キュンキュンしてよ


枕元がアラームが鳴っている。

 手を伸ばしてスマホを手に取り、アラームを止める。

 カチャン。

 手にざらりとしたガラス玉が触れる感覚がした。
 そのままスマホを手元に引き寄せる。

 体を起こして、スマホについてるオレンジ色のガラス玉のストラップに触れる。
 

『玲衣くん!早く!準備して』
 ストラップを触れると伊吹の声が頭の中に聞こえた気がした。

 そのままスマホを手に起き上がり、スマホをテーブルに置く。

 朝の支度をして、そのまま朝ごはんの準備は始めた。
 今日はぼくの部屋で朝を食べる。

 伊吹が好きなパンを冷凍庫から取り出しそれをオーブンに入れる。

 ベーコンエッグ?
 ゆで卵?
 スクランブルエッグ?

 今日の伊吹の気分はどれだろう。それを考えるだけで笑顔になれる。

 昨日伊吹が作ってくれたポテトサラダがまだ残ってる。

 それなら。うん。
 伊吹が好きなふわふわのオムレツにして、隣にポテトサラダを添えよう。

『玲衣くん!ありがとう。伊吹の好きなのばっかり』

 また伊吹の声が頭の中に響いた。
 そんなことを考えながら朝の支度を進めていく。


 遠くから玄関が開く音がしてバタバタと勢いの足音が聞こえる。


「玲衣くん。おはよ——」
 笑顔の伊吹がリビングに飛び込んできた。


「伊吹おはよう。もう朝ご飯できるよ」
 キッチンからそう声をかける。

「玲衣くんありがとう。いぶきもお手伝いする」
 そう言いながらキッチンに入ってきてくれる伊吹。

「いぶきはお皿と飲み物用意するね」
 テキパキと準備をしてくれながら、フライパンの前にいるぼくの手元を覗き込む。

「わぁ——!いぶきの好きな玲衣くんのオムレツ。ありがとう」

 弾んだ声の伊吹。

 そして……。
 そのままぼくの腰あたりに抱きついてきた。

「伊吹危ないよ。笑」
「大丈夫だよ。ちゃんと火から離れてるもん」

 そう言って笑いながらぼくから離れてる伊吹。

 (ぼくの予想以上に喜んでる)

 オムレツにして良かった。

 テーブルに2人分の朝ごはんが並んだ。
 伊吹と向かい合って手を合わせて食べ始める。

 伊吹がフォークをオムレツに入れた。

「ん——!朝から玲衣くんのこのオムレツが食べていぶき最高。今日頑張れそう」
 口に入れて足をパタパタして喜ぶ伊吹。

「そう?良かった」
「うん!いぶきね、玲衣くんの作るご飯大好きなの。玲衣くんの優しい味がする」

「ぼくは伊吹の作るご飯が好きだよ。伊吹の心を感じるよ」
 2人で目を見合わせて笑う。

「今日は玲衣くん遅いでしょ?いぶきが作る」
「最近ずっと伊吹に任せて、悪いよ」

「この前も言った!2人で助け合うからい——の」
 そう言って伊吹は笑ってくれる。


 (いぶきが隣にいるからぼくは息ができる)


 勉強も少しずつ難しくなってきて、専門的になってる。

 重圧もある。
 それでも頑張れるのは伊吹のおかげ。

 2人でごちそうさまをして、食器を片付ける。
 そのまま肩を並べて大学に向かう。


「じゃあ、お昼にいつもの食堂で」
 伊吹と一号館の前で手を振って別れる。

 そのまま二号館まで足を進めてたら、後ろからぼくを呼ぶ声がする。
 そのまま足を止めずに前に進める。

「玲衣——!止まれよ——!」
 朝から元気な声の櫂くん。

 まぁそのまま追いつくだろうと思い歩きを止めずに進む。

「玲衣!はぁはぁ。やっと思いついた」

 想定よりも早くぼくに追いついてきた。

「おはよ。櫂くん朝から元気だね」
「玲衣。少しぐらい止まってくれよ」
 そう笑い言いながら隣を歩く櫂くん。

「幼なじみと玲衣が歩いてるの見て挨拶しようと思って走ったけど、間に合わなかった」

 隣で悔しがってる櫂くん。

「いや……いいから。挨拶しないで」
 それだけ返す。

「俺にも一回ぐらい挨拶させろよ」
「無理。嫌」

 そんなことを話してたら講義室に着いた。

 夏輝と晴翔はすでにきていて席に座ってた。

「おはよう」
 挨拶をしながら隣に座る。

「聞いてくれよ。玲衣の幼なじみに挨拶しようとしたら間に合わなくてさ」

 さっそく2人に話してる櫂くん。

「あ——ぼくたちも会いたいな」
「な。玲衣がそこまで大切にする幼なじみだもんな」

 2人も乗ってくる。

 このまま無視するかと思ったが、めんどくさいことになる前に釘を刺す。

「無理。絶対会わせないから」
 それだけ伝える。

 2人とも顔を見合わせて「余計なことはしない方がよさそうだね」と納得してる。

 カバンに入れてたスマホが鳴った。

 スマホを取り出して画面を見ると伊吹の表示。

『玲衣くん!今日ね!午後1つ休講になった!先に帰ってビーフシチュー作るね』

 伊吹の得意料理。

『いいの?でもあれ作るの大変じゃない?』
『大丈夫!玲衣くん楽しみにしてて』

 (久しぶりだな)

 画面をみて少しだけ頬が上がるのがわかる。

 そのままスマホをカバンに戻そうとした。

「あ——!」
 櫂くんが大声を出して、ビクッとなる。

「なに?」
 ぼくを指さしてる。

「玲衣。お前スマホになにつけてんの?」

 ぼくの隣までくる櫂くん。

 ストラップに触ろうとした。
 スマホを上に上げる。

「触らないで」

 普段より低い声が出た。
 櫂くんもビクッとしてる。

「これは、絶対触らないで。触ったら……今後レポートしらないよ?」

 すこぉ——しだけ、脅しと本音を混ぜてみる。

「わかった。触らない。触れない」

 こくこくと頷く櫂くん。

「ほら。櫂、もう講義始まるからこっちおいで」
 夏輝がそう声かけて櫂くんは夏輝の隣に移動した。

 晴翔がこそっとぼくに耳打ちしてきた。

「幼なじみからのプレゼント?」
 晴翔の顔をみる。

「それぐらい分かるよ。櫂くんは気がついてないみたいだけどね。大丈夫。今後も邪魔しないから」
 そのままウィンクしてくる晴翔。

「だから……ぼくにはレポート今後も見せてね。笑」
 そんなこと言う晴翔。

「その取引なら乗るよ」
 ぼくも笑いながらそう答えた。

 授業開始のチャイムが鳴った。

 カバンにスマホを戻す瞬間にオレンジのガラス玉を触った。

 (帰ってからビーフシチュー楽しみだな)