「いってぇ〜」
茹だる暑さの中、駄菓子屋でアイスを買ってむしゃぶりつく。洞窟を出た彰良と侑斗の頭には、大きなタンコブが出来上がっていた。
「マジであのおっさん、手加減しろって」
謝ったのはその方が話が早いからだ。本当はちっとも反省なんかしていない。お気に入りのラムネアイスをしゃぶりながらぶーたれる彰良に、侑斗がぶはっと吹き出した。
「でも俺たちが悪いからな〜」
「侑斗って本当にいい子だよな」
「拗ねんなって」
面白そうに笑っている侑斗に、ウリウリと頭を撫でられる。子ども扱いされているようで癪になり、その手をベシッと振り払った。
その衝撃で、口に咥えていたアイスの下半分がずるりと溶けてくる。服に垂れそうになり、しまったと思った時には、侑斗の顔が近づいて来ていた。
グイッと両頬を侑斗の大きな手に掴まれる。何をするのかと思いきや、侑斗は崩れて落ちかけているアイスの下半分に、勢いよくパクリとかぶりついた。
瞬間、侑斗の柔らかな唇が彰良のそれに触れる感触がする。驚いて固まる彰良の顔を、用は済んだとばかりに侑斗の手がパッと離れた。
「な、なな、なにすんだよ……!」
「へへ、アイスいただき」
心臓がバクバクしてうるさい。真っ赤になった彰良が見たものは、口の端についたアイスを拭って、嬉しそうに笑う侑斗の姿だった。
動揺する彰良とは反対に、余裕そうな侑斗はピースまでして笑っている。一瞬キスされたなんて勘違いした自分が本当に馬鹿らしい。
「ふざけんな!」
「えー、なんかごめん?」
なんだか無性にムシャクシャする。スニーカーを履いた足で侑斗の背中を軽く蹴っ飛ばせば、侑斗はあははと声をあげて笑った。
§ § §
日が沈み、曇りガラスの向こうでリーンリーンと鈴虫が鳴いている。彰良は湯船に浸かりながら、はあと大きく息を吐いた。
「アイツ、ほんとなに考えてんだろ」
昼間のアレは、今思い出してもドキドキと心臓が早くなる。侑斗はどこかマイペースで、いつも一緒にいる彰良でも、何を考えているのか分からない時があった。
お風呂に顔を沈めて口から空気を出せば、ぶくぶくと湯船に泡が踊る。自分ばっかり侑斗のことを考えていて、なんだか腹が立って来た。
「ちょっと彰良ー、風呂長くない?」
「うあ、今出る!」
どうやら考え込んでしまっていたらしい。姉の声に急いで湯船から立ち上がる。パンツとズボンだけ履いてリビングに行けば、家族揃ってバラエティ番組を見ていた。
「この、男だか女だか分からないヤツはどっちの性別なんだ?」
珍しく父親も一緒に観ていたらしい。テレビに映るタレントの一人を指して、顰めっ面をしている。そのタレントは、猫撫で声を出してイケメン俳優に好意をアピールしていた。
「えー? この人は男じゃない?」
「男が男を好きなのは変じゃないか?」
その言葉にドキリとした。変な汗が背中を伝っていく。でも、なんで自分がそんな風になるのか理解できない。
「その台詞はヤバいって!」
「な、なに!? 父さんヤバいのか!?」
「お父さんは古い人だからねえ」
クスクスと笑う母親が、彰良の存在に気がつき振り返る。真っ青になり佇む息子の姿を怪訝に思ったのか、立ち上がり近づいて来た。
「あんた、顔が真っ青じゃない。早く服着なさい」
「うん……」
肩にかけていたタオルを持って、母親がガシガシと頭を拭いてくれる。そんな様子を横目で見ていた姉の彰子が、ふと何かに気がつき顔を上げた。
「あれ? 彰良、その痣どうしたの?」
「え……?」
「ほら、なんか腰のところに薄らとあるヤツ」
言われて下を向けば、確かに腰骨のあたりに、こぶし大のまだら模様に近い痣が浮き出ている。それを認識した瞬間、体温が一気に10度下がったような気がした。
「あらやだ、何処かにぶつけたのかしら」
「なんだ、怪我したのか? 父さんが明日隣町の病院に連れて行こうか」
怪我ならまだ良かった。けれどこれは多分、怪我なんて可愛いものではきっとない。
「全然、大丈夫だから……!」
母親からタオルを奪い取り、自分の部屋まで階段を駆け上がる。痛むなら言うんだよ! と心配する母親の声を無視して、バタンと自室のドアを閉めた。
震える手で携帯を操作する。2回目のコールの後で、その電話は繋がった。
「侑斗……俺、おれ……」
縋るような声が出ていた。なんと言ったらいいか分からなくて、はくりと音もなく口が動く。
『……大丈夫、ちゃんと聞いてるよ。なんかあった?』
彰良を労るような優しい声が耳に届く。それにホッとして、張り詰めていた息を吐いた。どうやら随分とパニックになっていたらしい。
「身体に痣が出ててさ。もしかしたら俺、斑目童子に、呪われたかも……」
『今からそっち行く』
「え!? いや、明日でいいって……!」
侑斗の発言に驚いて止めようとするも、もう既に行動に出ているらしい。繋がったままの携帯の向こうから、バタンと玄関の扉を閉めただろう音が聞こえて来た。
