泣いたら井戸に入れられた

その頃、神楽は風呂から出て、ドライヤーで髪を乾かしていた。
LINEがぽこぽこと連続して届いている。

ーーなんだろう?

気になりつつも、メンバーに入っているグループチャットも沢山あるから、どれかが盛り上がっているんだろう。そう思っていた。

でも違った。
神楽が、タオルを首にかけて何気なく画面をみると、自分の顔写真が上がっていた。

えっ?

動いていたのは『神楽くんち』のグループチャットだった。
いつ撮られたのか。キッチンでエビを摘まみ食いしている写真。
送り主は女子。

遡りながら投稿を確認する。
ドクン、ドクンと心臓が嫌な感じに脈打ち始める。

北見と佐藤が並んでゲームをしている写真。
映り込んでいるダンボールと貼られたままの伝票にギクリとする。
後で見直そうと決めてさらにスクロールする。

……大丈夫、何もない。しっかり片づけたんだ。

キッチンの写真に北見とお揃いの財布が写っているのに気が付いて、心臓がキュッとなる。
見たくないのに、こんなもの。
北見が選んだものを、ついでのように渡されている惨めな自分。
北見が白といえば白、黒といえば黒。自分はその色しか持てない。本人はそんなつもりもないだろうけど。

いくつかの写真やスタンプを挟みながら、さらに遡る。
最初の一枚は、北見から送られたピンボケのパエリア写真だった。

ご丁寧に
『ちょっとボケてるけど』
なんていう、誰かの投稿を誘うコメントつき。
そこから、楽しげなスタンプや写真の投稿が続いている。

やられた! 

胸に怒りがこみ上げる。

関わるなと、あれほど言ったのに。はっきりと拒んだのに、のこのこ遊びに来て、あまつさえ家の中を嗅ぎ回って。
また、父にオレのことを告げ口すんのか。オレを潰すつもりか!

暴力にも金にも縛られて身動きができない。
この間は「玲と一緒の高校に通うのは無理なのかもね」と脅された。
それは転学か、もしくは退学か……というのは怖くて聞けなかった。

ダンボールの写真まで戻る。

自分を落ち着かせるように、ペットボトルの水を一口飲む。焦っているせいで、蓋がうまく締められない。

剥がし忘れた宛名ラベルの発送元は、北見の家の一階に住んでいる母だ。
おそるおそる指で拡大して見たが、さすがに字までは読めない、か……。

大丈夫そうだ。

そう安堵しかけたとき、動画がアップロードされているのに気がついた。
女子からだった。
なんの動画か分からない。タイトルは『新婚♥』となっている。

なんだ、大丈夫かこれ。
何か『北見』との関係を示すものが写り込んでないか?

ゾワリと嫌な予感に襲われる。

多分、まずい。止めなきゃいけない。確認なんてしてる場合じゃない。今すぐ消させなきゃ。北見が見る前に!

手が汗ばむのが分かる。画面から音声通話をタップする。コール音2回で女子が出た。

『あのさ、いま上げた動画のことなんだけど』

できる限り平静を装う。女子に気まずい思いをさせたいわけじゃない。
プライバシーのことも考えてくれとは思うが、その気持ちをぶつけるのは今じゃない。

『削除してくんないかな。すっごい、ごめん。せっかく撮ってくれたのに。後でオレだけ貰っていい? だから、今すぐ電話切るから、ごめん、いいかな?』

電話の向こうで、息を呑む様子がする。
必死になりすぎたのか。ただ、感情をコントロールする余裕もなかった。

『分かった。ごめんなさい』

そう言って、ぷつんと電話が切れた。
その数秒後には、『メッセージの送信を取り消しました』という文字が画面に出るだけになった。

良かった。でも、間に合ったか?

神楽の中に不安がよぎる。

そもそも、皆が写真を投稿するよう誘導したのは北見だ。
今頃スマホに張り付いているはず。
いや、それより動画の確認だ。

神楽は、動画を削除した女子にメッセージを送った。

『ありがと。オレに動画送って!』
『りょ』

自分宛のLINEにポコンとポップアップがあがった。

そうして動画が送られてきた。
確認するのが怖くてたまらない。