『斑目童子?』
「山の中に神社があるの知ってる? そこで祀ってる神様の名前」
二階に上がった彰良は、早速侑斗に電話をかけていた。
斑目童子。水子霊を供養している満仔神社が祀っている神の名前。その怒りをかうと、全身にまだら模様の痣が広がり、いずれ呪い殺されるという。
いつも何処か気怠さの残る話し方をする侑斗が、その話を聞いた途端、興奮したように明るい声を出した。
『その神社、行ってみたい!』
「いいけど……明日から夏休みだし、行ってみる?」
7月の最終登校日を終えて、明日から彰良たちは夏休みだ。時間の自由はいくらでもある。
『明日の10時に彰良ん家行くから!』
どうやら本当にオカルトが好きらしい。彰良自身は、幽霊もUFOも信じてはいないのだが……だからこそ、子どものようにはしゃぐ侑斗が、なんだか微笑ましかった。
「可愛いのは……俺じゃなくて侑斗だろ」
そう言って、ベッドに携帯を放って大の字に寝転ぶ。早く明日になればいい。そんなこそばゆい気持ちで、彰良はその日眠りについた。
§ § §
朝の10時、迎えに来た侑斗と連れ立って、町にある唯一の神社に赴く。暑い日差しから身を守るように帽子をかぶったが、うだるような暑さから逃げることはできない。神社に続く長い階段を登り切った時には、もう二人はヘトヘトになっていた。
「もう暑すぎ」
着ているTシャツが汗でびしょ濡れだ。身体に張り付く不快感に侑斗が服を捲り上げる。都会育ちの白い肌に、綺麗な形のおへそ。彰良はなんだか見てはいけないものを見ているような気持ちになって、顔を逸らした。
「え? なに?」
「なんでもない」
「絶対嘘でしょ」
侑斗の言葉を無視して、受付の方まで歩いて行く。幼少期から顔見知りの老婆に声をかけると、カタンと受付の窓が開いた。
「おや……彰坊じゃねぇか。肝試しは中学生までだぞ」
「満ばあちゃんボケちゃったの? 俺まだ中学生だよ」
満仔神社の受付をしているから、満ばあちゃん。彰良の言葉に、満ばあちゃんは少しだけ首を傾げた。
「あんれ? そうだったかなあ……」
「そうそう、だから蝋燭ちょうだい。今日は友だちもいるから2本ね」
「はいはい……」
受付のおばあちゃんを騙して、洞窟探検に必要な2本の蝋燭をゲットする。侑斗を引き連れて神社の奥に進めば、生い茂った緑の中に、ポッカリと大きな穴が口を開けていた。
「雰囲気あるなあ」
「なんだっけ、確かこの洞窟、禁足地ってヤツだって」
「…………それって入って大丈夫なヤツ?」
あんなに行きたいと騒いだくせに、実際に来たら不安がる侑斗がなんだか可愛くて、彰良はふっと小さく笑った。
「ヘーキヘーキ。夏休み期間は、子どもの肝試しスポットとして開放されるんだよ」
「それは禁足地ではないのでは……?」
そんなことを言われたって、幼少期に言われた言葉を覚えているだけで、オカルトに興味のない彰良にはよくわからない。
洞窟の横に建てられた古い看板を指さして、肝試しのルールを読むように促した。所々朽ちてはいるが、ちゃんと読めるようには手入れがされている。
其の一 満15歳以上の人間は、この洞窟に入ってはならない。斑目童子は、大人の事を恨んでいるから。
其の二 手燭台を片手で持ってはならない。もう片方の手を、斑目童子が握ってしまうから。
其の三 蝋燭の火を決して消してはならない。斑目童子がお前に近づいてしまうから。
其の四 蝋燭の火が消えても、絶対に他人から火をもらってはならない。 誰かに火を分けてもらった瞬間、その相手と「同じ罪」を背負うことになるから。
其の五 一緒に入った友人の名前を、洞窟の中で呼んではならない。 呼んだ名前を斑目童子が覚えてしまうから。
其の六 名前を呼ばれても、絶対に振り返ってはならない。斑目童子と目が合ってしまうから。
其の七 祠の周りの人形の数を数えてはならない。 数えた数だけ、後日「足りない人形」の夢を見てしまうから。
其の八 人形と目が合ったと感じても、絶対に謝ってはならない。 謝罪の言葉は斑目童子にとって「罪の告白」であり、罪悪感は斑目童子の糧であるから。
「一応肝試しにはルールがあるから、ちゃんと読んで覚えておいて」
ふんふんと興味深そうに侑斗が看板に齧り付いている。一通り読み終わったところで、侑斗が半目で彰良を見た。
「……其の一から俺たち破ってない?」
「そこはまあ、しょーがないって事で」
だってそれを守っていたら、中に入ることができない。侑斗も好奇心が勝ったのだろう。それ以上反対する素振りを見せなかった。
洞窟前に並べられた手燭台を一つ掴む。先に打ち付けてある釘の先に細長い蝋燭を突き刺せば準備完了だ。
侑斗の顔が、少しだけ赤らんでるのが面白い。彰良を先頭に、一列になって洞窟の中に入った。