茹だる暑さの中、駄菓子屋でアイスを買ってむしゃぶりつく。洞窟を出た彰良と侑斗の頭には、大きなタンコブが出来上がっていた。
「マジであのおっさん、手加減しろって」
謝ったのはその方が話が早いからだ。本当はちっとも反省なんかしていない。お気に入りのラムネアイスをしゃぶりながらぶーたれる彰良に、侑斗がぶはっと吹き出した。
「でも俺たちが悪いからな〜」
「侑斗って本当にいい子だよな」
「拗ねんなって」
面白そうに笑っている侑斗に、ウリウリと頭を撫でられる。子ども扱いされているようで癪になり、その手をベシッと振り払った。
その衝撃で、口に咥えていたアイスの下半分がずるりと溶けてくる。服に垂れそうになり、しまったと思った時には、侑斗の顔が近づいて来ていた。
グイッと両頬を侑斗の大きな手に掴まれる。何をするのかと思いきや、侑斗は崩れて落ちかけているアイスの下半分に、勢いよくパクリとかぶりついた。
瞬間、侑斗の柔らかな唇が彰良のそれに触れる感触がする。驚いて固まる彰良の顔を、用は済んだとばかりに侑斗の手がパッと離れた。
「な、なな、なにすんだよ……!」
「へへ、アイスいただき」
心臓がバクバクしてうるさい。真っ赤になった彰良が見たものは、口の端についたアイスを拭って、嬉しそうに笑う侑斗の姿だった。
動揺する彰良とは反対に、余裕そうな侑斗はピースまでして笑っている。一瞬キスされたなんて勘違いした自分が本当に馬鹿らしい。
「ふざけんな!」
「えー、なんかごめん?」
なんだか無性にムシャクシャする。スニーカーを履いた足で侑斗の背中を軽く蹴っ飛ばせば、侑斗はあははと声をあげて笑った。
§ § §
日が沈み、曇りガラスの向こうでリーンリーンと鈴虫が鳴いている。彰良は湯船に浸かりながら、はあと大きく息を吐いた。
「アイツ、ほんとなに考えてんだろ」
昼間のアレは、今思い出してもドキドキと心臓が早くなる。侑斗はどこかマイペースで、いつも一緒にいる彰良でも、何を考えているのか分からない時があった。
お風呂に顔を沈めて口から空気を出せば、ぶくぶくと湯船に泡が踊る。自分ばっかり侑斗のことを考えていて、なんだか腹が立って来た。
「ちょっと彰良ー、風呂長くない?」
「うあ、今出る!」
どうやら考え込んでしまっていたらしい。姉の声に急いで湯船から立ち上がる。パンツとズボンだけ履いてリビングに行けば、家族揃ってバラエティ番組を見ていた。
「この、男だか女だか分からないヤツはどっちの性別なんだ?」
珍しく父親も一緒に観ていたらしい。テレビに映るタレントの一人を指して、顰めっ面をしている。そのタレントは、猫撫で声を出してイケメン俳優に好意をアピールしていた。
「えー? この人は男じゃない?」
「男が男を好きなのは変じゃないか?」
その言葉にドキリとした。変な汗が背中を伝っていく。でも、なんで自分がそんな風になるのか理解できない。
「その台詞はヤバいって!」
「な、なに!? 父さんヤバいのか!?」
「お父さんは古い人だからねえ」
クスクスと笑う母親が、彰良の存在に気がつき振り返る。真っ青になり佇む息子の姿を怪訝に思ったのか、立ち上がり近づいて来た。
「あんた、顔が真っ青じゃない。早く服着なさい」
「うん……」
肩にかけていたタオルを持って、母親がガシガシと頭を拭いてくれる。そんな様子を横目で見ていた姉の彰子が、ふと何かに気がつき顔を上げた。
「あれ? 彰良、その痣どうしたの?」
「え……?」
「ほら、なんか腰のところに薄らとあるヤツ」
言われて下を向けば、確かに腰骨のあたりに、こぶし大のまだら模様に近い痣が浮き出ている。それを認識した瞬間、体温が一気に10度下がったような気がした。
「あらやだ、何処かにぶつけたのかしら」
「なんだ、怪我したのか? 父さんが明日隣町の病院に連れて行こうか」
怪我ならまだ良かった。けれどこれは多分、怪我なんて可愛いものではきっとない。
「全然、大丈夫だから……!」
母親からタオルを奪い取り、自分の部屋まで階段を駆け上がる。痛むなら言うんだよ! と心配する母親の声を無視して、バタンと自室のドアを閉めた。
震える手で携帯を操作する。2回目のコールの後で、その電話は繋がった。
「侑斗……俺、おれ……」
縋るような声が出ていた。なんと言ったらいいか分からなくて、はくりと音もなく口が動く。
『……大丈夫、ちゃんと聞いてるよ。なんかあった?』
彰良を労るような優しい声が耳に届く。それにホッとして、張り詰めていた息を吐いた。どうやら随分とパニックになっていたらしい。
「身体に痣が出ててさ。もしかしたら俺、斑目童子に、呪われたかも……」
『今からそっち行く』
「え!? いや、明日でいいって……!」
侑斗の発言に驚いて止めようとするも、もう既に行動に出ているらしい。繋がったままの携帯の向こうから、バタンと玄関の扉を閉めただろう音が聞こえて来た。
