「やっぱ男は顔だよね!」
友人の百合亜の自慢げな声に、あたしは内心苦笑しながら答えた。
「だよねー。百合亜の彼氏って、めっちゃカッコいいもん」
「へっへー。いいでしょ? でもやらないよー、凪」
ーー要るわけないじゃん。
あたしは心の中でだけそう呟いた。もちろん顔には出さないけれど。
男は顔じゃないよ、バカバカしい。
ーー男は性格だよ!
それがあたしの持論だった。
高二の春はモラトリアムな時期だ。
一年生の時のフレッシュな気持ちは薄れてしまっているが、まだ受験までは一年以上ある。そこまで進学校ではないこの高校では、そんな余裕が二年生のあたしたちの気持ちにはあった。
ぼんやりとした余裕。その中であたしたちが熱を入れて話すのは、恋の話だった。
退屈な数学の授業中。あたしは昼休みに見せられた百合亜の彼氏の写真をぼんやりと思い出していた。
TDLにデートに行ってきたそうだ。子供っぽい変な耳を付けた百合亜の隣ににやりと笑いながら立っていた彼氏は確かにカッコよかった。シルバーのネックレスをして髪が赤い彼はチャラい感じはしたが、目鼻立ちが整っていてシャープ系のイケメンだった。
だからって、顔だけで選ぶなんて、バカみたい。
百合亜は以前から「男は顔!」と繰り返していた。「だって、友達に自慢できるじゃん」とも言っていた。実際、周りの友達はとてもうらやましそうにその写真を見ていた。
あたしも、百合亜とはそれほど親しくはないけれど、その写真を見せびらかされた。けれど全くうらやましくもなんともない。
男って、やっぱり、性格じゃない?
あたしは教科書をぺらぺら捲りながら考えた。数学はあたしの希望校の受験科目には入っていないので、全くやる気が起きない。
あたしはちらりと斜め前に座る大川くんの横顔を覗き見た。
ーーたとえば、大川くんみたいな。
大川くんは「良い人」という言葉が似合う人だと思う。
勉強もそこそこできる。運動神経もまあ悪くはない。顔は普通。ちょっと濃い系。
そう言うと一見特徴が薄いように思えるかもしれないけれど、あたしは知っていた。
大川くんはとても優しい。そして正義感が強い。
いじめというほどでなないが、ちょっといじりが過ぎているクラスメイトをかばったり、怪我をしている猫を家に連れて帰ったり。宿題を忘れたという男子がいると「今からなら間に合う!」と、昼休み一緒に付き合ってあげたり。
かくいうあたしも、二年に上がったばかりのつい先日、優しくしてもらった。
あたしは部活動に入っていなかった。が、二年始めの進路指導の時に先生に言われた。
「町田は推薦狙いか。それなら、部活動とか委員会活動とかやっといたほうがいいぞ。ボランティアとかでもいいな」
それまでのあたしは、帰宅部を謳歌していた。早く帰宅して推し活に励むのだ。あたしの推しは、某アイドルグループのセンターだった。
が、そこはやはり学生。進学のことはかなり気になる。そしてあたしはできれば指定校推薦とか確実な推薦を夢見ていた。
「やっぱり、すぐできるのは部活かな」
二年から入部するとなると、上下関係の厳しい運動部はありえない。となると、どこの文化部にしようかな。
先生から新入生用の部活動パンフレットをもらってきて眺めていた時のことだ。
「町田さん、今から部活入るの?」
声を掛けてくれたのが、大川くんだった。
大川くんは顔が広いので、各部活の特徴を詳しく教えてくれた。この部活は帰りが遅くなる、この部活は人間関係があまりよくない、この部活は先生が厳しすぎる、等々。大川くんもよく知らない部活に関しては「ちょっと委員会の先輩に聞いてみるよ」と聞き込みまでしてくれた。
なんて親切なんだろう。
あたしは大川くんに徐々に惹かれていった。「じゃあ、ここにする!」
あたしの趣味にあい、推し活と両立できるくらいの緩い部活。それは美術部だった。
美術部は美大狙いガチ勢と緩さ狙い勢がきっかりと別れていた。緩い勢はハンドクラフトキットで各々好きなものをゆったりと作ったりできるらしい。中学時代手芸部だったあたしにぴったりだった。
「町田さんにぴったりの部活が見つかって、俺も嬉しいよ」
そう言って笑いかけてくれた大川くんの笑顔にノックアウトされた。
それからあたしは、密かに大川くんを慕っていたのだ。
やっぱり、彼氏にするなら大川くんみたいな人がいいよなー。
あたしはノートにくるくると円を描きながら大川くんと付き合った自分に想いを馳せた。
友人の百合亜の自慢げな声に、あたしは内心苦笑しながら答えた。
「だよねー。百合亜の彼氏って、めっちゃカッコいいもん」
「へっへー。いいでしょ? でもやらないよー、凪」
ーー要るわけないじゃん。
あたしは心の中でだけそう呟いた。もちろん顔には出さないけれど。
男は顔じゃないよ、バカバカしい。
ーー男は性格だよ!
