いた。
「あのね……」
ぼくの声に玲衣くんは手元を見ていた視線をぼくに戻してくれた。
「玲衣くん今は実習とかない?」
「うん。今期はまだないよ」
それならいけるかもしれない。
「あのね、指に塗ってみる?」
ネイルの瓶を指で掴んで玲衣くんの前で振ってみる。
目を見開いた玲衣くん。
ぼくの手にあったネイルの瓶をゆっくりと触った。
光に当てたり、蓋を開けてみたりしてる玲衣くん。
興味津々な顔をしてる玲衣くんの顔は可愛い。
少しだけ幼く見える。
「ネイル自体に興味はないけど、でも」
一旦言葉を区切って口を閉じる玲衣くん。
少しの沈黙の後にまた口を開いた。
「伊吹が好きなことを体験は、してみたいかも」
そう言ってぼくにネイルの瓶を返してくれた。
玲衣くんのその言葉が嬉しくてぼくの顔はニヤけてしまう。
「じゃあ一本の指だけしてみる?」
そう提案してみた。
玲衣くんはぼくの指をじっと見つめながら、頷いた。
「うん。いいね。それ」
玲衣くんが左手の小指をぼくに差し出した。
初めてネイルを玲衣くんの指。
ボックスの中から何色にしようかな?と瓶を探し始めた。
「玲衣くん何色がいいとかある?」
顔をあげて、玲衣くんの意見を聞いてみる。
「ぼくは特には。伊吹が選んだ色がいい」
玲衣くんがそう言ってくれたことでまたぼくは張り切った。
(玲衣くんに似合う色は青だよね)
青系の瓶を次々に出していく。
玲衣くんはどんどん出てくる瓶に目を丸くしながら興味深そうにに触ってる。
玲衣くんのその顔を見るのも楽しい。
「すごいね。青系と言ってもこんなに種類があるんだね」
ぽつんと玲衣くんが言った。
「うんっ!青系でも薄いのから濃い色までたくさんあるし、そこにラメが入ったりするからもっともっと種類があるよ」
「その中から色を決めてデザインまでする伊吹はすごいね」
玲衣くんは静かにそう言ってくれた。
「好きなことだから。それに玲衣くんがいてくれたからこれ続けられてるよ」
「ぼくは、伊吹が好きなことをしてる姿を見るのが好きだから」
顔をあげてはっきりとそう言ってくれた。
「じゃあ今のぼくは玲衣くんが好きなぼく?」
少し照れて、冗談ぽく聞いてみる。
「うん。ぼくの好きな伊吹だよ」
玲衣くんは真剣な声でそう言った。
玲衣くんはいつもまっすぐ、ぼくに言葉を届けてくれる。
「ありがとう。この色どう?」
照れくささも混じりながらも、玲衣くんに一つの瓶を渡す。
さっきみたいに、瓶を見ながら頷いてぼくに返してくれた。
「うん。これにする」
そう言いながら左手をぼくに差し出してくれた。
瓶の蓋を開ける。
そっと玲衣くんの左手の小指に色を塗っていく。
玲衣くんはまじまじとその作業を見つめてる。
「へぇ。こんな風になるんだ。興味深いな」
「なんだか玲衣くんに見られながら塗るのは緊張するね」
そんな風に笑うぼく。
「これは一回だけ塗るの?」
「その時のデザインによって変わるかな。今回は絵とかは描かないから、あと2回か3回は塗るよ」
「そんな違いもあるんだね」
一回目を塗り終わり乾かす時間になった。
「伊吹の爪いつも見るのが好きだったけど、なんだかぼくに爪にも色がついたの新鮮」
自分の爪をまじまじと見つめる玲衣くん。
「もし、違和感あったらすぐに落とすから言ってね」
玲衣くんにそう声をかける。
「ううん。しばらくこのままがいい」
指に視線を向けたままそう答える玲衣くん。
「なんだか、これ塗ってると伊吹がここにいるみたいだね」
そんな風に言って笑う玲衣くん。
とくっ。
玲衣くんのあまりの可愛い発言に胸を押さえる。
「へへっ。じゃあ実習とかない間はずっと塗ろうかな」
ぼくも笑いながらそう答えてみた。
「うん。それもいいね」
顔をあげて、ぼくの方を見て笑う玲衣くん。
(次のネイルは同じ色を塗ろう)



