学校から帰って来て、いつも通り侑斗の家に上がり込む。
侑斗の家は彰良の家から歩いて十分ほどのところにある。ログハウス風のオシャレな一軒家で、専業主婦の母親がいつも手作りのお菓子を振舞ってくれた。
こんなど田舎に引っ越して来たのも、生活に自然を取り入れたいという両親の意向らしい。都会に憧れる彰良には、さっぱりその気持ちは理解できなかった。
「そう言えばさー、アレ、どうなったんだろうな」
「アレって?」
「森にあった死体のこと」
その言葉に、一週間前の記憶を呼び起こす。小さい頃からの彰良の遊び場に侑斗を連れて行ったら、そこに人間の女性の死体が転がっていたのだ。しかし、次の日また確認に行ったら、女性の死体は跡形もなく無くなっていた。
「白昼夢を見たとか?」
「二人同時に?」
出されたプリンを一口食べれば、なめらかな舌触りに濃厚な甘さが口内に広がる。有精卵で作った手作りのプリンなのだというそれは、文句なしに美味しかった。
「でも、そうじゃないと説明つかなくね。ニュースにもなってないし」
こんな小さな町で死体なんか転がっていたら、本当なら大事件だ。けれどそうはなっていない。そう指摘すれば、侑斗はう〜んと唸り声を上げた。
「そっか〜まあそうだよなあ」
残念そうに肩を落とす侑斗を、不思議に思い視線を向ける。そういえばと本棚を覗けば、そこにはUFOや幽霊などのオカルトな本が並んでいた。
「侑斗って、オカルト好きなの?」
「好き。めっちゃ好き」
……別に自分を好きだと言われたわけでもないのに、何故かドキッとする自分がいる。そんな邪念を振り払い侑斗を見ると、少しだけ拗ねたように唇を尖らせて、ソロリと彰良の方を見た。
「……今、ガキっぽいと思っただろ」
「……思ってないけど」
正直侑斗は、彰良などよりも余程大人っぽく見える。とろりと垂れた瞳に左目の下にある泣き黒子が何処か艶っぽく、気怠げな雰囲気も相まって、男子高校生ながらに色気を感じさせた。
オカルトが好きだと言われれば、ガキっぽいというより、何処かミステリアスさを感じて、なんだかグッと来てしまう。
「この前も、小林のヤツにLeinスタンプ笑われたし」
「あの目つきの悪い猫のヤツ?」
「そう」
小林とは、クラスメイトの坊主頭のことだ。野球部で声が大きく、いつもクラスの中心で笑っている。男ならスポーツをすべきだとか、可愛いものを男が持つのはおかしいだとか、時代錯誤なことをよく連呼していた。
東京から来た転校生にクラスの人気を奪われたせいで、少し侑斗を目の敵にしている節があった。
「彰良に似てるからお気に入りなのにさ」
侑斗のその発言に、飲んでいた麦茶が変なところに入って、盛大に咽せてしまう。ゴホゴホと咳き込む彰良を気遣って、侑斗は優しく背中をさすってくれた。
「なに、俺に似てるって」
「似てるじゃん。目付きが悪くて、可愛いところ」
「可愛いって……」
都会育ちだからだろうか。侑斗は可愛いとか、きれいだとか、そういう言葉をよく使った。可愛いは女が使うものだとか、男は男らしくあるべきだとか、そんな古臭い田舎で育った彰良にとって、それはすごく衝撃的だった。
「え、ごめん。いやだった?」
「いやじゃないけど……」
むしろ嬉しいかもしれない。けれど気恥ずかしくて、彰良はその言葉を飲み込んだ。
夜になり家に帰れば、肉を焼くいい匂いが鼻をくすぐる。手を洗い席に着けば、目の前には彰良の好物のハンバーグが並んでいた。
家族四人で食卓を囲み、いただきますをして箸をつける。ハンバーグの大きな塊を口いっぱいに放り込めば、じゅわりと肉汁が口いっぱいに広がった。
「そういえば彰良、あんた今年も肝試しやるの?」
夢中でハンバーグを頬張っている横で、ふと姉が質問をしてくる。肝試しという単語に思考を巡らせながら、口の中のものをゴクンと飲み込んだ。
「あれ、中学生までだろ。俺高校二年なんだけど」
「あー、そういえばそうだった」
姉の言う肝試しというのは、毎年夏休みになると満仔神社で行われる洞窟探検の事だ。全長800mもあ
る洞窟の中を蝋燭を持って歩き回るのだが、なかなかにスリルがあり、子どもたちにとっては夏の楽しみの一つとなっていた。
対象年齢は中学生までなので、彰良は年齢的にもう参加できない。
「大人が洞窟に入ったら斑目童子に祟られちまうからなあ、もうお前らは入っちゃダメだぞ」
「へいへい」
斑目童子とは満仔神社で祀っている神様の名前だ。水子霊を供養する神社らしく、境内には全国から送られてくるたくさんのおもちゃが飾ってあった。
「呪われたら、まだら模様の痣が出て殺されちゃうんでしょ?」
「そうよ。本当に気をつけなさいよね」
まだら模様の痣……それを聞いて、この間発見した女性の死体を思い出す。彰良は食べていた箸を止めると、あ……と小さく声を出した。
あの死体の身体には、服から出ている皮膚全体に、確かにまだら模様が広がっていた。
いてもたってもいられず、ご飯を口の中にかき込んでいく。ご馳走様と言って食器を流しに入れると、二階の自室に戻る為、彰良は急いで階段を駆け上がった。
「なにアレ? 彰良のヤツ、どうしたの?」