それがあたしの持論だった。
高二の春はモラトリアムな時期だ。
一年生の時のフレッシュな気持ちは薄れてしまっているが、まだ受験までは一年以上ある。そこまで進学校ではないこの高校では、そんな余裕が二年生のあたしたちの気持ちにはあった。
ぼんやりとした余裕。その中であたしたちが熱を入れて話すのは、恋の話だった。
退屈な数学の授業中。あたしは昼休みに見せられた百合亜の彼氏の写真をぼんやりと思い出していた。
TDLにデートに行ってきたそうだ。子供っぽい変な耳を付けた百合亜の隣ににやりと笑いながら立っていた彼氏は確かにカッコよかった。シルバーのネックレスをして髪が赤い彼はチャラい感じはしたが、目鼻立ちが整っていてシャープ系のイケメンだった。
だからって、顔だけで選ぶなんて、バカみたい。
百合亜は以前から「男は顔!」と繰り返していた。「だって、友達に自慢できるじゃん」とも言っていた。実際、周りの友達はとてもうらやましそうにその写真を見ていた。
あたしも、百合亜とはそれほど親しくはないけれど、その写真を見せびらかされた。けれど全くうらやましくもなんともない。
男って、やっぱり、性格じゃない?
あたしは教科書をぺらぺら捲りながら考えた。数学はあたしの希望校の受験科目には入っていないので、全くやる気が起きない。
あたしはちらりと斜め前に座る大川くんの横顔を覗き見た。
ーーたとえば、大川くんみたいな。
大川くんは「良い人」という言葉が似合う人だと思う。
勉強もそこそこできる。運動神経もまあ悪くはない。顔は普通。ちょっと濃い系。
そう言うと一見特徴が薄いように思えるかもしれないけれど、あたしは知っていた。
大川くんはとても優しい。そして正義感が強い。
いじめというほどでなないが、ちょっといじりが過ぎているクラスメイトをかばったり、怪我をしている猫を家に連れて帰ったり。宿題を忘れたという男子がいると「今からなら間に合う!」と、昼休み一緒に付き合ってあげたり。
かくいうあたしも、二年に上がったばかりのつい先日、優しくしてもらった。
あたしは部活動に入っていなかった。が、二年始めの進路指導の時に先生に言われた。
「町田は推薦狙いか。それなら、部活動とか委員会活動とかやっといたほうがいいぞ。ボランティアとかでもいいな」
それまでのあたしは、帰宅部を謳歌していた。早く帰宅して推し活に励むのだ。あたしの推しは、某アイドルグループのセンターだった。
が、そこはやはり学生。進学のことはかなり気になる。そしてあたしはできれば指定校推薦とか確実な推薦を夢見ていた。
「やっぱり、すぐできるのは部活かな」
二年から入部するとなると、上下関係の厳しい運動部はありえない。となると、どこの文化部にしようかな。
先生から新入生用の部活動パンフレットをもらってきて眺めていた時のことだ。
「町田さん、今から部活入るの?」
声を掛けてくれたのが、大川くんだった。
大川くんは顔が広いので、各部活の特徴を詳しく教えてくれた。この部活は帰りが遅くなる、この部活は人間関係があまりよくない、この部活は先生が厳しすぎる、等々。大川くんもよく知らない部活に関しては「ちょっと委員会の先輩に聞いてみるよ」と聞き込みまでしてくれた。
なんて親切なんだろう。
あたしは大川くんに徐々に惹かれていった。「じゃあ、ここにする!」
あたしの趣味にあい、推し活と両立できるくらいの緩い部活。それは美術部だった。
美術部は美大狙いガチ勢と緩さ狙い勢がきっかりと別れていた。緩い勢はハンドクラフトキットで各々好きなものをゆったりと作ったりできるらしい。中学時代手芸部だったあたしにぴったりだった。
「町田さんにぴったりの部活が見つかって、俺も嬉しいよ」
そう言って笑いかけてくれた大川くんの笑顔にノックアウトされた。
それからあたしは、密かに大川くんを慕っていたのだ。
やっぱり、彼氏にするなら大川くんみたいな人がいいよなー。
あたしはノートにくるくると円を描きながら大川くんと付き合った自分に想いを馳せた。