「山の中に神社があるの知ってる? そこで祀ってる神様の名前」
二階に上がった彰良は、早速侑斗に電話をかけていた。
斑目童子。水子霊を供養している満仔神社が祀っている神の名前。その怒りをかうと、全身にまだら模様の痣が広がり、いずれ呪い殺されるという。
いつも何処か気怠さの残る話し方をする侑斗が、その話を聞いた途端、興奮したように明るい声を出した。
『その神社、行ってみたい!』
「いいけど……明日から夏休みだし、行ってみる?」
7月の最終登校日を終えて、明日から彰良たちは夏休みだ。時間の自由はいくらでもある。
『明日の10時に彰良ん家行くから!』
どうやら本当にオカルトが好きらしい。彰良自身は、幽霊もUFOも信じてはいないのだが……だからこそ、子どものようにはしゃぐ侑斗が、なんだか微笑ましかった。
「可愛いのは……俺じゃなくて侑斗だろ」
そう言って、ベッドに携帯を放って大の字に寝転ぶ。早く明日になればいい。そんなこそばゆい気持ちで、彰良はその日眠りについた。
§ § §
朝の10時、迎えに来た侑斗と連れ立って、町にある唯一の神社に赴く。暑い日差しから身を守るように帽子をかぶったが、うだるような暑さから逃げることはできない。神社に続く長い階段を登り切った時には、もう二人はヘトヘトになっていた。
「もう暑すぎ」
着ているTシャツが汗でびしょ濡れだ。身体に張り付く不快感に侑斗が服を捲り上げる。都会育ちの白い肌に、綺麗な形のおへそ。彰良はなんだか見てはいけないものを見ているような気持ちになって、顔を逸らした。
「え? なに?」
「なんでもない」
「絶対嘘でしょ」
侑斗の言葉を無視して、受付の方まで歩いて行く。幼少期から顔見知りの老婆に声をかけると、カタンと受付の窓が開いた。
「おや……彰坊じゃねぇか。肝試しは中学生までだぞ」
「満ばあちゃんボケちゃったの? 俺まだ中学生だよ」
満仔神社の受付をしているから、満ばあちゃん。彰良の言葉に、満ばあちゃんは少しだけ首を傾げた。
「あんれ? そうだったかなあ……」
「そうそう、だから蝋燭ちょうだい。今日は友だちもいるから2本ね」
「はいはい……」
受付のおばあちゃんを騙して、洞窟探検に必要な2本の蝋燭をゲットする。侑斗を引き連れて神社の奥に進めば、生い茂った緑の中に、ポッカリと大きな穴が口を開けていた。
「雰囲気あるなあ」
「なんだっけ、確かこの洞窟、禁足地ってヤツだって」
「…………それって入って大丈夫なヤツ?」
あんなに行きたいと騒いだくせに、実際に来たら不安がる侑斗がなんだか可愛くて、彰良はふっと小さく笑った。
「ヘーキヘーキ。夏休み期間は、子どもの肝試しスポットとして開放されるんだよ」
「それは禁足地ではないのでは……?」
そんなことを言われたって、幼少期に言われた言葉を覚えているだけで、オカルトに興味のない彰良にはよくわからない。
洞窟の横に建てられた古い看板を指さして、肝試しのルールを読むように促した。所々朽ちてはいるが、ちゃんと読めるようには手入れがされている。
其の一 満15歳以上の人間は、この洞窟に入ってはならない。斑目童子は、大人の事を恨んでいるから。
其の二 手燭台を片手で持ってはならない。もう片方の手を、斑目童子が握ってしまうから。
其の三 蝋燭の火を決して消してはならない。斑目童子がお前に近づいてしまうから。
其の四 蝋燭の火が消えても、絶対に他人から火をもらってはならない。 誰かに火を分けてもらった瞬間、その相手と「同じ罪」を背負うことになるから。
其の五 一緒に入った友人の名前を、洞窟の中で呼んではならない。 呼んだ名前を斑目童子が覚えてしまうから。
其の六 名前を呼ばれても、絶対に振り返ってはならない。斑目童子と目が合ってしまうから。
其の七 祠の周りの人形の数を数えてはならない。 数えた数だけ、後日「足りない人形」の夢を見てしまうから。
其の八 人形と目が合ったと感じても、絶対に謝ってはならない。 謝罪の言葉は斑目童子にとって「罪の告白」であり、罪悪感は斑目童子の糧であるから。
「一応肝試しにはルールがあるから、ちゃんと読んで覚えておいて」
ふんふんと興味深そうに侑斗が看板に齧り付いている。一通り読み終わったところで、侑斗が半目で彰良を見た。
「……其の一から俺たち破ってない?」
「そこはまあ、しょーがないって事で」
だってそれを守っていたら、中に入ることができない。侑斗も好奇心が勝ったのだろう。それ以上反対する素振りを見せなかった。
洞窟前に並べられた手燭台を一つ掴む。先に打ち付けてある釘の先に細長い蝋燭を突き刺せば準備完了だ。
侑斗の顔が、少しだけ赤らんでるのが面白い。彰良を先頭に、一列になって洞窟の中に入った。