「さあ……?」
侑斗の家は彰良の家から歩いて十分ほどのところにある。ログハウス風のオシャレな一軒家で、専業主婦の母親がいつも手作りのお菓子を振舞ってくれた。
こんなど田舎に引っ越して来たのも、生活に自然を取り入れたいという両親の意向らしい。都会に憧れる彰良には、さっぱりその気持ちは理解できなかった。
「そう言えばさー、アレ、どうなったんだろうな」
「アレって?」
「森にあった死体のこと」
その言葉に、一週間前の記憶を呼び起こす。小さい頃からの彰良の遊び場に侑斗を連れて行ったら、そこに人間の女性の死体が転がっていたのだ。しかし、次の日また確認に行ったら、女性の死体は跡形もなく無くなっていた。
「白昼夢を見たとか?」
「二人同時に?」
出されたプリンを一口食べれば、なめらかな舌触りに濃厚な甘さが口内に広がる。有精卵で作った手作りのプリンなのだというそれは、文句なしに美味しかった。
「でも、そうじゃないと説明つかなくね。ニュースにもなってないし」
こんな小さな町で死体なんか転がっていたら、本当なら大事件だ。けれどそうはなっていない。そう指摘すれば、侑斗はう〜んと唸り声を上げた。
「そっか〜まあそうだよなあ」
残念そうに肩を落とす侑斗を、不思議に思い視線を向ける。そういえばと本棚を覗けば、そこにはUFOや幽霊などのオカルトな本が並んでいた。
「侑斗って、オカルト好きなの?」
「好き。めっちゃ好き」
……別に自分を好きだと言われたわけでもないのに、何故かドキッとする自分がいる。そんな邪念を振り払い侑斗を見ると、少しだけ拗ねたように唇を尖らせて、ソロリと彰良の方を見た。
「……今、ガキっぽいと思っただろ」
「……思ってないけど」
正直侑斗は、彰良などよりも余程大人っぽく見える。とろりと垂れた瞳に左目の下にある泣き黒子が何処か艶っぽく、気怠げな雰囲気も相まって、男子高校生ながらに色気を感じさせた。
オカルトが好きだと言われれば、ガキっぽいというより、何処かミステリアスさを感じて、なんだかグッと来てしまう。
「この前も、小林のヤツにLeinスタンプ笑われたし」
「あの目つきの悪い猫のヤツ?」
「そう」
小林とは、クラスメイトの坊主頭のことだ。野球部で声が大きく、いつもクラスの中心で笑っている。男ならスポーツをすべきだとか、可愛いものを男が持つのはおかしいだとか、時代錯誤なことをよく連呼していた。
東京から来た転校生にクラスの人気を奪われたせいで、少し侑斗を目の敵にしている節があった。
「彰良に似てるからお気に入りなのにさ」
侑斗のその発言に、飲んでいた麦茶が変なところに入って、盛大に咽せてしまう。ゴホゴホと咳き込む彰良を気遣って、侑斗は優しく背中をさすってくれた。
「なに、俺に似てるって」
「似てるじゃん。目付きが悪くて、可愛いところ」
「可愛いって……」
都会育ちだからだろうか。侑斗は可愛いとか、きれいだとか、そういう言葉をよく使った。可愛いは女が使うものだとか、男は男らしくあるべきだとか、そんな古臭い田舎で育った彰良にとって、それはすごく衝撃的だった。
「え、ごめん。いやだった?」
「いやじゃないけど……」
むしろ嬉しいかもしれない。けれど気恥ずかしくて、彰良はその言葉を飲み込んだ。
夜になり家に帰れば、肉を焼くいい匂いが鼻をくすぐる。手を洗い席に着けば、目の前には彰良の好物のハンバーグが並んでいた。
家族四人で食卓を囲み、いただきますをして箸をつける。ハンバーグの大きな塊を口いっぱいに放り込めば、じゅわりと肉汁が口いっぱいに広がった。
「そういえば彰良、あんた今年も肝試しやるの?」
夢中でハンバーグを頬張っている横で、ふと姉が質問をしてくる。肝試しという単語に思考を巡らせながら、口の中のものをゴクンと飲み込んだ。
「あれ、中学生までだろ。俺高校二年なんだけど」
「あー、そういえばそうだった」
姉の言う肝試しというのは、毎年夏休みになると満仔神社で行われる洞窟探検の事だ。全長800mもあ
る洞窟の中を蝋燭を持って歩き回るのだが、なかなかにスリルがあり、子どもたちにとっては夏の楽しみの一つとなっていた。
対象年齢は中学生までなので、彰良は年齢的にもう参加できない。
「大人が洞窟に入ったら斑目童子に祟られちまうからなあ、もうお前らは入っちゃダメだぞ」
「へいへい」
斑目童子とは満仔神社で祀っている神様の名前だ。水子霊を供養する神社らしく、境内には全国から送られてくるたくさんのおもちゃが飾ってあった。
「呪われたら、まだら模様の痣が出て殺されちゃうんでしょ?」
「そうよ。本当に気をつけなさいよね」
まだら模様の痣……それを聞いて、この間発見した女性の死体を思い出す。彰良は食べていた箸を止めると、あ……と小さく声を出した。
あの死体の身体には、服から出ている皮膚全体に、確かにまだら模様が広がっていた。
いてもたってもいられず、ご飯を口の中にかき込んでいく。ご馳走様と言って食器を流しに入れると、二階の自室に戻る為、彰良は急いで階段を駆け上がった。
「なにアレ? 彰良のヤツ、どうしたの?」
「さあ……?」
